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 二人の騎士がはっと慌てたが遅い。二人の間を抜けるようにして、魔獣がアマリアに肉薄した。

(また、私を狙って……!)

 武装もしておらず、弱い個体だと認識されているのだろう。理解したが体が動いてくれない。首を庇うどころか目を閉じることさえできない。

 血なまぐさい息がかかる。ずらりと並ぶ鋭利な歯が迫ってくる。

(殺される……!)

 眼前に迫る魔獣が――吹き飛ばされた。白熱した火球が魔獣の横っ腹に直撃し、爆ぜたのだ。ごうっと音を立てて熱風が吹き抜ける。

 特異個体とはいえ、さすがに今の攻撃は効いたらしい。魔獣は悲鳴を上げた。毛皮が焦げる匂いがする。

 火球が飛んできた方向を見ると、手のひらをこちら側に向けて立つバルトの姿があった。少し後ろにヘレナが控えており、今の攻撃はおそらく二人が連携して放ったものなのだろう。

 吹き飛ばされた魔獣は警戒して距離を取った。かろうじて命を拾った状況に、アマリアの膝から力が抜けた。

 かくん、と座り込んだアマリアに、焦った様子でバルトが駆け寄った。

「どこか怪我をしたのか!?」

「いえ、大丈夫です。騎士様たちは……」

「俺たちも大丈夫です!」

 年少の騎士が声を張ったが、緊張が途切れたからだろうか、がくっと膝をついた。もう一人の方は声も出せずに肩を押さえている。出血がひどい。ヘレナが慌てた様子でそちらへ走っていった。

(へたり込んでいる場合じゃない……!)

 アマリアは足に力を込めた。よろよろと立ち上がる。バルトが何か言いかけたが、遮って言った。

「私はあちらに合流します。騎士様を……回復させます」

「……! 頼む。私は、魔獣をそちらに近づけないようにする」

 治癒魔術を使う。暗にそう伝えたアマリアに、バルトは目を見開きつつも頷いた。

 バルトが魔獣に向き直った。アマリアはのろのろとしか動かない体を必死に叱咤し、一歩ずつ歩き、途中から小走りで騎士たちのところへ向かった。

「ヘレナさん、ここからは任せてください」

「アミィさん……お願いします」

 年長の騎士の肩を止血しようとしていたヘレナを下がらせる。治癒魔術のことは知らなくても、アマリアが医師フェオンの助手をしていることは皆が知っている。二人の騎士もほっとした表情になった。

「止血用の包帯は……って、えっ!?」

「え、ちょっと待った!?」

 ヘレナと、年少の方の騎士が驚愕の表情になる。今から治療を施されようとしている年長の騎士は言葉も出ずに目を見開いている。

 彼の患部にかざしたアマリアの手から、光が溢れる。光は傷口を包み、薄れて消えた後には何事もなかったかのような肌が現れていた。

「……痛くも何ともない……!? 君は、いや、あなたは……聖女様……!?」

「……このことはどうか、他言無用でお願いします」

 肯定も否定もせず、アマリアはそれだけを言った。聖女云々の話を下手にしない方がいい。

「もう一方の騎士様も、足を怪我していらっしゃるでしょう? 見せてください」

「あ、ああ……。治してくれるのか……?」

「治します」

 アマリアが言うと騎士は傷口を見せた。ヘレナが思わずといったふうに短く息をのんだ。もう一人の肩の傷のようには目立っていなかったが、魔獣の牙が食い込んだ痕があった。傷口は小さいが、深い。先ほど膝をついたのも、このせいで足に力が入らなかったのだろう。

 アマリアはそこにも治癒魔術を行使した。三人が驚嘆する気配が伝わってくる。

(治癒魔術を乱用するのは良くないけれど、今は必要な場面だわ。だって……)

 アマリアは立ち上がり、バルトの方を見た。宣言通りに魔獣をこちらに近づけずにいてくれたが、それも長くは保たないだろう。魔獣の突進を掻い潜るようにして斬り付けたバルトの動きが精彩を欠いている。魔獣が隙をついてこちらへ来ようとするのを炎で足止めしてくれたが、その炎にも細かいコントロールが効いていない。疲労が蓄積されているのだ。特異個体を一人で相手取っているのだから無理もない。これがバルトでなければここまで持ち堪えられていない。

 ヘレナが焦ってそちらへ行こうとする。アマリアは怪我人の二人に言った。

「休ませてさしあげたいのですが、お二方のお力が必要です。どうか戦ってください。死なない限り、治しますから」

 無理を言っていることは分かっている。だが、無理してもらわなければならない。そうでなければあの魔獣に対処できない。前に見た熊の魔獣よりも体こそ小さいが、纏う気配が尋常ではない。警戒しすぎるくらいに警戒した方がいいと感覚が訴えている。

 アマリアの言葉を聞いても、二人の騎士は怒らなかった。それどころか顔を見合わせ、力強く引き受けた。

「死なない限りと言ってくれたんなら安心だ。戦ってきます」

「救ってくださったのはこのため。心得ております」

 そして三人は戦場に飛び込んでいった。特異個体との戦いが、さらに激しさを増す。

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