004ページ 魔王様、出かける
城の左右背後は断崖絶壁。というか外壁が崖になる手前に建てられて、空から見たらいびつな形。で、内側に城作りましたって感じ。残りは庭とか離れとかになっている。
その庭には警備の魔獣がウヨウヨしてて「ご苦労さん」って声掛けたら、軽く見渡した位の範囲で全員片膝着いた。
いやあビックリした。ザッて音が出たもんな。揃いすぎだろ。
で、城門を過ぎたら今度はうねった崖道を下る。やっぱり警備の魔獣がたくさん。ふと見上げると飛行型も旋回しまくり。
そういえば城には尖塔があったから、多分あそこ発着場になってるはず。今度乗せてもらおっと!
そうそう、やりたい事が多くて忘れそうだけど、パシャちゃんに質問がてらコミュニケーション取るぜ。
「パシャちゃん、属性について詳しく教えてくんない? 種類とか段階とかあると予想してるんだけどね」
「はい。仰る通り、属性は火、水、風、地、光、闇、力、時に別れております」
「最初の六つは分かるけど、『力』と『時』って?」
「力属は、単純に肉体が持つ腕力ですとか、脚力ですとか、後は魔力を指します。時属は、時間や運を指します。これだけあまり解明されておらず、これ以上の詳細は分かっておりません。一説によると、歴代の王陛下は属性による弱点を持っていないそうなので、時属性なのではとも言われております」
うん、一理あるかも。私は転生…かも思い出せてないんだけど、ざっくり日本人だった記憶はある。それから魔王だけが持つという変換能力も、力属か時属位しか当てはまらないしな。
「で、えっと、火と水、風と地、光と闇は相克関係?」
属性と弱点言ったらもうファンタジーの定番ですよね分かります。
「力属性持ちって具体的にどんなの?」
「先程挙げた腕力ですとか脚力ですとか、特定の部分を強化できる場合が多いですね。魔力ですと、普段出力を抑えて戦闘時だけ最大魔力量を上回るように出来るそうです」
「自分に対してしか効果がない属性なのかな?」
「いえ、自分のみにしか効果がないのは下層段階だからです。中層や上層段階に『層上がり』すれば新しい魔法を覚えられますし、既に覚えている魔法については任意の相手、範囲、条件等の追加効果が得られます」
つまりレベルの問題なだけか。
「力属の能力は補助が多いですね。中層上層になっても範囲や条件の追加効果が主です。それでも弱体化や硬直化は長期戦では厄介ですし邪魔な効果ですね」
「魔物はより強く属性に影響されるんだよねえ。だから弱点になる。じゃあ人間は? 属性持ってる?」
「持ってるようですよ。使える魔法が属性と関係するのだとか」
あ、これ詳しく知らない系だな。
さて、下り坂が終わると今度は森が出現する。城から見ただけでもすごく広くて、森というか、丘というか…大森林?
いやあ、勇者様ご一行が来る時はホント大変そう。
「ここまで来てからでなんだけど、パシャちゃん向こう側に抜ける道知ってる?」
「はい、知ってますよ。何度も往復しておりますから」
「助かる。そういえば護衛も兼ねてるんだっけ?」
「より正確に言いますと、護衛と、密偵や伝令を兼ねているのです。見ての通り飛行型ですから」
納得。夜空に白い色ってのは難点だけど、見た目フクロウだから夜行性なのは間違いないもんね。
そんなパシャちゃんの案内で森に足を踏み入れる。
当然なんだけど、木と木が自分の遥か頭上で枝を伸ばして葉を付けていて、それが重なり合って、陽光を遮っている。太陽が昇っている時間だというのに薄暗い。
しかも魔王城のすぐそばだから間違いなく魔物の巣。視界が開けているのでは困るだろう。さっきから姿は見えないけど視線だけはビシバシ感じるしな!
戦闘の跡なのか地面は結構デコボコしている。倒木もチラホラ。それをピョイコラと飛び越えている自分がいるわけなんだけど、体が羽のように軽い。重さが無いみたいだ。
城の中は、バラン君が「私の魔力が満ちる~」って言ってたから納得なんだけど、ここら辺も私の魔力の影響下にあるせいでこんなに身軽なんだろうか?
「属性の話の続きなんだけど。一人に一属性なのかな?」
「基本はそうです。ただし先程の弱点…えと、相克とは別に、八属性は干渉しあいます。より干渉しやすい属性が基本属性の他に二つある為、干渉属性を使える場合もあります」
なるほど。矢印で隣り合って相克するんじゃなくて、輪になって隣り合った属性と干渉しあって、さらに相克関係も持っているのか。
パシャちゃんの干渉属性話をまとめると、こう。
風 力
火 水
光 地
時 闇
力属と時属は相克しない属性なんだって。でも干渉属性には入る。
ここまでの話を聞いて…魔王って力属なんじゃないかなって思うんだけど。あの魔力変換能力はどう考えても力属だもんね。
それとも、この隣り合うって属性の考え方が違うって線も…。
だいたいにして時属がよく分かってないから干渉属性に混ぜていいか微妙だよね。闇属と光属が使える人なら干渉属性だから時属使えるはずなのに、不明って。存在してるのかも怪しいな。
そういえば無属性ってのが出てないや。属性ありきで考えるこの世界の人には思いつかないのかも。そうなると魔素についても調べる必要があるなあ。
これも今後人間に魔法と属性の話を聞いてからの推考だな。超楽しみ!
「にしても…歩くの飽きたな」
良かれと思って徒歩にしたんだけど、ね。
「では足となる魔獣を呼びます。お待ち下さいね」
と、パシャちゃんが肩の上から頭上に飛び立った。「ホアアアアアアアア」と甲高い声音を発生してしばらく待つと、何かが来る。
「馬…、軍馬か」
黒い体に八本の足。紫のたてがみに赤い瞳が禍々しい。結構デカイな。体重が五百キロ前後ある競走馬と、一トン近くあるという北海道のばんば馬の間位だろうか。
私がチビだか(以下略)。
「左様でございます、新王陛下。無事のお目覚め、お喜び申し上げます。閣下、お呼びに従い参上致しました」
閣下ってパシャちゃんの事か。てことは、彼は部下? パシャちゃん結構地位は上なのかな? でも護衛・密偵・伝令ってそんな高位じゃないはずなんだけど。
パシャちゃんが私の肩に戻ってくる。「さ、どうぞお命じ下さい」とこしょっと話してくれるんだけど可愛いぞコラ。
「急に呼び出しといて悪いんだけど、森を抜けるまで乗せてくれない?」
「尊き御方を我が背に乗せるられるとは、望外の喜びです。喜んで拝命致しましょう」
小難しい言葉遣い知ってるねしかし。ていうか、さすが魔王城のお膝元。軒並み魔獣だよ。
そんな訳で小柄な私だが、乗るのは苦労しなかった。例の、羽のごとき軽さの跳躍で背中に乗る事が出来たのである。足で馬体を挟んで固定、たてがみをむんずと両手で掴んで「いいよ」と合図。
「参ります」
ぐん、と引っ張られる感覚。だが、思ったほどじゃない。何よりむき出しの頬に叩きつける様な風を感じないのですぐに気付いた。
「もしかして彼は風属かな?」
私の腕の間にちょこんと…座ってるのか? とにかく、パシャちゃんが答えてくれる。
「そうです。この者は乗り手に風の結界を張り、自身は最速で走る。それができるので選びました」
「私に乗馬の経験はないから助かるよ」
「もったいないお言葉。陛下をお守りするのは当然のことです」
んもぅ可愛いなあ…! ドヤァって感じで体を膨らませるフクロウ。撫でたいけど一応両手はハンドルから離さな~い。
いやしかし速い。周りの景色が横線です。たまに倒木やら根っこを避けているのか上下にもなるけど。
「そうだ、喋れるから今のうちに、パシャちゃん」
「はい? 何でしょうか」
「これから私は人間の少年のフリをするから、君はただのフクロウのフリをすること。喋ったらだめだからね。できれば人の目がある場所での内緒話も避けよう」
「御意」
「それから私のことも『陛下』と呼ぶの禁止。場所柄、疑われる」
「そ、それは、その…ぜ、善処します」
「設定はね。私は森に捨てられた子供で、運良く魔獣に育てられてきた。言葉が話せるのも魔力が高いのもそのせい。最近育ての魔獣がいなくなったので森から出てきた。君はいつも私と一緒に居てくれるフクロウ。鳴くだけだから魔物なのか魔獣なのかは分からない」
「分かりました。ええと、その…ご主人様」
良い子やね。
「そうなると私も…違う。僕も世間知らずなふりをしないといけないね。ふりというか、実際世間知らずなのだけど」
そう、もうひとつ気になる事があった。
「ああ、僕の名前の事なんだけど。人間は名乗りを上げるものだから、」
「いけません!」
突然パシャちゃんが大声を張り上げた。が、僕が驚いたのに気付いて「失礼致しました」と謝る。
「ご主人様より格上の存在などおりません。ですから、お名前は、たとえ人間の習慣であろうとも、お名前を呼ばれるなんて、いけません」
「じゃあ偽名を名乗ろう。嘘つくのも大変だから、名前の一部だけを」
「できればそれも避けていただきたいのですが…」
「頭とかしっぽとかじゃなくて、真ん中を抜けばいいんじゃない? しかもそれを愛称っぽくすれば、かなり遠くなるよ」
僕の名前は魔王ヴォルミアンと言うらしい。あと、『シコウの魔王』だそうで。これは『僕とは何か』を考えていたらふと浮かんだ。それとは別に見つけた走り書きから先代は『暴虐の魔王』らしいから、どうも二つ名っぽい。でも僕、なんでカタカナ?
しこう、思考、嗜好、至高、志向(一般、主観。心がある方向に向かう)、指向(限定、客観。物事がある方向に向かう)……施行?
まあいいや。これもどこかのタイミングで分かるよね、きっと。
そんな事をつらつら考えてきたらスレイプニール君が「もうじきですよ」と教えてくれた。
「さて、何か面白いものが見つかるといいなあ」
森が切れて再び視界が開けた。
読んでいただきありがとうございます。
結構先まで書けたので投下。定期的に投稿出来る方が羨ましいです。
鬱憤発散のつもりが、書けるせいで逆に睡眠不足。この程度の暑さでも布団に入れば気絶するように眠れる体質で良かったと思います。
ようやく魔王様が外出されたので、ジャイアントスイングのチャンスがやってきました。
次回もお付き合いいただければ幸いです。
20150102修正。改行を全体的に追加。