昼飯
とうとう記念すべき百話です。
これからも頑張ります。
「……これは驚きました! 足元に置いた手槍を蹴り飛ばしました! それだけならばともかく、驚きなのは手槍が空中で破裂! その破片が相手選手へ襲いかかった事です!」
「飛び散った破片があれほどの威力を持つとは……どれほどの力で蹴り飛ばしたんだ?」
「私もあんな技をみたのは初めてだ。上杉、お前なら何か知っているのか?」
「……確かに、あの技については知っています。しかし、何故彼がこの技を知っているのか? いつどこで修得したのかは予想も出来ませんね」
別に大した理由はない。直接本人から教えてもらっただけだ。あいつ等の自称するトゥアハ・デ・ダナーンと我々が自称するダヌーバはどちらもダヌの子供達という意味だからな。要するに母親の名前が偶然同じだから意気投合しただけだ。もっとも俺の場合は育ての親の名前だが。
「試合終了だ。控え室に戻るぞオリヴィエ」
「ああ」
粉々になった槍は回収不能になってしまったので武器を持たないまま会場から足を運んだ。次の試合までには係員が掃除し、廃棄されるのだろう。
控え室に戻るとすぐに着替えを済ませて外を出歩くことにした。二回戦が始まるのは昼飯を食べ終わった後だからだ。次の試合までには時間が空いているが、そこからは参加選手が少なくなるので一気に進むことになる。なにせ午後だけで三試合も消化するのだからとんでもないハードスケジュールと言えるだろう。
「あ! 天蓋! 本選勝利おめでとう!」
「……綾瀬? なんでお前達がこんなところに、試合はどうした?」
「試合ならこっちももう終わった。これから隼人と食事にしようとしていたところだ」
「その顔を見るに、勝ち上がったらしいな」
確かに綾瀬もルミナスも上機嫌な顔をしている。袖に焦げ目がついている事を除けばいつも通りの様子だ。このことからこの二人は試合を終えてから着替えておらず、さほど苦戦せずに試合を制したことがわかる。
「当然だろう。あの程度の相手に苦戦しているようでは話にもならん」
「ははは……あ、そうだ! よかったら一緒に食事でもどうかな。オリヴィエも」
「なんだと⁉」
俺やオリヴィエが返事をする暇もなくルミナスが綾瀬に聞き返していた。
「どうしたのニーア?」
「どうしたではない! 私はお前と二人きりで食事をだな……」
「これからの戦略を考える必要もあるだろう? そういう意味でも俺たちはあまり馴れ合わない方が無難だと思うがな」
「その通りだ! 私達は二人のこれからについて話し合う必要があるのだ! 他の者と、増してやいずれ戦うかもしれない相手と一緒に食事をするわけにもいくまい!」
そういうことを大声で言うと野次馬が集まるし、情報収集している奴や、偵察している生徒に後をつけられることになると思うんだが……どうやらそこまで頭が回っていないらしいな。
「おい、今の声って」
「うん、あの二人だね」
「あいつらこんなところで何騒いでんだ?」
よく聞いたことのある声での会話が聞こえてくる。そして人混みをかき分けながら、よく見知った顔が出てくる。
「お前ら……観戦してなくて良いのか?」
「天蓋! お前も一緒にいたのか? ……もしかしてこの騒ぎってお前が原因か?」
「……俺もその原因を担っているとだけ答えておこう」
「そうかいそうかい。それで? なんで騒ぎになったんだ?」
何でと聞かれてもこいつが勝手に騒ぎ始めた訳だから説明できんな。
「大した事ではない。これから私と隼人が二人で食事をだな」
「お、じゃあ俺たちも一緒に良いか?」
「いや、だから……」
「うん! 勿論だよ」
俺達とこいつらが一緒に食事するのは問題があると説明しようとしたが綾瀬の二つ返事に遮られてしまった。そのため俺達も巻き込まれる形になって近くのレストランまで移動することになった。
「ここだよここ。おすすめのレストランは」
「そんなに旨い店なのか?」
「ああ、そのうちエリー達も合流してくるからそれまで待っていようぜ」
数分ほどそこら辺をウロウロしていると全員集まってきた。初めは綾瀬達が一緒にいることに驚いていたが、ゲイルが事情を説明すると露骨にため息をしながらルミナスに謝ってからレストランに入ることになった。
「本っ当にごめんね? こいつ空気読めないから」
「いや、気にしていない」
「おいエリー、何で俺が空気読めないんだよ? 俺はただみんな一緒にメシを食おうって言っただけだぞ?」
まあ、間違ったことではないんだよな。それだけに文句も言いづらい。
「それが空気読めてないって言ってんのよ! 二人っきりで食べさせてあげなさいよ? せっかくのイベントなのよ?」
「はあ⁉ だからみんなで思い出を作ろうって思ったんだろうが!」
「お前ら、レストランではもっと静かにしろ。他の客に迷惑がかかるだろうが」
恐らくこれ以上口論を続けても平行線だと思い、いったん話を遮ることにした。
「ま、こうなった以上仕方ないわよねー」
「それよりメニューを見ろ。いくら早めの食事とはいえ、これから混むだろうからな」
「それもそうね」
俺達はすぐに注文を決めて、ウェイトレスに話しかけた。しばらく待つと注文した料理が運ばれ、それを食べた。
「そう言えば聞きたいことがあるんだけどよ」
「やはり気になるか?」
「そりゃそうだろ」
「やっぱりこの店のウェイトレスのスカートの丈は短すぎるよな? まさかそういう意味でおすすめなのか?」
一瞬で空気が凍り付いた。なんだ? 俺何か変なこと言ったか? しかしいくら何でもあれは短すぎると思うんだが。
「それじゃねえよ。お前が試合でやった必殺技ってやつのことだよ」
「ああ、なんだそんなことか。それがどうした?」
「どうしたって……何なんだよあの技は? 見たことも聞いたこともねえぞ?」
「そりゃそうだろ。友達から教えてもらった技なんだから」
この世界では使用されたことのない技のはずだ。当然聞いたこともないはず。
「教えてもらった? どんなやつなんだ?」
「一言で言うなら英雄だな。クーフーリンって言うんだが」
「空風鈴? お前英雄の友達がいるのか」
「発音が違うと思うが、まあそうだ」
「そうか、それであの技ってどういう技なんだ?」
どういうって聞かれても槍を蹴り飛ばして当てる技だが。
「見ての通りだ」
「なんで空中で破裂するんだよ?」
「知らん。そういう技だからだ」
もっとも破裂するタイミングが異なるバージョンもあるらしいが、それはいくらなんでも殺傷能力が高すぎるため自重した。なにせ相手にぶつかったタイミングで炸裂し、内臓を滅茶苦茶にするために編み出された派生技だからな。
「教われば誰にでも使えるのか?」
「教わることが出来ればな。俺だって相当フォームを指摘されて出来るようになったからな。俺から伝えることは出来ないな」
「そ、そうか」
残念そうだな。しかしあの技は槍でしか発動出来ないし、強度を無視して槍一本を粉々にする技だからあまり勧められる技でもないがな。
「それで次の相手の対策は出来てるの?」
「……一応な。後はどの武器で挑むかだが」
「それならば今全員がいるうちに決めておこう」
始まったよ。例の衣装ありきで決定するあれ。面倒この上ないな。




