助言
「よし、それでは説明しよう」
みんなで控え室へ移動し終え、全員を椅子に座らせてから説明を始めることにした。
「先生! 質問がありまーす」
「何ですかエリー?」
「実際にやってみたりはしないんですか」
「良い質問ですねー」
「ふざけてねーで普通に話せよ」
ゲイルめ、冗談の通じない奴だ……まあ言われたとおり普通に説明するか。
「そうだな。実際に……と言いたいところだがどうやら木刀はおいていないらしいからな……綾瀬、自前の刀は持っているか?」
「一応あるけど……?」
「構えろ。指摘した方が早い」
「う、うん」
綾瀬は椅子から立ち上がると刀を抜き下段に構えた。俺も刀を取り出して正眼に構えた。
「……この段階ですでに綾瀬が不利となっている」
「え!? まだ構えただけじゃ……」
「その時点で癖が出ていると言うことだ。お前は構えた時刀の切っ先が俺の正中線よりわずかだが左足側に向かって延びている。この時点でお前の次の動きは手首を返し、俺の左足から右肩へかけての切り上げ、もしくは俺の刀を払い上げてからの一太刀の二つに限定しているとわかってしまうわけだ。恐らくだが、そういう技があるのだろう?」
「……構えを見ただけでそこまで……」
綾瀬は努めて冷静を保とうとしていたが、手がわずかに震えていた。相当に驚いているようだな。
「それらの技に馴れてしまったからこその癖だ。別に恥じる程のことでもない。そこまでではないが、それでも俺ならば駆け引き次第では一太刀は浴びせられるだろうな。ただし、それ以上の相手では駄目だ。さくらならわざとお前に先手をとらせて後の先をとれるし、あの……、……俺と同じ部活の先輩ならばお前が構えた瞬間に喉を貫けるだろう」
次の一手がわかるのだからその技に対しての返し技を仕掛ければ安全に倒せるし、それをかわされても俺の方が有利だろうな。俺相手ならばその程度で済むが俺の部下にいる剣豪達ならば瞬殺されるだろう。まあ、学生にそこまで求めるのも酷な話だが。
「先輩というとあの女か」
「お前先輩をあの女呼ばわりするなよ」
「貴様も言いかけただろう」
「いや、俺が言い掛けたのは……まあ、それはどうでも良いだろ」
危なかった……ついあの女呼ばわりしようとしたのは俺の部下の事だと言いかけてしまった。こいつらは鼎の事なんて知らないし、俺に部下がいるとか説明するのも面倒だからな。
「お兄様……どんな方なんですか? その先輩という女性は……」
「まあ、一言で言うなら……沸点の低い方だな。少し挑発しただけで俺に真剣突き立ててきたからな」
そのお陰で綾瀬の流派を間近で見られた訳だが。
「お兄様に剣を!? なんという……」
「俺が先に挑発したんだからな?」
「ですが!」
「ていうか何先輩に喧嘩売ってんのよあんた。部活内の秩序を考えなさいよ」
……しっかりとあの空気を考えたら、あれ以上滅茶苦茶になっていただろうな。そう言えばあの人達はクラウディア部長からどれぐらい怒られたのだろうか? 器物損壊までしたからな……想像したくないな。俺も責任取らされそうだな……俺から挑発したんだし。平謝りするしかないか。
「いや、あれは空気を読んだからこその挑発だな。こいつが言わなければ私が言っていたな」
「はあ!? 空気を読んだからこその挑発ってどんな空気よ!? いやそれは想像つくけど真剣突き立てられるならやり過ぎって事じゃない!」
「それは複雑な事情があるんだよ! ……それより綾瀬、何か質問はあるか? 他にも癖はあるが、そう簡単に直せるものではないからな……まずはそれを直せ。基本の構えも出来ないようではこの先生きのこれないぞ」
話が反れそうだったので無理やり修正し直した。
「ありがとう。勉強になったよ。……そうか、基本が出来てなかったんだね……」
「一応言っておくが、落ち込む程の事でもないぞ?」
「いや、いいんだ。昔姉さんにも基本が出来てないって言われ続けたからね。やっとわかったよ。姉さんが指摘していたことが……」
「そ、そうか」
……いつ言われたのかは知らんが、どう出来ていないのか説明しなかったのか? こいつ本当に道場に通っていたのか?
待てよ? こいつの目的って確か姉を探すことだったよな? ということは今思い出話しているのか? 返答に困る話題だな……そっとしておいた方がいいのか?
「そ、それで!? 次はその武器で戦うの!?」
「え!? ああ、そうだな! 次はこれで……でも次の相手は双子らしいから双剣でもいいかもな」
エリーが空気を変えようと話題を振ってきたが、若干どもってしまった。
「あ! 良いんじゃない!? はははは……」
「そうか、それなら衣装を運んでこよう」
今回ばかりはオリヴィエの用意した衣装に感謝だな。




