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第四話 超越した者たち。


 人間と妖魔の共存が始まっておよそ20年。

 共に生きるという選択肢の生んだ弊害の一つが、今や大きな社会問題と化していた。


 半魔族(ハーフ)の爆発的増加と、それに伴う犯罪率の上昇である。


 共生都市の誕生により、これまで認められていなかった異種族間での結婚が公に認められた。以前より、共生への道を模索してきた中で、恋愛関係に発展した人間と妖魔も少なくはなかったこともあって、多くの混血児が誕生、あるいは市民権を得た。

 人と魔の共存の象徴であるこの半魔族たちは、しかし、人や魔族よりも遥かに強力な〝力〟を持っていた。

 人間は不完全な生命であり、故に成長する力を持っている。妖魔は多くの種族が完全に近い生命である変わりに、成長する力に乏しい。

 両者が交わることで、完全に近く、かつ成長する力をもった存在が生まれた。

 それが半魔族。その力は彼らの両親にさえ手に余るものであった。

 無論、この事態を予見していた政府は、学校や、異種族間で結婚を行った者に対して、半魔族の育成、教育方法の指導を行うなどの施策を講じたが、それでも、全ての半魔族の子供たちが適切な指導を受けられたわけではなかった。

 その結果が、共生都市における犯罪率の上昇。即ち、半魔族(ハーフ)犯罪の増加であった。


 半魔族の力は強力であり、当初から用意されていた、魔法犯罪用特殊警察部隊であっても、半魔族犯罪には苦戦を強いられた。

 特にこの天壌島では凶悪事件が多発し、多くの市民が犠牲になってしまうような事件も少なくはなかった。

 自体を重く見た天壌島市議会は、半魔族犯罪に対抗するための特殊部隊『スペリオル』を結成する。

 彼ら(スペリオル)の活躍により、数多くの半魔族犯罪が被害の少ないうちに解決されるようになった。

 しかし彼らの実態は、市が公に発表したようなヤングエリート集団などでは、決してなかった。


「新人?まぁ、人手は足りてないもんね……今は実質8人しかいないし」


 霧江は二杯目のブラッドソーダを飲み干す。


「また別のトコの少年院ででも見つけてきたの?前の……なんてったっけ?調子こいて暴走した馬鹿を刈り取ったのは私だったと思うけど」


 背もたれにもたれながら、目を細める霧江。

 そんな彼女の痛い視線に苦笑しつつ、ボスは首を振った。


「心配はいらないとも!あの件で私も反省したさ。もっと人物を重視すべきだとね。今度は孤児院から、だ。……逸材だよ?腕っぷしも強いが」


 と、ボスは大げさに自分の二の腕をぽんぽん叩く。


「素直な子だ。いい子だよ!」

「……だといいけど」


 ふん、と鼻息を鳴らし、おつまみのポテトに手をつけ始める霧江。

 ボスは話を続ける。


「彼女には、君が三つ兼任しているエリアのうちの一つを担当してもらうつもりだ」


 天壌島は中央区と、第一から第十二の、計13の区に分割されている。

 スペリオルが表向きに13人いると発表されているのも、それぞれの区に一人ずつ担当がつくということになっているためだった。

 実際は今ボスが言ったように、8人のうち何人かが区をかけ持ちしている。


「彼女ってことは女の子か……ちゃんと腕が立つなら問題ないけど」

「問題ないとも。条件は満たしている。戦闘に関しては誰よりもすぐれた超越者(スペリオル)だよ」


『スペリオル』

 それは、人間・魔族・半魔族問わず、こと戦闘に関する技術に優れた者のみを、島の内外からかき集めた寄せ集めの戦闘集団。

 それは誰も彼も、エリートとは程遠く、一癖も二癖もある灰汁の強い者たち。そんな連中に、市は見返りとして特別な報酬を与えることで治安維持活動ににあたらせる。

 いわば傭兵集団。それがこの組織の実態だった。


「そこで、君にはしばらくの間彼女の指導に当たってほしいのだ」

「うわー、そんな事だろうと思った」


 霧江は心底面倒くさそうに言った。

 新人が入ると聞いたときから、こうなる予感はしていたのだ。


「頼むよ。そんなに手のかかる娘ではない。が、少し不安な要素もあってね……君に適性を見極めてほしいのだ」

「ホントに〝少し〟なんでしょうね不安要素は。……ボスがやれってんならやるけどさ」


 霧江は三杯目を呷り、グラスをテーブルに置いた。

 彼女にとっての特別な報酬――対価となるのがこれだ。

 人血は臓器扱いであり、本来は取引のできる代物ではない。よって、島の吸血鬼は、本来なら人工血液を飲む以外に食料はないはずだった。

 しかし対価として用意されるものの中には、法に触れるものも含まれている。そうでもしないと、手懐けることが出来ないのが彼らスペリオルなのだ。


「よろしい。では、さっそく一つ頼まれてくれ」


 言って、ボスは床に無造作に置いてあった革製のビジネスバックの中から薄いファイルを取り出す。


「これが(くだん)の少女の……まぁ、履歴書のようなものだ。彼女を空港まで迎えに言ってほしい。時刻は明日、正午」

「正午って……貴重な睡眠時間が」


 がっくりと首を垂れる霧江。


「はは、元気を出したまえ!彼女が育てば君の負担もかなり減ることになるのだから。……それから、彼女を15時までに()()まで連れてきてくれたまえ」

「……私明日も大学なんだけどな」


 霧江はため息をつきつつ、ファイルを受け取った。


「休みたまえ。なに、一日サボったところでどうってことはあるまい」


 豪快に笑うボスに、霧江はもう一度大きくため息をつき、諦めたように首を振って、受け取ったファイルを開いた。


 松居頼子。女性。推定18歳。生年月日不明。種族不明、出身地不明。


「なによこれ……」


 謎だらけの経歴に嘆息しつつ、問題の少女の写真に目を移す。


「……あれ」


 その瞬間、霧江は心のどこかに、なにか引っかかるような違和感を覚えた。

 なんだろう、これは。

 ふわふわしたロングヘアー。栗色の髪。

 正統派な美人だが、どこか気の弱そうな、不安げな表情を浮かべた彼女。


 初めて見る顔なのに、霧江はどこか懐かしい雰囲気を覚えた。

やっぱりバトルは次回からで。

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