漫画の世界らしいです。
皆さんご機嫌よう。
私は雨埜院 春風と申します。
私の家は平安時代から続く由緒正しき家柄でございます。
私、前世の記憶というものを持っております。
前世でここは漫画の世界でした。
私は漫画の世界に転生したのです。
そして最近よくあることだそうですけど、私のこの世界での役割は、主人公とその恋人との仲を妬む悪役令嬢らしいのです。
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最初にここの世界観について説明しますと、ここは和風ファンタジーとでも言いましょうか。
妖怪やら陰陽師やらが出てきます。
ヒロインの名前は佐々野 雪と言います。
佐々野さんはある日妖怪に襲われます。
この時、襲われた佐々野さんを助けるのが私の婚約者でありメインヒーロー、雷鹿院 折鶴様でございます。
珍しく強い妖怪で雷鹿院様が苦戦していた時、佐々野さんが応援の言葉をかけます。
するとどうでしょう、雷鹿院様の力はどんどん大きくなったのです。
佐々野さんは言霊使いと呼ばれる希少な種類の人間でした。
言霊使いは後天的なものですので発見が難しいと言われております。
これを機に佐々野さんは対妖怪術向上兼人物育成学校、通称人育の高等部に転入してくるのです。
いろいろあって雷鹿院様は佐々野さんに惹かれ、佐々野さんも雷鹿院様に惹かれていきます。
ちなみに私の弟、春雨も当て馬役として登場します。
しかし、ここで私という壁が立ちはだかるのです。
もともと私たちの間の婚約という関係は、次代に力の強い子を残すことを目的として結ばされたものです。
そこに恋愛感情なんて存在しなくていいのです。
漫画の春風は優しい雷鹿院様を好きになります。
特にライバルもいなく(婚約まで結んでいたら普通はライバルなんて現れませんもの)、順調にいっているかのように見えました。
そこに現れたのが佐々野さんです。
雷鹿院様だけでなく弟の春雨も佐々野さんを好きになるものですから、春風の心は嫉妬でいっぱいです。
そして春風の嫉妬心は膨れ上がり、とうとうアヤカシにとりつかれてしまうのです。
そんな春風を雷鹿院様と佐々野さんはもとに戻そうとします。
私たち雨埜院家は水を使って妖怪を滅します。
対して雷鹿院家は雷を使って妖怪を滅します。
水と雷ですので雨埜院と雷鹿院様が戦うと雨埜院が不利になのです。
長い戦いの末、春風からアヤカシが滅されますが、長い間アヤカシにとりつかれ体力がなくなっていた春風は瀕死間近です。
そんな中、春風は自分がいかに雷鹿院様を好きだったのかを語り、その後2人に祝福の言葉をかけて目を閉じるのです。
もちろん少女向け漫画ですから春風は死にません。
ですが雨埜院の人間にとってあるまじき行為だといって、当主である父に家から出ていくように言われるのです。
そして春風は前当主である祖父のところで1からやり直すことになります。
その一方で佐々野さんと雷鹿院様はクリスマスを迎え、雷鹿院様が佐々野さんにプロポーズして物語は完結します。
これだけ見ると春風は全然バッドエンドではありません。
むしろ雨埜院家のプレッシャーから逃れて万々歳です。
しかし、考えてみてください。
前世では使えなかったのに、現世では水限定ですが、魔法のようなことができるのです。
楽しくないわけがないでしょう!
確かに妖怪に襲われたり戦ったりして失われた命はたくさんあります。
私だって運が悪ければ死ぬかもしれません。
死ぬのは嫌です。
ですが1度前世で死を経験している私としては、そんなのは些細なことなのです。
それに前世、現世があるということは来世もあるはずです。
そう、死ぬことが怖くない私にとって怖いモノなど何もないのです。
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…どういうことでしょうか。
私は何故か普通に雷鹿院様の婚約者になり、普通に雷鹿院様とジンイクに通うことになり、普通に雷鹿院様と良好な関係を築いております。
なぜでしょう。
確かにこの魔法のような力を使いたいとは思いました。
ええ、そうするにはジンイクに入って学ぶのが1番効果的です。
ですが私は雷鹿院様と婚約者になるつもりも良好な関係になることも、望んだことなど1度もないのです。
「春風、ボケッとしてないで手伝ってよ!」
まして佐々野さん、いえ、雪さんと仲良くなって一緒の班で妖怪と戦うことなんて誰が予想できたでしょう。
「おい佐々野、何ハルに手伝わせようとしてるんだ」
あ、雷鹿院様です。
「何って、私の言霊で弱らせたところで春風の水攻撃、トドメにライカの雷攻撃って作戦だったじゃない!」
「そんな作戦は却下だ。
第1ハルを危険な目にあわせていいと思っているのか?
だとしたら貴様はどうしようもない馬鹿だな。
俺の可愛いハルに傷がついたらどうしてくれる?
…大丈夫だ、ハル。
ハルのことは何がなんでも俺が守ってやるから」
「いえ、私自分のことくらい自分で守れま…いえ、なんでもないです。
らい…折鶴様、そろそろ妖怪を滅してくださいませ」
「ハルの頼みだ、勿論聞いてやる。
すぐに終わらせるから、これが終わったらご褒美、な」
「いい加減はーやーくー来ーてー!
ガチで私襲われちゃうから!」
…なんだかんだでこの2人といるのは楽しいです。
ですが折鶴様が私に戦わせてくれないので、私は力が使えず少し欲求不満です。
「ハル、終わったぜ。約束のご褒美くれよ」
本当に、すぐに終わりましたね。
私が戦う暇もないくらい。
「では、折鶴様」
折鶴様が言うご褒美、とは私が折鶴様の頬にキスすることです。
…私だって馬鹿じゃありません。
こんなことを小さな頃からやらされているのですから、折鶴様が私を好きなことくらい分かります。
本人も隠すどころかむしろ全面に押し出しているくらいですし。
「ハル、好きだ」
この言葉も小さな頃から言われ続けています。
「あーもー、私もいるんだから、そういうのは2人っきりのときにしてって言ってるじゃんかー。
…じゃあ、今週の当番は私だから、学校に報告行ってくるねー。バイバーイ!」
私と、折鶴様の2人きりになりました。
「では、私たちも帰りましょうか」
「なあ、ハル。ハルは俺のこと好きか?」
…そろそろ聞かれるとは思っていましたが、いきなりですね。
「俺はハルが好きで好きで仕方がない。
愛してるって言っても嘘じゃないほどハルが好きだ」
「私は…折鶴様のことは友人としてなら好きです」
「…ははっ。やっぱりなー…。
いや、いつかハルに俺を愛してるって言わせてやるからな」
はい、それ1ヶ月前にも聞きました。
「よし、じゃあ帰るか」
「そうですね」
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「折鶴様、好きです」
帰り道、折鶴様に聞こえないくらいの声量で、私は勇気をだして言いました。
いつか本人に面と向かって、大きな声で言いたいです。
途中までネタがうかんだから書いけど、勢いだけだったから最後の終わりかたがイマイチ…(×_×;)