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それからアマリアの「アミィ」としての、フェオンの助手としての日々が始まった。
そもそも辺境第一騎士団がどんな立ち位置なのかという話だが、辺境を守る騎士団はもともと一つであったらしい。規模が拡大するにつれ、対象の地域を分けたり、また構成員に特徴を持たせたりして第二、第三と分かれていったそうだ。たとえばこの辺境第一騎士団は王国の辺境の中央部を担当する騎士団で、辺境第四騎士団は魔術師ばかりで構成されている、といった具合だ。
最も歴史の古い第一騎士団の団長であるバルト・ノーグは二十五歳。十八歳のアマリアよりも七つ年上だ。若い団長だが慕われているらしく、みな親しげにしながらもきっちりと一線を引いて敬意を示していた。家名になんとなく聞き覚えがある気がするのだが、騎士団をまとめる立場ともなると確かに家名も必要だろう。
若い団長の補佐として、彼よりも年上で経験豊かな副団長ダムソスがいる。鍛えられているが厳つい印象は与えないバルトに対して、ダムソスは巌のような巨漢だ。彼は魔術が使えないらしく、肉弾戦ですべてを解決してきたという。愛用の武器は棍棒で、どんな魔獣が相手でも真っ向から殴り合うのだとか。熊の魔獣を見た後のアマリアには信じがたいのだが、彼の体の各所に刻まれた傷跡がすべてを物語っている気がした。
ダムソスは豪快で気さくな性格で、上に立って指示を出したり目配りをしたりするよりも、何も考えずに突っ込む方が性に合っていると笑って話していた。確かに、団長ともなれば全体を見なければいけないし、書類仕事や各所との折衝などもあるだろう。そういった分野はバルトに任せ、自身は経験を生かして現場で切り込み隊長をやっているということだった。
ダムソスは魔術が使えないと言うが、「あいつはおそらく無意識に魔力を使って身体強化をしている気がするんだよな」とはバルトの言だ。ダムソスが、悪ふざけをした団員を椅子どころか卓ごと殴り飛ばしたのを見てアマリアも確かにと頷かざるを得なかった。
それはそれとして、魔術を使えない者は少なくない。魔力自体は人間なら誰でも持っているが、扱うには適性が必要だ。おそらくそれは身体的なものらしく遺伝するのだが、詳しいことは分かっていない。
辺境騎士団の中には魔術師ばかりを集めた第四騎士団もあるのだが、この第一騎士団は最も歴史が古いというのもあり、何かに特化しているわけではない。バルトのような魔剣士もいれば、ダムソスのような戦士もいる。そして、
「隣、いいかしら」
「ヘレナさん! もちろんです」
癖のない薄茶の髪をさらりと揺らしてアマリアに声をかけたのは、風の魔術を使うヘレナだった。この騎士団に所属する女性騎士だ。剣術も一応は修めているが、もっぱら魔術を使って戦っているのだという。ほぼ魔術師と言っていいだろう。
第一騎士団には年の近い女性が少ないからというのでアマリアに声をかけてくれて、こうして何かと気遣ってくれている。今も、一人で食事を始めようとしていたアマリアの隣に座ってくれた。食堂は充分に広いから席はいくらでも空いているのに。
食事のトレーを置き、ヘレナが座る。一つに結んだ髪がふわりと舞った。彼女は風の魔術師なので、術の名残で髪が風を纏っているようだ。
「訓練上がりですか?」
「ええ、そうなの。それと実験にも協力してきたわ。魔獣を効率よく倒すための応用魔術のね」
「確かに、風魔術は色々と応用が効きそうですね。こう言っては何ですが、使い勝手がいいというか」
応用魔術は二人以上の術者の魔術を組み合わせたものだ。風はそれ自体が武器になるし、物を運ぶこともできるから応用範囲は広いだろう。
「そうね。それにたとえば、このシチューをすぐに食べやすく冷ますこともできるけれど……こういうのって熱いまま少しずつ食べるのが美味しいわよね」
シチューの匙を口に運びながらヘレナは悪戯っぽく言った。アマリアも笑って同意する。
「熱い熱いって言いながら食べるのって楽しいですよね」
「ふふっ、そうなのよね。アミィさんは魔術を……?」
「ええと……」
アマリアは言葉を濁した。治癒魔術を使います、とは言えない。だがヘレナは別の意味に取ったようだった。
「ああ、ごめんなさい。気にしないで。なんだか使えそうな気がしたから聞いてみただけなの。それはそうと、砦の生活にはもう慣れた?」
第一騎士団の拠点はいくつかあるが、本拠地とも言うべき建物がこの砦だった。魔の森に接するぎりぎりの場所に建っており、人里にさまよいこもうとする魔獣をいち早く発見して討伐できる位置にある。各所への連絡や魔の森の外での魔獣の追撃に馬が必要になるので、魔の森の中に本拠地を構えることはできないのだ。馬が魔獣化しては困るし、それに、いくら人間が魔獣化しないとはいえ魔力の強い森の中は暮らしていくのに適さない。体と心を保つためにも、砦は魔の森の外に置く必要があった。
「ええ、皆様よくしてくださいます。フェオンも、バルト様……団長も」




