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 バルト一人でかろうじて持ち堪えていたところに三人が加わり、戦況が大きく変化した。

 先ほどのバルトとヘレナの連携魔術を見たアマリアは、またあの火力を出せるなら魔獣を押せそうだと期待したのだが、そう上手くはいかなかった。バルトは主に剣で魔獣を相手取っており、ヘレナはそこまで近づけていない。乱戦の中で正確に魔力を制御して合わせるのは難しそうだった。

 二人の騎士も剣を構えて参戦し、剣が魔獣の体に跳ね返される音が立て続けに響く。特異個体の毛皮はなかなか剣を通さず、角度と勢いを正確に調整しなければ傷ひとつ付けられなかった。

 バルト一人で戦っている時よりもずっと状況が良くなっているはずなのに、魔獣は疲れを見せない。対して騎士たちの表情は険しく、アマリアは次第に焦りが募ってきた。このままでは騎士たちの体力が保たない。

 治癒魔術しか使えない自分が歯がゆくてならない。戦うすべを知っていたらすぐにでも駆けつけるのに。足手まといにならないために距離を取って祈るしかできないアマリアに、また魔獣が目を向けた。

 不吉な視線に射すくめられて、ぞくりと肌が粟立つ。

(私が弱いから狙われている……のよね……?)

 それしか考えられないのだが、なにか違う気がする。魔獣の視線は、単に弱くて倒しやすい個体を認識しているだけという計算ずくのものではない気がした。言葉にするなら、

(執着、されているような……?)

 視線を外したらその瞬間に襲ってきそうな気がして、自分ひとりでは抵抗すらできないというのに、目が逸らせない。アマリアは魔獣と睨み合い――魔獣が、目を逸らした。そのついでのように、自分に向かって振り払われた剣をしなやかに避ける。四人がかりの攻撃をものともせずに、魔獣は身を翻して跳躍した。――アマリアたちが来たのとは反対の方向へ。

「団長! 魔獣が逃げます!」

「追撃も追跡も無理だ。行かせるしかない。村民に会わないことを、村民が外に出ていないことを、祈るしかない」

 年少の騎士が叫び、バルトが冷静に判断を下した。

(助かったの……? でも、どうして逃げたのだろう……)

 このまま戦闘が続けば魔獣側がどんどん有利になっていったはずだ。四人の誰も生死にかかわるような怪我をせずに戦闘を終えられたのはありがたい以外の何物でもないが、魔獣の行動が腑に落ちない。

 しかし、その疑問はすぐに氷解した。アマリアたちの背後から、騎士団の人員が続々と到着したのだ。

 戦いに間に合わなかったらしいと悟った人々に、バルトはねぎらいの声をかけた。

「よく来てくれた。危ないところだったが、おかげで助かった。魔獣は逃がしてしまったが、後で情報共有を行う」

 どうやらバルトとヘレナは彼らに先行してここへ駆けつけてくれたらしい。その動きがなければアマリアも二人の騎士も無事では済まなかっただろう。そのことが今更ながらに恐ろしくなる。

 だが、そんな感慨に浸っている場合ではなかった。バルトたち四人ともが疲労困憊で、新しい傷口から血を流している。アマリアは慌てて彼らに駆け寄った。


 特異個体は逃がしたものの、予定していた作戦そのものは滞りなく終わった。特異個体という別の新しい問題が出てきてしまったが、そちらは今日中に何とかなるようなことではない。村の警備に人員を割り当て、バルトたちはいったん砦に戻った。

 その日を境に、騎士団の中でのアマリアの扱いがまた少し変わった。今までは物珍しさからちょっかいをかけられたりしていたのだが、何と言うか、仲間として少し認めてもらえかけている気がするのだ。特異個体との激戦の後で消耗したバルトたちを懸命に手当てし――その時は治癒魔術を使わなかった――、汚れることを厭わず、魔獣に必要以上に怯えず、血だまりができるような現場から逃げ出さなかったことを評価してもらえたようだ。

 治癒魔術のことは広まっていない。その場にいたヘレナたち三人にはバルトが口止めしてくれた。聖女云々という話が広まってしまうのは誰にとっても良くないので、ひとまず情報が少人数のうちに留めておいてもらえるのはありがたい。どうしても必要となれば皆の前で治癒魔術を行使することは躊躇わないが、最後の手段であってほしい。

「あんた、やるなあ。お綺麗なだけのお嬢様かと思っていたが、なかなかどうして肝が据わってるじゃないか」

 騎士に声をかけられ、アマリアは面映ゆく思いつつ微笑んだ。騎士は続けた。

「どうせ王都から団長目当てで来たんだろうと思っていたが、悪かったな」

 王都というところは合っている。アマリアは冷や汗を流しつつ微笑をなんとか保った。

「ほら、団長は身分が身分だからさ」

(バルト様の、身分……?)

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