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奇々怪々―記者が集めた十の声と影  作者: ま〜ち


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3 霧のように消えた車の話

 久しぶり、元気だった?偶然、会うとは思ってなかったよ。

ちょうど、この喫茶店が開いててよかったな。落ち着いて話せるし。

この格好?……まあ、ちょっとね。行かないといけないところがあるんだ。


 ところで、今日は休み?あ、そうなんだ。最近、野球いってる?…あ、やっぱり?

俺も!行ってないんだよなー。実は、足首怪我しちゃってさ。

ああ、今はもうだいぶ平気。普通に歩けるけど医者からはあまり無理しないようにってことで休んでるんだ。


 そういえば仕事のほうはどう?なんか取材があって大変だ、みたいなこといってなかったけ?

あーそうなんだ。今日はもう取材の帰りなんだ。お疲れさん。そういえばどんな取材してるん?

へえーそういえば、記者っていってたけど、そんな怪談話も聞いたりするんだ。いつか本とかにするの?

へー。話が集まると良いな。

え、俺?俺はまあまあかな。仕事もプライベートもまあまあって感じかな。んーあのさ、話しても良いかな?不思議な話を集めているって聞いて、ちょっと思い出したことというか…厄落としみたいな感じで効いてほしいことがあるんだけど。良いかな?……悪いな。ちょっと俺に付き合ってくれよ。取材として数えてもらってもいいからさ。……え?お礼?良いよ、別に……本当だって。

 ……え、奢ってくれるの?じゃあ、ありがたく。悪いなーありがとう!


 えーと、じゃあなにから話したらいいのかな、こういうのって。

え、好きなように?んー分かった。じゃあこれは俺が大学生になったばかりの話なんだけど。


 ほら、大学の1回生の4月って新歓あるじゃん。俺はあるサークルに入ることに決めたんだ。そのサークルでさ、新歓として露天風呂に行くことになったのな。

俺の大学って北海道にあってさ。北海道って結構、無料の露天風呂が沢山あって。大学生になったばっかりだったし、お金なかったしで、先輩が色々と気を使ってそこにしてくれたんだと思うんだよね。

だけど、車は必須。まだ18歳になったばっかりだったし、俺。免許持ってなかったんだよね。そこで先輩の車に乗って露天風呂に行くことになったんだ。

俺が所属していたサークルは結構、新入生が入ったみたいで車も4台に分かれて露天風呂に行くことになった。

 それで俺を乗せてくれた、先輩…K先輩としようか。K先輩の車に乗り込んだ。場所は助手席。後ろには俺と同じく新入生の男女が一人ずつ乗っていた。

 車は軽自動車で、色は白だった。車種はもう覚えていない。だけど、初めて話す先輩っていうこともあって凄く緊張した覚えがある。

 ところで、北海道って車社会なんだけどさ、道も広くてまっすぐで、景色も変わらないから気づいてたらスピード出てた、ということが多々あるんだ。

 そのことを運転している先輩から聞いてさ。話の発端としては自分もいつか、車もっていつか宗谷岬とか行ってみたいです、っていうところからはじまったんだ。

 後ろの2人も運転免許とって、車持ちたいらしくてさ。だけど入学して半年ぐらい…だったかな?それまではバイト禁止でさ。まあ内緒でバイトしてるやつはいたけど。

バイトしてお金貯めて、車買って、いつか彼女作って、いろんなとこ行きたいって思うじゃん。そんな話を少しずつしててさ、先輩や他2人とも打ち解けたぐらいで雪が降ってきたんだ。


 北海道って4月や5月でも雪が降るし、吹雪くんだわ。あまり本州の人に信じてもらえないんだけどさ。で、先輩にさ「吹雪いてきましたね」といって道路の前を見た時にすごく違和感を覚えたんだ。

え、なんで、え?おかしい。って思ったね。俺たちの前に車が1台走っていたんだけど。吹雪いて前が見えづらくなってきてから、急に出てきたようにいてさ。

 黒い車だった。そこまではおかしくないんだけどさ。でも先輩もさ「あれ?あの前の車…」って言いだすんだ。

 後ろ2人も気にし出してさ。前を見ようとして後部座席から頭を前の座席の横まで持ってきてさ。一緒に見たんだ。

 ライトがついてなかったんだよね。でも、同時に…なんていうのか…すっごくおかしいんだよね。俺たちの前を走っているんだけど、走ってないみたいな違和感があったんだ。

とりあえず、先輩に軽口みたいな感じでさ「先輩、前の車って…」ライトついてないですよねって言う前に


 車が霧のように消えたんだ。


 あれ?って思ってさ。前にいた車は?え?なんで?って思ってさ。後ろ2人は黙っていて何も分からないみたいな感じだったし。先輩も黙ったままだった。

目の前で起きたことを信じられなかった。でも確かに俺たちの前を走っていた黒い車はいて、それが霧のように消えたんだ。あれはもう日が暮れる頃、時間は17時28分だった。

 何で時間を覚えているかというと、先輩がラジオをつけてたんだ。ラジオの内容はみんなと話していたから覚えていないけど、でも先輩たちが黙った時、ラジオから「17時30分、2分前になります」と言ってたから間違いないと思う。

その後、黙っていた先輩が言うんだよ。今起きたことは秘密で黙っていろって。

何で、秘密にするのか、なんで黙っていろというのか、俺には分からなかったけど、でも先輩の方をみたら少し涙目になっていたんだ。

泣きそうになる理由が分からなかったけど、でも俺も他2人も周りにこのことは言わなかった。

 今回、他の人に話すのが初めて。


 そのあと、何事もなかったかのように露天風呂に行ったんだけどさ。K先輩は露天風呂に入る前に仲良かった先輩とこっそり何か話していたんだよね。

多分、俺の憶測だけど、あの霧のように消えた車の事だと思うんだ。

さっき言ったように、北海道の道を車で走っているとスピードを出しちゃうって話、あっただろ?

その分、車での事故死って多いんだ。それでK先輩には車を持つのは良いけど、スピードには注意しろよって何度も話している時に言われたことを思い出したんだよね。


 これはあとから知ったんだけど、K先輩と仲のいい先輩・・・U先輩としようか。K先輩とU先輩は1年生の時から仲良かったんだけどさ、じつはもう一人仲のいい友人がいたらしいんだ。

 いたんだけど、スピード出しすぎて車で事故起こして亡くなったらしいんだ。

その亡くなった人が乗っていたのって黒い車だったんだって。


 本当に、これは俺の憶測だし、自分がK先輩だったらって思って話すけどさ。

もしかして仲のいい亡くなった人と一緒によく露天風呂とか行ってたのかなって。K先輩と話している時に温泉が好きって言ってたし、多分あってる。

それで、多分仲の良かった人と一緒に行っているみたいで、生きていたころを思い出して、K先輩は涙目になったのかなって思うんだ。

 本当に、あっているかどうか分からない。

 でもそうじゃないかなって思うんだ。


 その後、K先輩もU先輩も車の事故でなくなった。

 2人は同じ日に別々の場所で亡くなったんだ。


 亡くなったと聞いた時、びっくりしたし信じられなかった。

 急いで黒いネクタイ買って、スーツ着て準備している時も、信じられなくて悲しいという気持ちが出てこなかった。

 2人の葬儀に参列した時、急に涙が出てきてさ、下を向いて泣きながらK先輩とU先輩の思い出に浸っていたら、あの霧のように消えた黒い車を思い出したんだ。


 あと少しで大学卒業っていう時だった。


 もしかしたらあの車と関係しているかもしれないし、関係ないかもしれない。

 それは分からないけど、俺はどこか繋がりがあるんじゃないかって思っている。

 

 そう、思っているんだ。


 まぁこんな話。あんまり大した話じゃなくて悪いな。

 んでさ、今日はK先輩とU先輩の命日。

 ちょっとこれから北海道行ってくるんだわ。

 だから喪服だろ。


 …今年で13回忌。…多分今回で最後。


 あ、俺そろそろ行かなきゃ。悪いな俺から誘ったのに。

 もうちょっとゆっくり話せたら良かったんだけどさ。

 先に行くな。ごちそうさん。またな。

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