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003ページ 魔王様、調べる

 メディア君は自分より地位が低い奴が私に(肩とは言え)乗っかるっていうのが気に入らないらしくて。名前を挙げてくそばからバラン君に詳しく説明させていくものの、基準に満たないからブーって言い続けましたとさ。


「とっ、当方が、何とかやってみせますっ」


 とか慌てながらバラン君が化けてみてくれたんだけど、いや、それはそれで可愛いんだけど、サーバルキャットだぜその姿。デカいし、体つきが…しなやかだわあ。


「だめ。猫にしては肉食獣の気配が強すぎ」


 あっ、orzになっちゃった。


「でっ、では、パシャをお連れ下さい。陛下付きの侍女でございます」

「パシャちゃん? それらしい侍女は見てないけど、どんな子?」

「はい。パシャはシロフクロウでございます。日中よりも日没が主な活動時間となりまして、護衛も兼ねてございます。どうぞ、言葉にしてお呼び下さい。陛下の魔力が満ちるこの城でならばお声が届きます」

「そうなんだ。パシャ、私の所へおいで」


 クウッ、とライオンにしては細い声を漏らしたメディア君。何その声。まさか、来いって命じられてるのが羨ましいのか?

 一拍、二拍、と待っていると、遠くからバサバサバサーっと羽音が聞こえてきた。で、途切れる。そして扉が開いて、一人の侍女が姿を現した。ててて…と小走りに近寄ってくる。人間の頭なんだけど耳まで真っ赤になった状態だった。


「パシャちゃん?」

「はっ、はい! お呼びに従い参じました、パシャでございます。新王陛下、お目覚めした事をお喜び申し上げます」


 パシャちゃん、頭部は人間なんだけど手元に白い羽毛がモッフリ。あ、首元にもフサフサした羽毛があるわ。爪も鋭いんだけど、それで侍女っぽい仕事出来るのかね?


「うん、今すぐではないけどいずれは外出したいんだ。一人だといろいろ大変だから連れが欲しくてね。小さい鳥の姿になれるって聞いたんだけど?」

「はい、ただいま」


 と言うと、彼女の輪郭がぼやけていく。どこが目で鼻で…という細部が分からなくなり、のっぺりとした塊になって、それがそのまま縮んでいく。着ていた服まで一緒なのかなこれ。

 ある程度まで小さくなるとぐにゃりと歪み、徐々に白い塊になっていく。そうして『十』に似た形から頭、体、羽、足がはっきりとしていく。この間、約五秒。早着替えにも程があるぜ。


「ホウ」

「おおー、ちみっちゃいフクロウだあ! パシャちゃん、おいでおいで」


 床にちんまりとシロフクロウが。チョコチョコと歩いてから羽を広げ、空を飛ぶ。何度か旋回してから私に近付いてきたので、左手を差し出したら、止まった。

 きゃわいいいいいいいいいいいいいい!


「いいじゃん! これならイケるわあ」


 顎だか喉だかの辺りを指で撫でてやる。うりうり。目をつぶってうっとりする様がまた可愛いなこれ!


「メディア君、その先代と戦ったっていう勇者が匿われている場所の特定は出来る?」

「やってみせます」

「バラン君、人間用の食事の用意、出来た?」

「準備整いましたので、陛下に一度ご確認いただけるよう待機中でございます」

「分かった。じゃあ見に行こう。じゃあメディア君、お願いしたからね」


 私はひょいと椅子から降りてその背後に回る。こっちに私用の出入り口があるみたい。何となくそれが頭の中に浮かんできた。

 果たして重い垂れ幕に隠れたとある一面に、私を認識する魔法があるのを見つけた。そこに触れると、ぽっかりと黒い穴が現れたので、ごく自然にそこへ体を沈める。

 一瞬の暗闇。しかしすぐ寝室に出た。私が知ってるのって自分の寝室と、娘っ子の寝室と、玉座の間しかないからなあ。あと通路だけど、あれは特定の場所って感じじゃないし。

 寝室から外に出る為の扉を開けると、侍女が一人頭を下げていた。


「人間用の食事のご用意が整いましたので、ご案内させていただきます」

「うん。あ、パシャちゃん、その姿確認したかっただけだからいつものに戻っていいよ」


 そう言って手を横にずらすと、パシャちゃんが飛んで着地。さっきの現象逆パターンで人型に戻っていった。

 小部屋に着くと、バラン君が居た。あ、ちなみにパシャちゃんは別件があるからとかってどっか行った。

 で、ここに来た本題。小卓の上に乗ったそれは……。


「スクランブルエッグかな? これは」

「卵がございましたので、熱しました」


 ひょいぱくと味見。うん、ただの卵の味しかしない。


「だめだねこれじゃ。果物とか野菜そのままでもいいんだけど」

「果物ならございます。先代様が時々お召し上がりになられるので小数ながら備蓄しております」


 と、持って来たのは要するにリンゴ。先代、意外な一面。リンゴ好きだったんだな。体に良いしそのままでも手を加えても美味いもんな!


「これでいいよ。さて、あの子に餌付けするかな」

「飼うので?」

「そうだなあ、しばらくは」


 飼うって、人聞き悪いぞ。つっても滞在させる事に変わり無いので頷いておく。


「左様でございますか。侍女達には気を付けるよう周知致します」

「うん、そうして。嫉妬は怖くて面倒くさい」


 そうしてまたバラン君が先導するのに着いていく。そこでふと窓があるのに気付いた。


「そういえば時間の感覚ってあるの?」

「ございます。正確には、我々魔獣に眠りはほとんど必要ございませんが、先代様は時々眠っておいででした」


 魔王は食事が必須でないけど惰眠は貪る。魔獣は眠らなくてもいいけど魔力補給の為に食べる。よく出来てる仕組みだねえ。

 さて娘っ子の部屋に到着……そういやこっちも名前聞いてないわ。いや、なまじ知ると情が移るからやめておこう。仮の名前付けちゃえばいいか。何にしよう。


 前回と違って天蓋は開けたまま、娘は起きた状態。寝台しか無いから座ってるけど、こっちにビビッてなるべく扉から離れた寝台の上に座っているって感じかな。


「バラン君。後からでいいんだけど、常用の飲み水と、排泄する所…この部屋の中に作ってもいいけど、とにかく、何かいい感じに用意しといて」

「仰せのままに」


 私は寝台の上で縮こまってこちらをガン見する娘っ子に視線を移した。うん、そうだ、仮の名前決めたぞ。


「君の名前を聞こうと思ったけど、やめた。アンバーって呼ぶ事にする」


 瞳の色。茶色と言うには淡く、黄色と言うには濃い、砂糖と水を混ぜて熱した時のような、琥珀色。しかし、ああ、その怯えた瞳はたまらない。

 口元が微笑むのを止められないまま、私はアンバーから最も遠い位置に座る。


「ご飯が用意出来なくってね。果物はあったから持って来たよ。食べたい?」


 私の手には少し大きいリンゴがひとつ。スナップを効かせて真上に投げて、落ちてきたところをキャッチ。ふぉっふぉっふぉ、アンバーよ、目線でリンゴを追い過ぎだ。


「ほら、君自身の意志で決めて。欲しいならここまで取りにおいで」


 多分攫われてきてから今まで水の一滴も飲んでないんじゃない? 喉も潤せるし、お腹に固形物入るし、見た事ある果物なら味も知ってるから余計に本能が黙っちゃいないよね。

 うんうん、めっちゃ悩んでるけど、手が正直。

 ゆっくりと近付いて来るアンバーは、私の手が届かないギリの距離で一度止まったが、私が動かないので意を決してさらに寄ってきた。


「た、食べたい、です」

「よく言えました。はい、あげる」


 リンゴを大事そうに両手へ収め、だが私に気付いてササッと離れる。しばらく私の目線に気が散っていた様子だが、腹がクーッと鳴ったせいで決意したらしい。恐る恐る一口かじった。

 咀嚼し、嚥下し、大きなため息を吐いた。味わってるなあ。そうしてその小さな唇でリンゴをガツガツと食べ始める。

 いやあ、私がこれだけ近付いたのにも気付かない位がっついてるなあ。


「そんなに美味しい?」


 と、終わった頃を見計らって声をかけたら一瞬で顔色が変わって体が硬直した。私は彼女の手首を取って、果汁で汚れた指先を口に含んだ。


「ん、甘い」


 ペロリと爪の先まで舐めてから口の中に広がるリンゴの味を理解した。食事要らないって言っても味覚はちゃんとあるんだな。あとやっぱりリンゴの味だこれ。

 自分の手首を慌てて取り戻したアンバーは頬を真っ赤にしながらさらに後ずさった。あ、手拭いか手洗いさせないとベタベタになっちゃうか。

 というか、しばらくここに居させるなら普段着とか寝間着も用意しないとだめじゃね? 水とご飯とトイレはさっき命じたし、後何が必要だろ。

 私の寝室に移動し、室内を物色しながらバラン君に質問タイム。


「バラン君は、その服どうやって着てるの? 人間みたいに? 着替えはあるの?」

「城仕えは自分の魔力で服を作っております。先程パシャが変化した際が良い例でございます」

「ほ~、便利だねえ。ちなみに単体保有量って人間より魔物のが上だよね。アンバーみたいな高い魔力の人間って数多いの?」

「あの程度でしたら十数人に一人といった割合でしょうか。その上となると戦闘職に就く者なら似た程度の割合で、さらに上は神官や勇者といった特殊な人間のみが該当致します」


 想像してたより結構いるなあ。でも弱いばかりじゃ魔物と釣り合い取れないか。


「アンバー程度の魔力保有してても戦闘職じゃなきゃ魔物は倒せない?」

「魔力を使いこなす術を知らなければ、例え戦闘職であってもただの人間です。魔物は人間より魔力が高い為、本能的に使い方を知っております」


 何かそれは分かる。この城って私の魔力? 先代の魔力? が満ちてるせいなのか、やけにすんなりと思い通りに現象が起きるんだよねえ。もう少し魔力を意識したら霧状じゃない魔力が見えそう。そして使えそう。いやいや、見たいし使いたいぞっ!

 ん? 待てよ、今気になる事をサラッと言ったなバラン君や。


「魔力を使いこなす術って具体的に何?」


 あれだろ? あれあれ!


「はい。人間だけが使える魔法でございますね。属性を持つ我らの弱点でもあります。魔物はわざわざ魔法に変換せずとも魔力のまま使います」


 キタコレ。魔法。


「魔力の万能感半端ないもんね! で、その属性って?」

「魔物は魔素と怨念と塵から出来ている、というのが通説でございます。塵とは肉体、多くが動物の死体を元にしておりますので、外見に反映致します。怨念が人格や性格となり、そして生まれる際に一緒だった魔素が属性となります。魔物から魔獣となった際は肉体と属性に関連した能力が開花致します」

「魔法については…詳しくないよね。バラン君魔物の人だもんね」

「…お役に立てず、申し訳ございません」

「いや、詳しい人に聞けばいいだけだし。という訳で一丁人間のふりしてくるから後よろしく!」


 わりと高めのアドリブ力を持つバラン君が一度停止する。


「や、やはりそのおつもりでしたか。御身が最強たる陛下でありましても、周囲は全て敵でございます。どうかご自愛下さい。パシャにも重々申し伝えます」

「うん。無理はしない。アンバーに餌付けしたいし、というかアンバーの食事事情改善も目的のひとつだから、ちゃんと戻ってくるよ」

「さ、左様でございましたか」


 そうして私はパシャちゃんを愛でながら侍女達に見送られ、バラン君にはメディア君に伝言を頼んでから城を出た。

読んでいただきありがとうございます。


20150102修正。改行を追加。

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