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 それから、作戦に向けて皆が動き出した。団長のバルトは終始忙しそうで、見かけるたびに違う人と違うことを話しているようだった。反対に副団長ダムソスは楽しげな様子で棍棒を振ったり防具の手入れをしたりしていた。根っから現場向きのようだ。

 アマリアが同行すると知ったヘレナは心配してくれたが、彼女も彼女ですべきことがある。大丈夫だとアマリアが言うと、それ以上止められることもなかった。

 フェオンの指示に従ってアマリアは医療物資の準備を手伝った。フェオンが水魔術を使えるので、清潔な水をわざわざ用意する必要がないという利点があまりにも大きい。フェオンの魔力量は多いようで、かなりの量の水を出すことができるらしかった。治療の片手間に水魔術を使ってもあまり負担にならないようなので彼には関係のない話だが、医者にわざわざ水魔術師を付けたりすることもあるくらい、水は重要なのだ。

 火魔術は攻撃時だけでなく煮炊きや獣除けにも使えるし、風魔術は重いものを運んだり言葉を届けたりできるし、土魔術は塹壕や防壁を築くことができる。みなそれぞれに現場で重宝される魔術なのだが、皮肉なことに、現場から最も遠い王都の貴族階級がこうした力を誇っている。ここのような辺境でこそ魔術はより必要とされるはずだが、こうした土地で魔術を使える者となると一部の有力な家系の者に限られるのが現状だ。

 辺境騎士団の騎士たちにも魔術を使える者は少なくないが、彼ら彼女らはたいてい、王都の有力な家の係累だ。家督を継がない次男以下が騎士団に職を求める者が割合としては多そうだ。他、意に沿わない結婚から逃れるためなど、さまざまな理由で志願する者がいる。魔術を使える人材は有用なので、採用時の加点材料だろう。

 そうした各人の技能も計算に入れつつ、準備は滞りなく済んで作戦決行の日を迎えた。

 複数の隊に分かれ、被害を受けた場所を囲むようにして位置取る。相手は魔獣化したとはいえ兎や狐だ。野生動物としての用心深さは残している。なるべく感づかれないように、いつものルートを通ってもらえるように、各隊がさらに少人数に分かれるなどの工夫をしていた。

 アマリアはバルトやフェオンと同じ隊だ。だいたい半円形になった布陣の、特に農村の中に深く入った位置にいる。ここを突破されると農村の中が危なくなってしまうという、言ってしまえば最終防衛ラインだ。

 比較的安全なその場所で、アマリアはバルトの近くで目を回しそうになっていた。

 なにしろ情報がすごい勢いで流れ込んでくるのだ。風魔術や伝令によって、団長バルトのところに次々と報告が届けられる。

「罠12番、兎22! 火魔術で討伐済み!」

「エリア4B、狐7討伐! 少なくとも2体を追跡中!」

「エリア6A、想定外の方向に魔獣の痕跡ありとの報告!」

(うわあ…………)

 情報が雪崩を起こしそうだ。しかしバルトは冷静に的確に捌いて指示を出している。

「追跡に人手を割かれた隊には作戦本部からの人員を派遣しろ。痕跡については詳しい場所を地図で示せ。それから……」

 バルトのやり取りを、アマリアは怪我人の手当てをしながら聞いていた。まだそこまで多くの怪我人は出ていない。丁寧に診るだけでなく他の雑用をする余裕さえある。だから聞くともなしに耳に入ってしまうのだが、とても自分には処理できる気がしない。改めて、バルトは団長なのだと目の当たりに実感してしまう。

 副団長ダムソスが、自分は団長向きではないと話していたことに今更ながら納得してしまう。確かにこれは、あの豪快な巨漢には向かない役回りだろう。そのダムソスは今しがたの増援要請に舌なめずりをせんばかりに嬉々として飛び出していった。そちらの方向からほどなく魔獣の断末魔と雄叫びとが聞こえてきたのだが、アマリアは聞かなかったことにした。

「なんというか……想像していたのと違うところも多いですね。机上で詰めるようにしていく面もあるのが意外です」

 手が空いたとき、アマリアはフェオンに思わず話しかけていた。フェオンは頷いた。

「ある程度行動が予測出来て数の多い魔獣を相手にする時はそうなりがちだね。逆に、急に大型の魔獣が現れたとか突発的な事態に対応するときは君の想像通りの乱戦になりがちだけど。今回は対象が比較的小型の魔獣で数も多いから、想定通りに進みやすい。……まあ、最後までそのままとは限らないけれど」

 フェオンの言葉が終わるか終わらないかのうちにバルトが立ち上がっていた。

「エリア2Dから3Dの間に討ち漏らしが多い。私が出てくる。ヘレナ、共に来い」

 ヘレナが頷き、バルトの後について速足で出ていった。

(あ…………)

 アマリアは思わず声を上げかけたが、何を言おうとしたのか自分でも分からない。

 少し経つと、バルトが向かった方角からごうごうと炎が立ち昇るのが見えた。バルトの火魔術をヘレナが援護し、辺り一帯を焼き払ったらしい、強引だが効果的だ。

 規格外の火力を目にしてアマリアは呆然とした。あの夜に見せたのは力の一部でしかなかったらしい。そんなアマリアにフェオンが言った。

「団長の魔力は規格外だ。そんじょそこらの魔獣には引けを取らない。君を助けたときは背中をやられたというけれど、ちょっと信じられなかったよね」

「それは、私を庇って……。魔獣の数も多くて……」

 アマリアの言葉に、「団長らしいね」と言いつつフェオンは腑に落ちない顔だ。

 その時、アマリアは悪寒のような嫌な感覚を覚えた。

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