表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奇々怪々―記者が集めた十の声と影  作者: ま〜ち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/11

5 掛け軸と人形

【タイトル】

 佐藤さんから紹介された記者さんがこんなにも若い人だとは思ってなかったよ。

あ、どうぞ足は崩してください。え?佐藤さんにも同じこと言われた?ハハハ、そうですか。繰り返し聞くことになっちゃいましたね。

外はもう寒かったですか?…そう、もう少しで冬になりますね。ところで、記者さんは…大変失礼ですがおいくつですか?

ほう、うちの孫と同じくらいですな。…なあ、お前。結構、良い男じゃないか。どうだね、うちの孫とお見合いでもしてみんか?

…そうかー残念。彼女いるなら諦めるか…ちょっとお前、痛いって。…うちの妻に怒られちゃいましたな。

失礼した。いや、なにうちの孫娘も20代半ばになって男っ気がないって、うちの娘が言うもんでね。

何か力になってやりたくて。いやしかし本当に、失礼しました。


 それで、私が…いや、私たちが体験した不思議な話……怪異の話、でしたかな?

その話を聞いた時、前にそういった本を読んだ時を思い出しましたよ。

何せ、私はよく本を読むもので。まあ今回は読んだ本の話とかでなく、実際にあった話なんですがね。


 なんていうか…この部屋じゃなくて仏間にあった掛け軸と日本人形の話なんです。

順を追って話すと、掛け軸は古物商を営んでいた友人から譲り受けたもので。

なんでも以前持っていたが、病死したか何かで処分した際に出回ったものだったらしいんです。

どんな絵?ああ、山と農民が描かれていた掛け軸でした。農民は鍬を肩にかつぎながら山を見ている、そんな掛け軸でした。

その掛け軸なんですがね、仏壇の横にある床の間のとこに飾るかと思いましてね。最初はうちの妻が幼少のころから持っていた日本人形だけを置いてたんですよ。うちの…妻が言うには大切な人形で、辛い時も悲しい時も一緒に乗り越えてきた思い入れのある人形らしいんです。


 人形だけなのもちょっと寂しいと思いましてね。掛け軸と一緒に床の間に飾ることにしたんです。

怪異が…その異変がですね、床の間に掛け軸を飾ってから起き始めたんです。あれは掛け軸を飾って次の日でした。

勝手に台所に置いてあった皿が割れたんですね。うちの妻が朝食を作っていてお皿を机の上に置いて準備していた時でした。

その皿が急に真っ二つに割れたんです。机の上で。その割れ方というのがですね…機械で切ったように綺麗に割れてるんですよ。

自然な割れ方ではないんです。うちの妻が怖がりましてね。凶事の印かもと思いましてね、うちの息子と娘、孫たちに何かあったんじゃないかと思って、すぐに連絡したんです。でも全員、無事でしてね。じゃあなんでこんなことが起きたのかと。不思議で、不気味で。うちの妻が割れた皿をみて、言ったんです。「あの掛け軸が何か悪さをしてるんじゃないか」ってね。結果的にそれは当たっていたんですがね。でもその時、私はそれを信じずに考えすぎだと言ってその日は終わったんです。

次の日も、そのまた次の日も、机に置いたお皿が割れました。3日連続はさすがに不気味で、どうしたものかと途方にくれました。

うちの妻はすっかりまいっちゃいましてね。…これは何とかしないと、と思って考えたんです。

お祓いしてもらえるお寺とかを調べましてね、次の日に行こうとしたんです。掛け軸をしまおうとしてみたら、農民の人がこちらを向いていたんです。描かれていたのは山と、鍬を肩に担いだ農民の背中しか描かれていなかったんですが、顔が半分…こちらを向いていました。その目がとても憎くて憎くてしょうがない、すべてを憎み、すべてを苦しませる、そんな目に見えました。そんな絵を見たら、しまえなくてですね。気圧された、というかなんていうか…言葉が見つからないのですが…すごく怖くて。触れることも出来なかったんです。

 その時は気づかなかったんですが、一緒の床の間にあった日本人形は掛け軸の方をみていたそうです。これはうちの妻から、すべて終わった後に教えてもらったんですがね。


 うちの妻と相談して、お祓い専門の人を呼んで、こちらへ来てもらうことにしたんです。それが2日後に来れるということだったので、あと少しの辛抱だって思ったんです。その日、安心して寝ていたら…夢を見たんです。あの掛け軸の農民に鍬で滅多打ちにされる夢でした。…その…私の妄想がそういう夢を見させたのかと思っていたんですが…どうにも無関係に思えなくてですね。

夢の中では農民に滅多打ちにされて、体を丸めて縮こまることしか出来ませんでした。…いつまで続くのか、早く終わってほしいと願っていたらですね、急にですね、本当に急に、農民が私を殴らなくなったんです。何事かと思って顔を上げてみたらですね、おかっぱ頭の小さな女の子が両手を広げてかばってくれていたんです。小さなてをいっぱい左右に広げてね。絶対に守るという気迫を感じました。…ああ、これで助かる、って不思議とそんな風に思いました。その女の子が農民を指さし、「いね」って言ったんです。昔の言葉で去れ、とかいう意味なんです。農民は無表情だったのが般若のような顔をしましてね。この世の顔だとは思えませんでした。そして農民が女の子に襲い掛かるところで、私は妻に体を揺さぶられて起きました。


 起きた時は冷や汗をかいておりまして、いまみた夢の事を妻に話しました。

そしたら妻は急いで寝室を出て仏間に向かっていきましてね。私も妻の後を追って、いったら床の間を凝視して動かない妻がいたんです。何事かって思うじゃないですか。「どうしたんだ?」と声をかけても何も答えずに、膝から崩れるようにうちの妻が鳴きはじめましてね。床の間をみると、そこには四肢と頭がバラバラになった日本人形と、真っ黒になった掛け軸がありました。


 それ以降、皿が割れることも悪夢を見ることもなくなりました。

後日、来ていただいたお祓い屋さんに事の顛末を説明したところ「大切にされていたんですね、すこし見ても良いですか」と日本人形と掛け軸を見られました。お祓い屋さん曰くですが、お皿が割れたことと悪夢を見たことは、掛け軸が原因だそうで。それで日本人形の方ですが、「守ってほしい、どうか守ってほしい、そんな願いが込められてます」と言われてました。

 この日本人形なんですがね、妻の亡くなった父親が買い与えたものらしいんです。どうも、義父は出張が多くて家を留守にすることが多かったみたいで。多分なんですが、娘を守ってほしくて見守ってほしくて買い与えたのかもしれません。そう思うと私もなんだか泣けてしまって…すいませんね。年をとった所為か涙もろくなりまして。


 え?その人形ですか?今でも大切に箱に入れて床の間にありますよ。もう少し落ち着いたら直してもらえるかどうかお聞きしようかと思ってます。


 記者さんは大切なものはありますか?…初対面の人に言うのもちょっとあれでしたな。もしあれば、ですが…どうか、本当に大切になさってください。今回、私たちは妻が大切にした日本人形に救われた、助けられたと思ってます。もしかしたら記者さんのことも大切にしたものや人から助けていただけることがあるかもしれませんよ。説教っぽくなりすいません。ですが、これが私たちが体験した怪異となります。


 あ、そういえばよく一緒に山菜を採りに行っている友人がいるんですけどね。その人も不思議なことがあったといっていました。

 実は今日、これから来るんですよ。よかったら紹介いたしましょうか?


 そうですか。そしたら少しくつろいで待っててください。

もう少ししたらくるかと思いますので。


 ところで、記者さん、ダメもとでお聞きしますが…お見合いに興味はありますか?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ