食事中の会話
「そろそろ控え室に戻るか。お前達はどうするつもりだ?」
次の試合までまだ余裕はあるが、話し合いをするなら控え室でしたほうが何かと安心だからな。
「私達はもう少しどこかで時間を潰すつもりだ。それより随分と慌ただしく戻るんだな?」
「着替えに時間が掛かるかもしれんからな。それに戦術の組み立ても控え室でやった方が情報漏洩も防げるからな」
「情報漏洩だと? ここにいる誰かが情報を売ると言うのか?」
「現時点で情報は流れているだろう。この店の何人が俺達の会話に聞き耳をたてていると思っている?」
この一言で店内の雰囲気が少しだけ変化した。
「え!? 今この会話を!?」
「それをわかった上で今までの話をしていたのか……?」
「だから聞かれたら困る内容については何も言ってないだろう? げんにお前達に関することは弱点についても何も言ってない訳だしな」
「……弱点?」
ルミナスが訝しげに眉をひそめた。どうやら俺の言葉を信用していないらしい。このままだと準決勝まで進出は出来そうにないな。さて、どうしたものか……別に損得勘定無しに教えても良いか。
「そうだ、ここでいえることではないがな」
「ちょ、ちょっと待て! 私達に弱点があるだと!?」
「ああ、……そうだな、お前達も一緒について来い。どういう事か教えてやる。それともここで聞くか? どうせ上位陣には気付かれているだろうからな」
「そんなにはっきりとわかったのかい?」
……綾瀬の表情は剣呑としたものだったが、どこか観念した表情とも読めるものだった。おそらくだが自覚があるようだな。
「ある程度の技量の持ち主なら当然見抜いていると考えた方がいいな。綾瀬……お前のその剣術には癖がある」
「癖?」
「そうだ。その癖を直さない限り必ず致命的な反撃を受けることになるだろうな。次どんな技がくるのかわかってしまうのだから当然と言えば当然だな。例えば俺ならばお前が斬りかかる瞬間に十手で刀を叩き落とす事も容易に可能になるし、さくらなら一太刀目を一歩ひいてかわし、その後易々と斬り伏せる事が出来るだろう」
「わ、私ですか!?」
さくらが大きな声を出しながら俺に聞き返してきた。
「ああ、お前なら出来ると思うぞ。と、言うより一通り見た限りだとお前以上に腕の立つ剣術の使い手はいないな。本気を出していない奴もいるから一概には言えないが」
「そ、そんな、私なんてまだまだですよ……」
さくらは顔を赤くさせながら謙遜している。照れているのもあるがそもそもの性格が謙虚なのだろうな……俺と違って。
「へー、そんなに凄いんだ?」
「ああ、一緒に稽古したことがあるから良くわかる。お前見たことなかったか?」
確か稽古中にこいつが俺達の事を眺めていた事があったはずだ。
「遠目ではみたことあるわね……眠くてよく見てなかったけど」
「じゃあ何で見にきたんだ? 寝てろよ」
「寝てろって何よ!? 可愛い女の子が見学してるんだから喜びなさいよ!」
「いや見てないなら見学してないだろ」
今さり気なく自分を可愛い女の子と言ったな……なかなかいい性格をしているな。
「と、とにかくよ! 私にはよくわからなかったわ」
「傍目にはわからないかもしれないが、相当なものだぞ? 回し蹴りを受けた時は完全に胴ががら空きになったからな。試合だったら一本取られていたな」
「ま、回し蹴り!? さくらそんな事出来るの!?」
「いや、あの……それは、咄嗟のことだったのでつい……」
つい反射的に回し蹴りが出来るのだから相当な修練を積んでいるのだろうな。
「蹴りなんてありなのかよ……」
「今は反則だが、昔はありだったんだよ。綾瀬のところは反則になるのか?」
「え? うーん、一応ありだったけど……ほとんどやる人はいなかったかな」
「まあ危険だからな」
確か資料によると小規模の道場に通っていたらしいが……一応とはいえ有効だとはな。安全面からとっくの昔に廃止されたと思っていたがやはり一部ではまだ続いていたか……小規模だからこそ続けられたのか。
「それにしても意外ね……さくらがそんなに遣り手だったなんて、これから気軽に悪戯出来ないわね……」
悪戯してたのか……いったいどんな内容なんだ?
「それで、癖の事は……流石に場所を代えて教えよう。控え室までついてきてくれ」
みんなで控え室へ移動することになった。もっとも俺が癖を教えられるのは見本を目の前で見たことがあるからで、比較して気づくことが出来ただけだが……剣の才があれば一目でわかるのだろうな。




