狂鎖
―― 死にたいと願う女がいた。
――その女はなにか死にたい理由があるわけでもないのに死にたいといった、そして願った。
「どうしてそんなに死にたいわけ?」
「死にたいっていうことに理由がいるの? 死にたいっていうと皆理由を聞きたがるけど、理由なんてなくても死にたい人は死にたいの」
――死にたい事に対しての理由はないと女は答えた。
――俺もその女の言葉に対しては特に違和感は感じなかった。
「ねえ、そこにいられると死ねないんだけど」
「いやいや、そもそもなんで墜死を選ぶよ」
「交通事故もリストカットも、確実じゃないでしょ。頭から地面に追突すれば確実でしょ?」
――女の手には深々とした赤黒い線がいくつもあった。
――俺の腕にも赤黒い線があった。
「血の味がする……死にたかったの?」
「まさか。自分が生きてるって実感がほしかったんだよ。血が出れば生きてるって証拠だろ?」
「死体を切り刻んでも血はでるわ」
「腐ってるだろ、それ」
――女の目は不可解なものを見るような眼をしてる。
「腐ってても血は血でしょ」
「ぐちゃぐちゃのミンチになってもそれは『お前』自身っていえるのか?」
「人としての死に方をしてないなら、それは肉片か肉塊でしょ。『人間』なんていわないわ」
――首をかしげてさも当然のように女は言う。
――人として死んでないものは肉塊だと。
「無駄話はこのへんでいいでしょ、そこどいて」
「それはできない相談だな」
「あなたに私が死のうがどうしようが関係ないでしょ」
「関係あるに決まってるだろ」
――女は不思議なものを見る目を向けてくる。
「紗枝、誰が勝手に死んでいいっていったよ」
「……あなたは、あなたとはもうキレタ縁でしょ。幹弥」
――紗枝はくすんだ目で俺をみてる。
「一方的にな。死にたいから別れようって」
「そこ、どいてくれる? 邪魔なの」
「そんなに死にたいのかよ」
「ええ、死にたいの」
「今すぐに?」
「ええ」
――紗枝の目は目先の死にしか向いていない。
「そうかい」
「そう。わかったならさっさと消えて」
「消えてやるよ――紗枝もろとも」
――紗枝の手を引いて脚を踏み出す。
「幹弥、あなた死にたいの? 死ぬ理由なんてないでしょう」
「死ぬのに理由はいらないっていったのは紗枝だろ」
――死のうと思えばすぐにでも死ねる。
――もう一歩脚を踏み出せばすぐにでも。
「バカなのね、幹弥」
「だろうな、こんな死にたがりを彼女にしてんだから」
「そこ、過去形でしょ」
「一方的なんだ。誰も承諾はしてない」
「……」
「なあ」
「なに」
「もう一回聞く。そんなに死にたいのか」
「ええ」
「今すぐに?」
――再度紗枝に問いかけた。遠く遠くのどこかを見ている紗枝に。
「……幹弥のせいでわけがわかんなくなったわ」
「そうかい。でも、まあ」
「なに」
「そんなに死にたがりなら、俺がいつか殺してやるよ」
「素敵なこといってくれるのね。できるの? 幹弥に」
「やってやるよ。ほら、帰るぞ」
――紗枝は抵抗なく付いてきた。
――死にたいっていうなら俺がいつか殺してやるよ。でもそのかわりにな、
――お前の全てを俺にささげろ。何もかも全部だ。たとえそれが紗枝の命であっても。
自分で書いててよくわかんなくなった物語です。
まあ、スプラッター的表現入ってるんでR-15と残酷表現いれましたー。