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アーツマスターファンタジー~剣と魔法の世界に伝わった武術を使える達人達の話~  作者: 来賀 玲


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第7話 : 悪の騎士団の伝説






 はい、襲われたりアーツマスターのみんなに助けてもらったミシェルさんですが、


 今、この前店を壊してくれやがった冒険者の女の子……ただしお◯ん◯ん付きとご対峙中です。


「この下法は、女神化の魔法ね」


「知ってるのセリアさん?」


「ええ、性別変える魔法なんてサキュバス含めた淫魔にとっては朝飯前だもの。

 まぁ、ただこれはちょっとそんなお楽しみの魔法じゃないわ」


 流水拳(フローアーツ)のアーツマスターのセリアさんは、魔族の一つサキュバスである。

 まぁエッチな種族なんだけど、そういうちょっと特殊な魔法も詳しいってわけだ。


「私達が信仰してる女神様、こと全能の女神イデア様の子供達。

 わざとというべきか、本人が『楽しそうだから』っていう理由で自分の力を分けて与えた神々の子供達。


 その中でも、私達サキュバスとも縁が深い神様、

 バフォメッタ様の呪いね。

 間違えた、祝福ね」


「バフォメッタ様の名前で納得しちゃった。

 呪いと祝福ってどう違うんだろうね、バフォメッタ様の場合」



 バフォメッタ様は、山羊のツノと目を持つ褐色肌の神様である。

 学問と魔法、知恵の神。

 であると同時に、淫蕩なる悪戯大好きの困った神様である。


 …………神様とは、正義も悪も内包しているものなのは常識だけど、割とこのバフォメッタ様は悪い人々も手厚く信仰してんだよなぁ……




「簡単に言えばこの魔法、かなりバフォメッタ様の身体に近い身体、つまり神に等しい力を持つ身体になれる。


 まぁ、知っての通りバフォメッタ様は両性具有……

 つまり美しい女の身体に立派なものが付いてるっていうお得な、でも人間から見たら奇妙な身体になってしまう魔法なの」


「最近は前垂れで隠れてるけど、二百年前の銅像はなんか知らんけど御立派なものキチンと掘ってたよなーバフォメッタ様」


「………………」


 あれ、なんか私たちの説明に、マックス君すごい顔。


「どうしたい、マックス君や」


「………………ミシェル師匠、セリア師匠。

 折行ってお願いがあります」


「え、私も?」


「何だい改まって?」


「…………この男女の服を脱がせ、背中を確認してほしい」


 ……?


「は!?!」


「あらまぁ、意外と大胆」


「頼みます。男の俺には無理なんです」


 ふと、周りのマックス君は部下達に鋭い視線を送る。

 ……男達がくるりと一回転して、こっちに背を向けた。

 もちろん、ユエンさんも後ろをむいて……


「……イグニスお爺ちゃん?」


 そして一人だけ振り向かないお爺ちゃんが一人。


「目を瞑っとるぞ」


「嘘つけ、おしゃれなサングラスのした見開いてんじゃないか」


「スケベジジイね〜?」


「どうせ老い先短いジジイだぞ?

 それに割と俺はこういう気の強い目尻の女が好きでな」


「今が命日にされたいかイグニス・クラウド!」


 がしり、と目元をマックス君に手で隠され、カカカと笑うイグニスお爺さん。

 元気だね……


「……でも、マックス君の言いたいことはなんか読めた。

 じゃあ悪いね」


「ふざけんじゃねぇ!何も知らない上に身体のことまで勝手に言われて、服まで剥がれるのかよ!?」


「その通り。

 はい!!」


 ───流石サキュバス、服はぐの一瞬!

 多分流水拳(フローアーツ)の応用までして一瞬ですっぽんぽん……わーお!


「ぎゃー!?!?」


 前屈みにおっぱいとまぁご立派な物を隠す……名前なんだっけ?


「ご立派ぁ!」


「どこ見てんだクソエルフに淫乱サキュバス!!」


「そりゃもちろん……この背中の懐かしいご立派なタトゥーだよ」


 ビクリ、と突然顔をこわばらせるこの人。



 ───その背中のヤギの頭に人の胴体の異形を模ったタトゥーがデカデカとあった。



「テンプレア騎士団、懐かしいね」



 後ろを向きながらも、マックス君が確信した顔をそのオオカミの頭に見せている。


「……ついでに、良いケツには俺のいた九蛇城砦の囚人の証か」


「いつのまにだよエロジジイ!」


 そしていつのまにか、イグニスお爺さんあの子の背後にいるし!!

 こんなキャラだっけのチョップ!あ、軽くいなされたし!


「はっはっは、役得だなぁ。

 しかし、この背中の刺青はそういう意味だったか!!

 はっはっは!!」


「なんだい、お爺さん!そんなに趣味の合う女の子だったわけ?ち◯ち◯ついてんのに!」


「はっはっは……

 オイ、」


 ───突然、イグニスお爺さんはその子の急所に当たりそうな勢いで地ならしを踏みつける。


「ヒッ!?」


 あの子の足元に、クレーターみたいな跡ができる。

 ついでに、ちょっとチョロチョロ黄色いのが溜まりはじめた。


「お前、俺と会ったことあるな?」


「え?」


「俺にだけ妙に目を合わせなかったな、男女(おとこおんな)

 そりゃそうか、お前らともあそこでは遊んでやったからな。


 いやしかし、変な因縁よなぁ?

 俺はお前らが男だった時に、仲間の男の部分をついへし折ってやった事もあったか?」



 ……お爺さん、まさか最初から……?



「…………い、イグニスさんじゃないっすか……?

 お久しぶりです、オ、オレ……違うんすよ、ただ……!」


「おっと!

 別に喋らんでいい。今はな」


 さて、と言ったイグニスお爺さんは、そこら辺の服を覚える人に投げつける。


「テンプレア騎士団ってなんだ?

 俺も教養がない、少なくとも俺レベルのロクデナシ集団ってことしか知らんぞ?」


「…………少なくとも、イグニスお爺さんよりは怖くないよ」


 ガチ怯えさせてんだもんね……



          ***



 昔々、200年とちょっと前。


 まだ人間と魔族が対立して、勇者が魔王を討伐している頃、


 当時の女神様聖教の認可のもと、大陸をブイブイ言わせてた騎士団があった。


 テンプレアという町から生まれた騎士団は、女神様とその子である神のバフォメッタ様を崇めながら、魔族殲滅を掲げて戦う聖戦士達。


 ってのは表の顔で、武力と暗殺とで逆らう勢力を消したり脅したり、魔族の人身売買をして財を成したとんでもないヤツら!


 それがテンプレア騎士団。


 神に祝福されたロクデナシ共。


 ある日、北の魔族側にも当然あった、聖教の教会へいつも通り恫喝しに来たテンプレア騎士団は……





          ***






「当時、その教会の一人のゴルゴーンの女の子のシスターがいたんだ。

 察しの通り、それがフィフス姉でね。

 この時、私のお父さんと私、あと兄弟姉妹弟子たちで教会にやっかいになっててさ。


 後は……」



「イグニス・クラウド。

 お前だけは知らなそうだが言っておくぞ。


 当時、悪逆非道の限りを尽くしてなお大陸最強の武装集団だったテンプレア騎士団に対して、

 その壊滅という偉業を成し遂げたのが最初のアーツマスターとその弟子たち十数人だ。


 我がティーチ家の曽祖父も参加した名誉の戦いだ」


「ま、いきなり教会のドアぶっ壊して、金と女と要求した挙句、私なんて殴られちゃったんだよ一番チビだったし。

 で、これも巡り合わせかな?

 ライト兄貴っていう、イグニスお爺さんの極大拳(ウルティマアーツ)作った兄弟子が、いの一番にキレて大太刀回りしちゃってさ」


「その後に反撃したのがミシェル師匠でしたよね」


「で、その後にガロン兄貴……マックス君のひいお爺さんが続いて、後はもう大乱闘でさー」


「そうか。つまりコイツらは俺たちアーツマスターに恨みがあるわけか。

 オマケに、あのゴルゴーンのシスターにも噛みついておったな……


 通りで、俺が手加減する気が起きんわけか」



「待って!!待ってイグニスの兄貴!!

 オレは……いやもうアタシは反省して抜けたんだあんな頭のおかしい集団!!

 そりゃ、あんな地獄出る前に気の迷いでこんな身体になった!

 なったけど、アタシは悪いことはもう何もしてねぇよ!!」


「私の店に穴開けた」


「悪かったよ!!兄貴にボコられた腹いせ……だったんですすみません、調子乗ってました耳揃えて弁償するので拳を下ろして……」


 うわぁお、イグニスお爺さんの方に明らかに怯えてんじゃん。


「…………ま、嘘はついてなさそうだな」


「ま、嘘はついてなさそうだね。

 で?まだ隠してることあんでしょ?」


「……そ、それは……」


「まぁ落ち着きましょう皆さん。どうせ、このリュドミラという人間には色々吐いて貰うことにはなる」


 ビクゥ、とする、やっと思い出したわリュドミラだはコイツの名前。


「…………ふむ。

 副長、魔導無線装置を」


「はい!」


 ふと、マックス君が聞きなれない物を運んでくるよう部下の騎士さん達に伝えたんよ。


「なにそれ?」


「一応作ったのは、木の上のハイエルフ達なんですがね。

 ほら、今都市部では電話っていう物が作られているでしょう?」


「あー、あの遠くの人と話す魔導機械だっけ?

 あの木の上にいるらしい異世界人といけすかないほうのハイエルフ達が作ったってヤツ」


「詳しい原理はオレもわかりませんが、今までは長いケーブルという中身が銅のロープの間でしか話せなかったんです。


 ただ、コイツは少々魔力を食う代わりに、同じ機械の間ならどこでも話せるなかなか便利なヤツです」


 ガラガラと、荷馬車が運ばれてきた。

 中には、なんかアレだ、ランタンみたいなのがいっぱいついてるクソでかい機械があった。



「デカくね?」


「ええ、しかも重い。

 ただコイツが無いともうまともに戦場で連携できませんよ」


 と、でっかいし分厚い本……多分説明書をめくりながら、部下君達が機械と睨めっこ中。

 なんかスイッチパチパチしながら、ぶぅぅんと音を立て始めてる……


「うわ、何この魔力の量!?

 広範囲薙ぎ払う気!?」


「遠くの人間と話すだけなのですがね……

 とりあえず、このリュドミラの処遇、現時点での情報を共有しなければいけませんしね」


「隊長、繋がりました」


 なんか浅いUの字の機械を、片方の先端を耳に、片方を口元に当てるマックス君。


「第3近衛隊、隊長のマックスです。

 報告を……え!?」


 ん?


「ああ、いえ申し訳ございません。

 失礼ながら、手短に状況を」


 何やら、急に姿勢を正して話し出すマックス君。

 偉い人でも出たかな?


「……現時点では、これが以上になります……

 …………はい、ではまずそのように……

 ……え?あ、失礼いたしました。

 わかりました……では、変わります」



 珍しい機械の珍しい様子に、全員聞き耳立てたり食い入るように見ちゃってた。

 そんな中、オオカミの顔に何とも言えない気まずい表情を浮かべたマックス君が……え、私?私を見て何その不安になる顔!?



「……ミシェル師匠……無線を代わってほしいと」


「……ど、どちらさんが?」


「…………()()、です」



 わーーーーーーーーーーーーお!!!!


 ……いま陛下っていった?


 陛下ってアレでしょ?一国の王の事。


 ……王様ぁ!?



「………………そりゃ無視したら不敬ですわよね」


「…………はい」



 ……………………覚悟決めるか。


 例のU字のやつ受け取って耳へ……え、逆?ごめん直すね……よし


「あ、あのー?どうも初めましてでござりまするー

 あ、いやすみません……国王様……」


 マジか。なんか謎の機械とは言え、それ越しにすらプレッシャー感じるぅ!!



『────突然、呼び出してしまった事を謝罪する。

 ミシェル・リュー。初めて声を聞けたことを光栄に思う。


 私が、オーデン国王。アンドリュー・オーデン4世だ』



 聞いてた通り、国王様の声は案外若かった。

 たしか、まだ20代の人間だったはず。


 アンドリュー国王。メッタに人前に顔を出さない、静かな国王陛下だったっけ。



「いえ、国王様……わ、私こそ光栄でしゅ……!」


 だからこそ、声で分かる。

 偉い人っていうのは、マジで声に威厳がある。

 何故かは知らないけど、暗君でも暴君でも明君でも、声にだけは君主の威厳が出るんだ。


『堅苦しい挨拶はこの際省こう。

 折言って頼みがあって、直接話させてもらった』


「ひゅい!?」


 陛下の頼みぃ!?命令と何違うのぉ!?!


『状況はマックスから聞いた。謎ばかり増えている。

 敵に繋がっていそうな相手も捕まえたが、まぁそもそも逃がされているあたり何も知らないだろう』


「ああ、なるほど……言われて見たら」


『そうなれば、やはりこの度の事件、私の命を狙った相手を見つけるには、

 私達王家が隠していた事実である、暗殺聖女フィフスの生存が鍵になる。


 ミシェル・リュー。君が直接彼女に会いに行ってくれないか?』



 ……そうきたか。

 …………いや、こっちとしても命狙われてるし、フィフス姉が生きてるっていうなら話聞かないといけない。


「………………少々すみません。

 ねぇ、イグニスお爺さん!」


「なんだミシェル師匠?」


「……九蛇城砦、ヤバいところなの?」


「ああ。そうさなぁ……

 俺も若い頃調子乗ってた頃は、ダンジョンにも潜った。まぁ自慢では無いが、何度も最深部から帰還したもんよ。


 その上で言うがな、あそこに比べたらダンジョンなんぞ散歩のようなもんだ。


 俺が、技を極められ、加減をしれたのもあの場所のおかげ……いや、『せい』だな」



「…………」


 まさに、フィフス姉向けだ。



「……すみません王様。

 その頼みを引き受ける上で……お願いが二つほどございましてですね」


『……何か?』


「一つが、ここにいるリュドミラって言う元テンプレア騎士団の人を王都に送るマックス君達と一緒に、

 今回助けてくれたアーツマスターの二人、ユエンさんとセリアさんを一緒に送ってほしいんです」


 え、と二人が驚いた顔を見せる。


「我々を、護衛に?」


「いや、と言うよりねユエンさん。

 言いたく無いけど、あの薬使わない方がいい」


 ますます驚いた顔。当然か。


「アレ、喘息の発作止める力強いけど、劇薬だよ。

 知ってるでしょ?」


「……話が見えませんが?」


『……そうか、ウォルター家に送りたいと』


 ふと、耳元で国王様がなんと大正解な言葉を言っていただけた。


「そうなんですよ国王様。

 ユエンさん、王都に行ってほしいのは、私の知り合いに喘息にも強いすごい医者の一族がいるんだよ。

 多分、同じ薬効でも、発作の間隔がもっと長くなるか、発作を弱くできるかもしれない」


「「!」」


 一瞬、夫婦二人揃ってぱぁ、っと顔を明るく見合わせる。


「そんな、まさかそんな素敵な提案をしていただけるとは……!!」


「ウォルターさんって所に、私の名前の紹介でって言って行けば何とかなるさ。

 あ、お金心配だったら私につけといて。利子は取らないよ」


「いえいえ、そこまでは。

 ですがありがとうございます。

 ありがたく……可能なら、この私護衛としても動きましょう」


「同じく!ありがとうミシェル師匠♪」


「いいよ、助けてもらったし。

 マックス君も良いよね?」


「無論です」


「……で、失礼しました国王様。

 もう一個が重要なんですが……」


 そうそう、ここからが重要。

 なんせ、ちょっと面倒な、そして図々しいお頼み。


「お金貸してくれませんか?」


『……報酬なら払うが?』


「ああ、いえそれもありがたいですが、私じゃ無いんです。

 九蛇城砦は北の地域、ほぼ魔王領ですよね?

 そこで、一人助っ人を雇いたくて」


『助っ人とは?』


「私の同門。

 ……『強鳥拳(ラプターアーツ)』の、サリア・モルガーン・ハントレス」



 ───この機械の向こう、王都にいる王様の息を呑む声が聞こえた。



『……合点がいった。

 ()()()()()()()()()()か』



「そうです。

 業突く張りの墓荒らし、『サモハン』です」



 久々にフィフス姉だけじゃなく、サモハンのアホの顔見に行くか。




          ***

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