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「……元、ですが」

 アマリアは認めた。もとより隠し通せるとは思っていない。

「ええええ……聖女って、本当に本物……!?」

 フェオンは信じられない様子だ。無理もない。治癒魔術の使い手はほとんどが貴族階級だし、聖女を輩出するのは名誉なので家族がすぐに教会に連れていく。聖女となっても特に制限があるわけではないので、隠す意味もない。むしろ隠したことが知られると教会や王侯貴族からの心証が悪くなり、そちらの方が致命的だ。

 彼女たちは聖女として教会からお墨付きを得て、代わりに治癒魔術を行使する。王都の教会に囲い込まれて「慈善活動」に勤しむのだ。

 高額な「寄付金」を求めておいて何が慈善活動だとは思ったが、治癒魔術を役立てられる場がそこしかなかったのでアマリアは聖女として活動していた。町医者のところに出入りしたりもしたが、大っぴらに治癒魔術を使うことはできなかった。迷惑をかけることになってしまう。

 聖女の能力は世間的に高く評価されているが、各地への派遣要請は教会が頑として突っぱねている。批判もなくはないが、聖女の数が少ないため納得されてもいる。

 ただ、聖女の数が少ないからとか、高貴な身分であるからとか、そういった理由で派遣要請が断られているのではないだろうことを今のアマリアは知っている。各地で治癒魔術の腕を磨かれると余計なことに気付いて広めてしまう者が出てしまいかねないからだろう。聖女たちは扱い方さえ間違えなければ教会に富と名誉とをもたらすので、王都の教会で監視しつつ囲い込んでいるのだ。

 要するに、聖女は王都にしかいない。

(見せた方が早いでしょうし……)

 アマリアは自分の長い髪を一筋掬い取った。炎に炙られて傷み、縮れた部分だ。

(治って)

 念じつつ、手をかざす。光が放たれ、手をどけたときにはすっかり色艶を取り戻した金髪があった。もちろん縮れてもいない。他の部分と同じように緩く波打っている。

 治癒魔術を乱用するのは良くないが、髪であれば肌よりも問題になりにくい。試してみせるのにうってつけだ。

 治癒魔術を目の当たりにして、バルトは感心した表情になった。フェオンは呆気に取られつつも興味を隠せない様子だ。

「それにしても……聖女ときたか。訳ありすぎるだろ……」

「聖女が手足を縛られて魔獣用のお香を焚かれて殺されようとしていた、しかし聖女は何も言おうとしない……訳ありもここに極まれりだな」

「ちょっと待った、手足を縛られて!? 初耳なんだけど!? ていうかそんな重大なことを僕に聞かせないでよ!」

「大丈夫だ。お前は口が堅いから。うるさいが口が堅いとはどういうことなんだと思うが」

 頷きかけるバルトに、フェオンはきゃんきゃんと吠えた。

「一言余計だよ! それに、大丈夫じゃないのは僕の方なんだってば! 厄介事にもほどがあるだろ!」

 確かに、とアマリアは他人事のように頷いた。

 そんなアマリアをじとっと見つめて、フェオンは諦めたように溜息をついた。

「誰にやられたかはともかく、教会には戻れないんだろう? 元とか言うくらいだし。それならここにいるといいよ。僕だって、助けた患者を放り出すほど非情じゃない」

「フェオン様……ありがとうございます」

「様とかいいから。こっちも呼び捨てにさせてもらうし。とりあえず、名前だけでも変えた方がいいね。アマリア……アミィとでもしておく?」

「そうします」

 アマリアは頷いた。厄介事だと騒ぎつつ放り出そうとしないあたりフェオンは優しい。

「そうなると、君の立場をどうするかだが……」

 バルトも当然のようにアマリアを受け入れる方向で話を進めてくれている。二人とも優しい。ありがたい。

 そんな彼らのために自分が何をできるかだが……

「たとえば……雑用係とか?」

 アマリアが言うと、二人が揃って目を剥いた。

「教会の聖女様が!? 雑用!? できるのかどうか、いろんな意味で不安なんだけど!?」

「……気持ちは嬉しいが、その……雑用係の人手は間に合っているから……」

 フェオンは直球で、バルトも言葉を選びながらも懸念を示している。アマリアはむっとして口元を曲げた。

「私は聖女でしたが、治癒魔術ばかりやってきたわけではありません。町医者のところで学びつつ雑用を手伝ったりもしていました。まったくの戦力外にはならないと思うのですが」

 二人は揃ってぽかんと口を開いた。さっきから仲良しだ。

「聖女様が……町医者のところで……?」

「そういうことも、ある……のか……?」

「いえ、普通はありません」

「「…………」」

 沈黙が流れる。だが嘘も言えない。

 ややあってバルトが沈黙を破った。

「……そういうことなら、フェオンの助手ということでどうだ。町医者のところでもやってこられたのなら大丈夫だろう。君の治癒魔術を当てにさせてもらうこともあるかもしれない」

「そういう機会が来ないことを祈っておりますが……フェオン、構いませんか?」

「……っ、いいって言うしかない流れじゃんか! 確かに医務室はいつも人手が足りないし、事情を知らない奴らのところに放り込むわけにもいかないし! こき使ってやるけどいいね!?」

「頑張ります」

「素直か!」

 こうしてアマリアは、騎士団に身を置くことになった。

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