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アーツマスターファンタジー~剣と魔法の世界に伝わった武術を使える達人達の話~  作者: 来賀 玲


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第6話 : 飛燕拳《スワローアーツ》のユエンと流水拳《フローアーツ》のセリア





 最初のアーツマスターの死後、この大陸に散らばったアーツ達は独自の進化を遂げている。


 そんな中で、アーツは二つの系統へと分かれていった。



 1つ。飛んだり跳ねたりの機動性を重視して、複雑な歩法や難しい技が数多い『北派アーツ』。北に住んでる人間や魔族とかが多用する奴だね。あそこ平坦なとこ広いから飛び跳ねまくっても安全なところ多いんだ。


 もう1つ。飛んだり跳ねたりがないわけでは無いけど、なるべくどっしりと安定した構えからくる強力かつ緻密な手技をメインにした『南派アーツ』。

 意外と川が多くて小舟の上で戦ったり、後ダンジョンの中の罠がありそうとか危ない足場で修行してるから必然的にそうなっちゃったって感じ。



 その中でも『飛燕拳(スワローアーツ)』は、北派の中でも超技巧派って言われている。


 コレ作ったのは私ことミシェルさんと同門だった、優男で人間で初の魔王配下の四天王になった人だったんだけど、まぁそこは置いておいて。



 飛燕拳は、複雑な歩法がダンジョンの地図みたいなことから『迷宮歩き』なんて言われているんだけど、その歩法が僅かな隙間でも飛び跳ねて進めるし、相手の虚をつく奇襲にたけてる。


 そんな迷宮歩きと同時に、相手の当たると痛いツボとか弱い骨格、鍛えられない場所、魔力の流れを断ち切れる場所を確実に突いてくる擒拿術(きんなじゅつ)の一つ、点穴突きを得意としていて、たしか魔法発動中の魔術師相手に奇襲で魔法を中断させるとか……上で言った、同門の歳下お兄さんが良く笑ってやってたけど、



 あー話が長くなったね。だって驚いたもん。

 あの的確さ、速さは同門の歳下お兄さん超えてるぜユエンさん!






「すびません、ゲホ!!

 実は私が、ゲホ、助けて欲しくて……ゲホ!!

 み、水を……!!」



 ───そして、そんな天才は喘息持ちでした。



「お茶ァァァァァ!!!!」


 さて始まりました。

 爆発する人間達から助かるために、この状況から私たちを助けられる人を助ける為に、全力でお茶を運ぶ時間が。



「まずい!!しこたままだ残っとる!」


「クソッ!!時間がない!!」


 マックス君達も槍捌きで距離をかろうじて取れてるけど、爆発の範囲って槍より長いんだよねー!!



「ゲホ……水さえ……げほがほ!!」


「助けてもらった上に苦労をかけて申し訳ないな!!」


「はいお茶持ってきたぁ!!」


 滑り込みでもお茶はこぼさない!!

 んでもって、粉の薬取り出してたユエンさんにはいお届け!!


「すみません……」


「こっちこそごめん!!

 でも、コレは飛燕拳の擒拿術ないとキツい!!」


 咄嗟に、そこら辺にある誰かの荷車蹴って、自爆しそうな人だかりを飛ばしたけど、ボンって派手に爆発したかと思えばまだ怯まない人達が来る!!


「死ぬのが怖くないのかこいつら!?」


「同じ事を思ったとこだ!!」


「にしたって一言も発さないのが怖い!!

 あ、やばっ」



 あ、ヤバい一人こっちにすり抜けた!

 まだ息整ってないぞユエンさん!



「ちょっとミシェル師匠?私のダンナよ」


 と、突然上から自爆人間を踏みつける足が。

 ぐらりと倒れ込む相手に、さらに数度蹴りが顎から入れられて、空中に巻き上がった相手を掌底……掌で打撃が。


 まるで車輪みたいにぐるぐる回って、後ろに迫ってた自爆人間を巻き込んで吹き飛んでいった。



 あれが大陸に轟く『流水拳(フローアーツ)』の妙義!


 相手であろうと自分であろうと、力の方向を自在に操って、掻き消し強化して自在に操る!




「抱きつくの禁止!」


「セリアさん!ごめん、旦那さん返す!!」


 おっと、寝取りとか趣味じゃないしね!

 じゃなくて、とユエンさんを立ち上がらせる。


「すみませんね……もう大丈夫です」


 肩を借りたユエンさんが立ち上がって、再び走り出す。


 流れるような足取りで、再び自爆人間達の魔力の点穴をついて、自爆魔法自体を破壊していく。


「セリア!

 まとめてください!!」


「無茶を言うわねダーリン!」


 周りを、囲まれたセリアさんにとんもない指示!


「ちょっと一撃必殺二人組!!

 ボケっとしないで、一体ぐらいセリアさんに向かって吹き飛ばしてあげな!!」


「おう!」


「すみません!俺も!」


 よし、まず2体を槍捌きでぶん投げてくれた!!

 セリアさんに激突するコース……これで良し!


 自爆人間二体を、激突寸前に絡めとるよう両手を添えるセリアさん。

 吹き飛ぶ勢いそのまま、身体を大きく捻って、地面の上で回転して……気がつけば二人の人間をフレイルの先みたいにぶん回していた。

 その勢いはもはや竜巻で、近づいた自爆人間たちも巻き込まれて空に打ち上げられていく!


 流水拳(フローアーツ)の奥義、渦潮投げ!

 いやこんな風魔法上位レベルになるまでやれるもんだっけ!?規模が200年前編み出した本人越えで、兄弟子ちゃん浮かばれねぇ!!



「ダーリン!」


「……こぉぉ……!」


 片手をあげた渦の中心のセリアさんのその手の上に、トンと軽く片足立ちのユエンさんが!


「セリア、キミの手にごめんね」


「うまく受け流すわ」


「……ハッ!!!」



 パパァン!!


 凄まじい破裂音。吹き飛ぶこともなく腹がへこむ自爆人間たち!!

 あの技は、北派アーツどころか全アーツ中でも覚えるのも使うのもクソムズい奥義!


 雷霆脚(ライトニングブラスト)!!


 いや、『飛燕雷霆脚スワローライトニングブラスト』か!!


 あんな不安定な足場で!

 名前の通り蹴りの速度で雷が落ちるのに勝ったと言われる速度で!!


 それでいて、飛燕拳(スワローアーツ)の擒拿術、点穴付きで確実に魔法の発動を止めている!


 ユエンさんも只者じゃないけど、それを下で抑えるセリアさんも只者じゃなかった。


 雷霆脚は、蹴る足より地面に設置する足が重要なんだ。

 支えがあるから、最大限の力を蹴りにこめられる。


 じゃあ、それ片手で支えて微動だにしないって?

 よく見たら、セリアさんの足元に大量の穴ぼこが出来ている!

 流水拳の力の受け流しで、腕に来た衝撃を体の捻りと足技で雷霆脚の衝撃を地面に散らしているって!?



「これほどの奥義、一生に一度見られんとは思った……!」


 イグニス爺さんもそう言うわ!


 ここまでの凄技、そうそう見れない!!



「────終わったわね」


「───ふぅ〜……」



 なんと、全員を無力化。

 凄まじい…………凄まじい技だった……!



「……助かったわ、ユエンさんにセリアさん……!

 あの、礼は1週間お茶タダでいい?」


「いえいえ。

 何があったかは知りませんが……これは、魔王軍でもやらない下法のようで」


「ええ。

 皆、洗脳に改造……色々危ない魔法までかけられてたもの」



「…………色々聞きたかったけど、逃げてるよねーやっぱ」


 後ろ、店にいたあの不死身の色々知ってそうな人も、結構な量の血痕残して消えてる。


「…………あの!!

 申し遅れました!!俺は、オーデン王国の近衛隊長であり、牙突拳(ランスフィストアーツ)のアーツマスターを若輩ながら務めているマックス・ティーチと申します!!


 失礼ながらお二方、今の技は飛燕拳(スワローアーツ)流水拳(フローアーツ)


 魔王国に伝わる名家、代々魔王四天王を輩出してきた事でも有名なフォージャー家とチャンドラ家に伝わるアーツだ!!


 それほどの腕!あなた方は、今代のアーツマスターか!?」



 え?あ、兄弟子達の苗字!!



「…………少々込み入ってはいますが、いかにもその通りです。

 私は、本当の名前はユエン・フォージャー4世。

 飛燕拳(スワローアーツ)のアーツマスターです。

 そちらのミシェル師匠に名乗ったイエフ性は、嫁いだ母のものです」


「…………私は、流水拳(フローアーツ)のアーツマスターのセリア・フォージャー」


「セリア」


「……まぁ、指輪通す前はセリア・チャンドラだったけど」


「…………じゃあ、アレ?

 そっちが、シエル兄貴の……孫の孫か孫の息子で?

 そっちは…………まって、サムの兄貴ってサキュバスと結婚したの!?」


 いやそこでそれ聞く私ぃ!?


「ひいおじいちゃんの趣味に何か問題?」


「いやねぇ……なんだかんだ仲良く修行しててさ。

 お互い師匠のお父さんによく怒られる……悪戯っ子どもでさ。


 で、普段から鼻の下伸ばして言ってたんだよ!

 抱くならたとえ罠でも諸々吸われても良いから極上の女ばっかのサキュバスがいい〜とか、チビミシェルもそんぐらいおっきくなれよーって!!

 何発か殴った!!」


「ぷっ!

 ひいおばあちゃんの言ってた通りじゃないの!!

 くふふふ……!!」


 まさかなぁ……ああ、そっか

 ああ、そうか…………受け継がれてるなぁ、色々。








 さて、立ち話もアレだし、開店休業状態だしお茶でもね。

 ユエンさんの体調も心配だし。


「というか、ミシェル師匠長生きとは思ってたけど、私達のひいおじいちゃんに会ったことあるのね」


「あったこともクソも、兄弟子だもん」


「まさか、最初のアーツマスターの直弟子!?!

 ゲホゲホ!!」


「あーあー、そんな興奮しないでユエンさん。

 いや確かに一応血繋がってないし歳下だけどお父さんだったし、ブルースお父さん」


「そんなレベルの方に、世話になっていたとは……!」


「あー、もうそう言うふうに畏まんないでよ!

 ただの田舎の弱いアーツ使いの小娘エルフだよ」


「私よりずっと歳上の300歳で?」


「300歳は人間で言えば15の小娘なの!」


「……コホン!」


 と、ここでマックス君による咳払い。


「……まぁ、お互い驚きの素性なのは認めますが。

 それより、なぜ北派アーツの中でも家柄も実力も申し分ない二つのアーツのアーツマスターが、

 このような場所で冒険者になっているのですか?」


 ……まぁそこ重要だよね。

 あの腕だよ、むしろ北の魔王領じゃあ、一目置かれて当然だ。



「いやお恥ずかしながら……私達は『駆け落ち』してきたのです」


 ユエンさんが、少し恥ずかしそうに言う。


「駆け落ち……ですか!?

 ま、まぁその是非は置いておいて、あなたほどの腕、放っておくわけが」


「ああ、私は出来損ないでした。

 理由は、ケホッ……先ほども見たでしょう?」


 ニッコリ、軽く咳き込んで柔和に応えるユエンさん。


「そこのオオカミちゃんが言う通り、ユエンは大天才だったわ。飛燕拳(スワローアーツ)もほぼ独学で覚えたほどの」


「大天才でイケメンでこんな紳士な旦那?セリアさん、お目が高い!」


「でしょ?でも、本家の奴らは違ったわね。

 粗暴で野蛮で身体だけは頑丈なダーリンのクズ兄貴に、アーツマスターを継承させたかったの。


 ついでに、私はそっちに嫁がされる所だったの」


 ……あー。


「……別に、アーツマスターの称号なんて入りませんでしたよ。私はこの通り、肺が弱い。

 兄の方が、ずっと称号にふさわしい身体だったのですから」


「ならばなぜ?」


「……セリアだけは、譲れなかった」



 ───気恥ずかしくなるセリフに、すっと片手をセリアさんへ回す仕草。

 セリアさんもそっぽ向いて顔赤て……


 やだー、もうこっちが顔赤くなっちゃう!



「カハハ!!おまえさん、そんな顔して男として大事なもんしっかり持っとるな!」


「茶化すなイグニス!!」


「ははは……血反吐を吐いて兄を、少々私の気持ちがわかる身体にした甲斐がありました」


「…………私も、幼い頃からちょっとだけ天才だったけれども……アーツマスターなんかになるほどだったせいでユエンのことダーリンって呼べない事態になりかけたわ。

 でも、子供の頃からずっと弱かった男の子が……

 ふふ、まさか、私ごと全て奪って外に出ていくなんてね……」


「…………自分でも信じられないよ。

 あの時は薬抜きだったから、肺が少し痛んだけどね……」


 …………


 ちょっとごめんね。こっちのお茶じゃない。

 紅茶じゃなくて、ちょっと香りがキツめの花のお茶。


 淹れるのは簡単だし、すぐユエンさんの元へ持っていく。


「……こちらは、たまに出してくれたものですか」


「……それ、お婆さんかひいお婆さんからの遺伝でしょ?」


 え、と驚くユエンさん。


「シエル兄貴が、昔ある貴族の嫁を奪ったことがあったんだよ。

 喘息持ちの、体が弱くて政略結婚されそうだった、

 幼馴染の女の人」


「え?」


「結局、兄貴は婿養子になったけど。

 そっか、ユエンさんがシエル兄貴の一世一代の大陸一かっこいい大バカの結果だったんだね。

 ……ご先祖様、そっくりだよ」


「……」


「これ、その人にも出した喘息が和らぐ薬草のお茶。

 こっちにしときなって」


「…………通りで、今朝も発作が出るまで長引いたわけですね」


 ユエンさんが、お茶を一口すする。


「……少しでも、こんな優しさに報いることができたなら幸いです」


「報いるどころか命助かってるからね?むしろこっちがありがとうだよ」


「その通りですお二方。

 むしろ、助けられておいてなんの成果もなしとは、俺こそ未熟の極み。

 国王陛下や父、姉になんと顔向けすればいいか」


「父なら、俺の首でも持っていけばいいだろう」


「勘違いするなよイグニス!家名をかけた敵討ちも重要だが、今は陛下の密命を果たす方が重要!」


 マックス君真面目だね。



「…………そもそもどういう状況なのでしょう?」


「簡単に言うとね、さっき襲ってきた国王陛下暗殺未遂事件の犯人達が、私のアーツに似たアーツ使ってたんだわ。


 でも、アレは私の陽春拳(ミシェルアーツ)じゃなくって、確実に姉弟子のフィフス姉の毒蛇手(ヴァイパーアーツ)なんだよね」


「フィフス姉……フィフスって、もしやあの暗殺聖女フィフス!?」


「暗殺聖女!?御伽話の……そういや、最初のアーツマスターの直弟子だったなら……ミシェル師匠もだいぶ御伽話の存在じゃないのよ……!」


 お、懐かしいあだ名が北の生まれの二人から。



「……なぁ、ミシェル師匠」


「なんだいイグニス爺さんや?」


「俺は学も教養もないから聞いたことがないんだが、

 暗殺聖女なんぞ言われるとは随分おっかない姉弟子だな。

 何をしたんだ?」


「……そういやイグニス爺さんここら辺出身か。

 なら、箝口令(かんこうれい)あったよね、知るわけないか」


 北の方なら有名なはずだけど。


「箝口令?つまり、王様直々に他言無用とか言うヤツか?」


「そうだよ。フィフス姉はこっちの王国じゃあ歴史からほぼ消された。

 私としては酷いって思う反面、やりすぎたのも事実だし」


「いったい何をやったらそうなる?」



「当時の王族、元老院の貴族達、みんな殺した」



 驚くイグニス爺さん。

 でもね、まだ続きがある。


「それだけじゃないんですよイグニスさん。

 暗殺聖女は、当時の魔王も、魔王四天王全てを殺した」



 もっと驚くイグニス爺さん。



「ついでに、当時の女神教会の教皇も殺した。


 けど、そこで私の兄弟子で神父だったジェイコブ兄貴……『金剛掌オリハルコンフィストアーツ』のアーツマスターになった人が、フィフス姉を止めた。

 ……命を奪う結果になったけど」



 絶句……しちゃうかぁ。


「……元は殺し屋でも、暗殺聖女の伝説はやはり恐ろしいか」


「殺すは簡単よ。

 だがな、だからこそ言うが、普通は殺すまでが難しい。

 ましてや、社会的な地位の高い人間は、おいそれと殺せんよ普通は」


「でもフィフス姉にとっては私のお父さんの(かたき)だったから、そこら辺は関係なかったんだよ」


 そう。

 これだけのことをフィフス姉がやらかした理由は、


 初代アーツマスター、私のお父さんのシャオロン・リューの仇撃ちだ。


「……!」


「ここで終わればそれで良かったけど、問題はね?

 なんでフィフス姉が『聖女』なのかって所」


「……聖女といやあ、俺の殺してしまったおっかない師匠も真面目に祈る存在だったが、なんでそれほどの恐ろしいことをした存在が?」


「…………聖女の認定方法って知ってるかい?

 正確には、『聖人』もこの条件に当たれば認められるけど。


 まず一つめの条件として2個ある。

 生前に、女神様の加護由来の『奇跡』を二つ起こすこと。

 その行いにて女神様の善の面をなぞると認められたこと。


 これで、みんなの知っている聖女と聖人の教会が定める条件」


「一つ目の条件で2個と?」


「なんせ、2個目の方がある意味簡単で、ある意味一番難しいんだ。


 2個目の条件が、


 死んでから女神様の力の奇跡を起こすこと」



「死んでから?」


「たとえば、死骸を入れた水が腐らずむしろ浄化された。

 たとえば、遺物となった骨の一部が埋め込まれた剣が聖剣となった。



 たとえば、

 どう見ても即死のまま死後3日目にして、蘇った」



 そう、と皆が驚く中、続ける。



「……フィフス姉はあれで敬虔な女神様の教徒だった。


 だからって言う所業だけどね、ジェイコブ兄貴の金剛掌の奥義受けて内蔵破裂して死んだはずなのに、


 蘇ったのさ、傷ひとつない姿で。

 これを奇跡って呼ばないでなんて言う?」



 そう、フィフス姉は一度蘇った。


「でも、すぐ殺されたよ。

 どこかの大穴に落とされたんだ、聖女として名も上がってるのにさ!」




 ────雨の日に、幼い私の前に現れたジェイコブ兄貴が、地面に額をなすりつけて謝っていた。


『すまないミシェル……!私は、フィフスを二度も殺した……!!

 あんな心優しい子を、二度も……!!』




「……嫌なこと思い出したな。

 それが死んだはずのフィフス姉の全てだよ」



 記憶に残る、顔が怖くて優しい大男の兄貴の本気の悲しみの顔を振り払う。

 そう。弟子同士は兄弟姉妹同然。殺し合うなんて……!




「…………魔王領の伝承と違う?」



「────え?」



 セリアさん、今なんて?


「てっきり、死んだとは一度目の死とばかり……」


「どう言うこと!?」


 思わず、詰め寄りそうになった。

 いや詰め寄った。無理。


「……子供を諌めるのに、よく使う言葉があるの。


 『悪い子や嘘つきは、暗殺聖女が夜にやってきて命を奪う』って。


 暗殺聖女は死後蘇った後、北と南の間の平野にある、一度入れば出られない死の迷宮、かつてあらゆるモンスターの産みの親、蛇の神エキドナの寝床、そして凶悪にして死刑にできない死刑囚がたどり着く監獄、


 九蛇城砦(くだじょうさい)


 その場所の奥にいる暗殺聖女が、夜な夜な街にやってきて、」


「九蛇城砦!?!」


 うぉ、イグニス爺さんどうした!?


「急にどうした!」


「…………ミシェル師匠、もしや、

 あんたの姉弟子は……ゴルゴーン、か?」


「なんでそれを!?」


 そう。

 姉弟子フィフスは、人じゃない。ゴルゴーンだ。


「………………これも、偶然か。面白い巡り合わせというべきか」


 ふと、イグニスお爺さんが、上着を脱ぐ。


「わお、すごい身体!」


「セリア!」


「別にそう言う体質だからな。

 それよりコイツだ」


 イグニスお爺さんが見せる背中。


 ───菱形の頭のヘビの焼印があった。



「俺は、その九蛇城砦で50年過ごした。

 あの監獄で罪を数えていたんだ」



「!」


「会ったこと、あるぞ。

 紫髪のゴルゴーンのシスターだったが、合っとるか?」


 ────間違いない。

 フィフス姉だ……!


「…………どうやら、次に会うべき相手が決まったようですね……!」


 パン、と拳を掌に打ち合わせて、マックス君が言う。


 と、ガチャガチャと鎧姿の兵士さんが近づく。


「マックス隊長!!生き残りはやはりいません!」


 あ、マックス君の部下ね。


「やはりか……ご苦労でしたね」


「いえ、先行して正解ですよ!

 アイツら、入口にも見張りと妨害をしてました!

 遅れてすみません……ただし!」


 ふと、手で誰かを呼ぶ兵士さん。


「離せよこのやろう!!アタシが誰かわかってんのかコラ!!」


「怪しいヤツを捕まえました!

 黒ずくめと話していた女です」


 連れてこられた顔見てびっくりした。


「あー!!

 私の店に穴あけた冒険者の女の人!!」


「あ!?!

 なんだテメェ、エルフババアじゃねーか!!」


「…………名前なんだっけ?」


「リュドミラだクソアマァァァァ!!!!」


 あの危ない冒険者が、あリュドミラっていうんだっけ?が兵士さん達に抑え込まれてる。


「コイツです!血だらけの黒ずくめと話してました!」


「…………?」


 ふと、セリアさんなんか怪訝な顔。


「どうやらそちらの女性とは話を聞かなければいけないようですね」


「───男よ、この人」




 ………………



「……セリアさん、今なんて?」



「いえ、元は男ね。

 男の部分ちゃんとあるけど、体はもう女よ」



 セリアさん、なんとそのリュドミラとかいう人の股間を揉み揉みして言うのでした。



 ん?まって揉み揉み??


「ぎゃう!?」


「ね?揉める部分あるの」



 ────少なくとも、なんかボール2つ入ってる袋はあったみたい。





           ***

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