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カメさんの回想
俺が十のころに生まれた、宿屋の銀治郎さんの一人娘である嬢ちゃん。
2つか3つの頃になるとトコトコと俺の後ろを付いて回るようになり、毎日のように遊びに来ては、忙しく働く銀治郎さん達に代わって、遊び相手をさせられていた。
近所の同世代の子たちと遊ぶこともなく、ニコニコしている嬢ちゃんは何時からだか俺を“カメさん”と呼ぶようになった。
初めて呼ばれたときは、舌足らずで“カメしゃん”だったけ……
そんな嬢ちゃんも今や、近所でも有名な美人な娘へと成長した。
「あ!亀さん、会いに来てくれたの」
嬢ちゃんは若草色の着物に身を包み、綻ぶような笑顔で迎えてくれる。
今や、町でも有名な看板娘となった嬢ちゃんを目当てに多くの客が入っているようだった。