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奇々怪々―記者が集めた十の声と影  作者: ま〜ち


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2 檻のあの子

 ごめんなさい。遅くなって。粗茶ですが。どうぞ。

足も崩してください。こんな年寄りの話を聞こうとしてくれる人が多くなくて。つい嬉しくって長く話しすぎたかしら。

大丈夫?そう。なら良かった。あ、御手洗に行きたかったらこの部屋を出てすぐ左に行ったら行けますから、ご遠慮なく。


 鬼のその後?その日以降、足音が深夜にすることはなかったわ。もしかしたら、たまたま出会っただけかもしれないわね。鬼とは。

ただ、私が怖い思いをしただけ。それで終わったわ。


 記者さん、私の次の話も聞いてくれるかい?…ありがとうね。

次の話も私が小さい頃の話。あれは熱い夏の日だったわ。今の学校のことは分からないけど、夏休みって結構長いじゃない?ある夏の日に私、狸に化かされたの。


どんな風にだって?そうね。順序よく話すわね。少し長くなるかもしれないよ。それでもいいからしら?…そう、わかったわ。


 あれは私が夏休みに入って少したってから起きたことなんだけど。

 その日、とても暑くて、今ほどではないけど暑くて、でも空がとても綺麗な夏の日だったの。蝉が沢山鳴いていてね。よく友人とセミとりをしていたわ。

午前中に、私は友達と一緒に朝のラジオ体操が終わってから、一緒に遊んで、昼頃に家に帰ってきたわ。うちは農家をしていたから、午後はよく手伝っていてね。

その日も手伝おうとして、お昼食べた後に畑に行ったの。そしたら父親が腕組みをしながら怖い顔をして畑を睨んでいたわ。どうしたんだろう?って思って父親に尋ねてみたの。

「お父さん、どうしたの?」って。渋い顔をしながら父は私に言ったわ。

「畑が、獣に荒された」と。


 うちではよくトウモロコシを作っていてね。トウモロコシ畑の一部が倒され、食い荒らされていたわ。

これはもしかしたらイノシシか、それとも狸の仕業か。そんな話を父が母と祖父母にしていたのを覚えているよ。

これ以上、荒されないためにも父が罠をおこう、という話になったの。私の生まれ育ったところでは珍しい、鉄製の檻でね。それを使用して何とかしようとしたのよ。

 罠を置いて、1日目はうちの猫がかかったわ。もう、なにしているんだとうちの父が呆れていたわね。

2日目は何もかからず。3日目も何もかからなかったわ。4日目にして狸がかかった。

狸が罠にかかった時のこと、私は近くにいたから、よく覚えている。

大きな音がしたからびっくりして、何事かと思ったよ。慌てて見に行ったら大きな狸が鉄の檻の中で暴れていてね。

暴れて大きな音を立て続けにたててたからとても怖かった。ええ、あのある意味、鬼以上にこわかったわね。でもね、不思議なものでね。

私、狸と目が合ったの。目が合った瞬間、狸は暴れなくなってね。小さな目でジーと私を見ていたわ。その目が私という人をどういう人なのか見極めようとしているようで、どこか知性があるようで不気味に感じたわ。


 捕まえたのが夕方だったから、保健所の人は次の日の朝に来ることになったの。そういったことは父が連絡してくれていてね。

でも私は内心、不気味だと思っても、かわいそうだなって思ったよ。父に何とか許してあげられないか、と聞いたけど、「ダメだ」の一言で終わってしまってね。

色々と私、考えてしまったよ。もしかしたらあの狸だって家族がいるのかもしれない、友達がいるのかもしれない、そういったことを考えたの。

皆で夕飯を食べて、ゆっくりしている時に、私、こっそりと狸の姿を最後に見ようと思って見に行ったのね。

狸が捕まっている檻は家から離れている小さな小屋に置いてあったから、ちょっと距離があったけど家族には見つからなかったわ。

小屋の中は草と土の匂いと獣の匂いが充満していて、頭がいたくなりそうだったよ。

 小屋の灯りを点けたら、そこには。


 何もいない鉄の檻があったの。


 私、少し呆然としちゃって。また灯りを消して点けてみたの。それでも空の鉄の檻があるだけだったわ。

私、驚いちゃって。鉄の檻に急いで駆け寄って、本当に何もいないかどうか確認しようと思って鉄の檻を開けちゃったの。

開けても変わらず、何もいなくて、急いで家に帰って父に報告しなくちゃと思って鉄の檻を開けっぱなしにして走って小屋を出たの。


 居間で横になっていた父に小屋にある鉄の檻に狸がいない!といったら、父がちょっと驚いた顔をしたわ。

すぐにその後、焦った顔になって私にこう言ったわ。


 「それが狸に化かされたってことだ!」


 そういった後、私を置いて父が小屋に走って向かって行ったわ。

そのあと、家族総出で狸を探しまわっていたのだけど、私は自分が化かされたということが信じられなくて少し呆然としてしまってたわ。

家族が畑や庭、小屋あたりを狸を探し回っている姿を見ながら呆然としていたら、後ろから背中を指でつつくように叩いてきた感触があったの。


 誰だろう?って思うじゃないかい?家族は小屋や庭にいるのに。

振り返るとそこにはね緑色した帯に茶色い着物を着た、おかっぱ頭の女の子がいたの。

その子が私をジーと見るの。狸が私を見たような目で。


 どうしたの?どこの子?と、とりあえず聞いてみたんだけど、女の子はジーと私の顔を見るだけ。どうしたら良いのか分からなくて、父か母を呼ぼうとしたら私の腕を軽くつかんだのね。

暖かい手だったわ。とても。それでその子が私の目を見ながら言うの。


 「えっと…その…ありがとうね」


 お礼を言われた瞬間、あ、この子はあの狸だって思ったわ。私を見つめる目があの捕まった時と同じ目をしていた気がしたから。

なんとなくだけどね。

女の子はお礼を言うと踵を返して山の方に走って行ってしまったわ。私はその後姿を黙って見送るしかなかった。

その後、私は父に怒られて、母には優しい子ねと励まされてその日は終わり。


翌日もいつも通りの一日が始まって、お昼ごろに家に帰ってきた時なんだけどね。

小さい赤い巾着袋が玄関前に置いてあったの。なんだろうとおもって開けてみたら山に生えている花とかが沢山はいっていてね。


 凄く綺麗だった。

 

 父と母はあいにく家にはいなかったけど、祖父母に赤い巾着袋についていったの。祖母は「多分、狸がお礼にくれたんだよ。大事にしておき」と私に諭すように話してくれたよ。

今でも巾着袋は私の大事なものとして押し入れに入っているの。偶にみてはあの子は、狸だったのか、それとも山の神様だったのか。そういうことを考えるときがあるよ。


 あなたもこういった経験はあるかい?映画やテレビでそういったことはよくやっているけど、実際に経験は?そう、ないかい。まあそうだろうね。


 もう帰るのかい。今日はありがとうね。こんな年寄りの話に付き合ってくれて。…違う話もあるかって?さあ、どうだろうね。

 また暇があったらおいで。


 帰り道、暗いから気をつけな。


 あと、狸に化かされないようにね。


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