表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奇々怪々―記者が集めた十の声と影  作者: ま〜ち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/11

7 山とオオカミ


 すいません、わざわざこんな辺鄙なところまで来ていただきまして。先日、と言っても大分間が空いてしまいましたが、ご挨拶だけでしたかな。確か持田夫妻のところで…ええ、あの掛け軸と人形のお話をお聞きしたというところで。持田さんとこでもお伝えしたと思いますが、改めてまして、横田と申します。えっと、確か不思議な話、怪異のお話を聞き集めているとか。記者という職業も色んな人にお聞きして、大変ですな。…ところで、自分の気のせいだったら申し訳ないのですが…前にお会いした時よりも随分、顔色が良いというか、雰囲気が明るくなりましたな。前にお会いした時が暗いとか、悪かったとかじゃないんですが…んー何ていったら良いのか…つきものが落ちたという感じですな。お聞きしても良いですか?何かいいことありましたか?…ほう、それはおめでとうございます。彼女と結婚ですか。いやーこれは本当にめでたいですな。あー成程。それで憑き物がおちたんでしょうな。…ん?ご存じないですか。女性は邪気を払うのですよ。確かこれは自分の亡くなった母に聞いた話なんですがね。女性は陰、男性は陽を鎮めると言いましてね。なんの思想だったか忘れましたが、そういうのがあるそうです。特に女性は命を受け入れる器であり、穢れを浄化する力を持つと昔から言われていますからな。老婆心ながら言わせていただければ…その女性、いや奥様を大切になさってください。


 色々と違う話をしましたな。本題とそれちゃいまして、お時間が限られているのに申し訳ない。その持田さんとこの人形と同じようなお話で、それでよければなんですがね。…承知いたしました。それではお話しさせていただけたらと思います。


 記者さん、送りオオカミってご存じですか?


 まあ妖怪の一種として数えられたり、違う意味で言われたりしますが。または送り犬とも言いますがね。

今回僕が体験したのはその送りオオカミに出会ったんです。野犬とかと間違えたと思われるでしょう?まあ普通はそうなんですけどね。それが普通の犬だったりしたら僕もそう思いました。でもあの時、出会った 犬…オオカミと言いましょうか、そのオオカミは少し違ったんです。

 

 まずなんでそのオオカミに出会ったかと言いますと、山で迷った時に出会ったんです。趣味が僕は登山なもので。でも本格的な登山とかじゃないですよ?標高も高くない、穏やかな山を主にいつも登っているんです。 

 あれは春も真っ盛りな日でした。その日、とても天気が良くてですね。穏やかな気候で、過ごしやすい日でした。そんな日はやっぱり午前中だけでも外に出たくなったもので。どうせ出るなら、山登りに行こうって思ったんです。

 家を朝方に出発して目的の山に向かいました。景色を眺めながら行ったり、途中ですれ違う人に挨拶したり、春の陽気を楽しみながら登山をしてました。山頂まで行って一息ついた時は大分、日も上ってましてね。お昼頃に下山したんです。


 いつも登っている山だったので気が緩んでいたと思うんですね。ボーと歩いていたら、見たことがない道に行ってたみたいで。

おかしいなーと思って、少し立ち止まって考えたんですね。そしたらですね、晴れていたのに急に霧が立ち込めてきまして。周りがうっすら白くなってきたんです。うわーどうしようって思いましてね。携帯電話を見て、助けを呼ぼうと思ったんですが圏外になってまして、電話が使えなかったんですね。とりあえず、元の道を引き返そうと思って、振り返った時なんです。


 そこに大きなオオカミがいたんです。


 ジーとこちらを見てましてね。何ていったら良いのかな…すごく大きくてですね。体は薄い茶色…みたいな色でして。でもどこか高貴そうな感じがしたんですね。野犬かな?って思いましてね。でも大きさが野犬の大きさじゃないんですよ。普通に道を散歩している飼い犬でも見たことがない大きさでした。だってオオカミの顔が僕の胸の高さぐらいあるんですよ。襲われたらもう、ダメだって思いました。でも、そのオオカミは唸ることもせず、ジーと自分を見るんです。何か言いたそうな感じでね。


 とりあず、そのオオカミの横を刺激しないように、かつ早く歩いてすり抜けて、再度山頂を目指したんです。少し早めに歩いて後ろを振り向くと、付いてきてたんですね。そのオオカミ。もう、怖くてね。熊に出会った時ぐらい怖くて。とりあえず、人のいるところまで行こうと思って、ひたすら歩いたんです。時々、後ろを振り向いて確認したんですが。いるんですよ。ずっと。

 どうしよう、と思って。でも下手に刺激したら襲われるかもしれないしで。もう、歩きながら冷や汗ダラダラでしたよ。こっちは遭難一歩手前ですから、走って下手に体力を失うわけにもいかなかったんで、走ることも出来ませんでした。走ったとしてもきっと無駄でしょうけどね。ひたすら歩いていたら、いつの間にか、知った道に出たんです。ああ、よかった。これで帰れる、と思って安堵しました。それであのオオカミが気になって後ろを振り向いたら、お座りした状態でジーと自分の事を見ていたんですね。その目が、お疲れ様、と言っているような、もちろん僕の気のせいかもしれないんですけどね、あの時疲れてましたし。でも僕は、お疲れ様、また来てね、って言っているような気がしたんです。


 その日、帰って山のオオカミについて調べたんです。そしたらオオカミって怖い存在だけじゃなくて山の神の使者でもあるって知りましてね。もしかしたら、最後まで帰れるかどうか見守ってくれたのかなって思いまして。ほら、よく神社の稲荷神社で狛犬がいるじゃないですか、なんでもオオカミを信仰しているところもあるらしくて。それだったのかなって勝手に思っています。

 何か、お礼をしなくちゃって思いましてね。登った山に小さな神社があったことを思い出したんです。その神社にお礼に行こうと思いまして。翌日に僕、菓子折りをもってお参りに行ったんですね。うちに丁度、カステラがあったんでそれを持って行ったんです。こんなので良いかなーと最初は思いました。でも日持ちするし、お供えものしたら持って帰らないといけないしということを考えましてね。新しく買いに行ったら良かったんですが、買いに行くところも遠いということを考えたら面倒になってしまいまして…今思えば失礼なことをしたなって思います。


大きさで行ったらミニチュアサイズの神社なんです。管理をしているような神社でもなさそうで。でも小さな鳥居もあるし狛犬もありました。来たのは良いけど、カステラを置いてからお礼を言ったら良いのか。それともお礼を言ってからカステラを置いた方が良いのか、そこまで調べてなくてですね…結局はもうカステラを置いてからお礼を伝える形をとりました。それで心の中で、先日は無事に送り届けて頂きありがとうございました。つまらないものですがどうぞ良かったら…みたいな感じで念じたんですね。


 その日の夜、不思議な夢を見ましてね。夢の中でオオカミが出たんです。だけどオオカミだけじゃなくて女の人もいたんです。何ていうか、神楽を踊る巫女さんの衣装があるじゃないですか。そんな風の衣装を着ていた女の人でした。あとすっごく美人。その女の人がオオカミを撫でながらこっちを見て言うんです「そんなことせずとも良いのに。わざわざありがとう」って。

 夢の中で、僕がなにかいう前に目が覚めまして。起きた時は凄く穏やかな、体が温かくなって、すごく気分が良かったんです。もしかしたら僕の妄想かもしれないです。でもあのオオカミと出会ったことは本当ですから、夢の中に出てきた女の人も僕の妄想では終わらない気がしまして。

 

 多分なんですが、あの女の人は山の神様だったのかなって思うんです。神様が一人の人にわざわざ、来てくださったんですね。律儀な神様だな、って思いましたね。


 そんなお話です。今、お話しして、改めて思ったのがお礼して良かったって思うんです。これって失礼だったかなーって思うこともありましたが、でも、しっかりとお礼を伝えられて良かったと思うんです。

 僕はお礼とか、伝えなきゃいけないことって言葉にして、行動にしないといけないなって頭では分かっていたんです。

でも今回の事で改めて意識して周りに感謝の念を伝えるようになりました。

 

 記者さんもこれから結婚するということで、感謝の言葉は素直に伝えて言った方が良いですよ。あと好意の言葉もね。

照れてます?まあ、僕も行ってて恥ずかしいですが。でも大切なことだと思うんです。その大切なことを皆きっと知ってはいるんですが、実行しているかというと実は中々出来なかったりするじゃないですか。


 少し説教臭くなりましたな。申し訳ない。たったこれだけの話ですが、良かったですかな?そうですか。

え、僕からの紹介…ですか…んーあ―うちの娘がですね。あの子は僕と違って海が好きなんですけどね。

海で不思議な子と出会った、みたいなことを言っておりました。うちの娘で良ければお伝えしてみますが、どうです?

はい、わかりました。それではうちの娘に連絡してみますね。またご連絡したいと思います。


 いえいえ、こちらこそ本日はありがとうございました。

改めまして、ご結婚おめでとうございます。末永くお幸せに。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ