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アーツマスターファンタジー~剣と魔法の世界に伝わった武術を使える達人達の話~  作者: 来賀 玲


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第1話 : 陽春拳《ミシェルアーツ》のアーツマスター




 まずは、ようこそエルフの住んでるでっかい木の街『ユグドラシルの麓』へ!


 ここは、エルフとハイエルフが住んでるでっかい木の麓だよ!!


 木の根の地下のダンジョンに挑んで、お宝を手に入れたいとか、すごい武器の素材が欲しいって冒険者が今もいっぱい!!


 まぁ、木の上の方に住んでる魔法探求大好きハイエルフの皆さんはそういう騒がしいの煙たがって滅多に下に降りてくることないけど。


 下は賑やかだよ!まだ性格的にまともなエルフにそれ以外の人たちもいっぱい住んでるし、宿屋もいっぱい、ご飯も美味しい!!



 で、この『ミシェルさんのティーハウス』は、ちょうど木の根の近くの簡単に食べられるお茶屋さんだよ。


 ここは、木ならなんでも生えてるエルフの森。

 ここのお茶の木から取れる葉っぱを使った紅茶と、ちょっとクセがあるからエルフ以外飲まない緑茶も美味しいよ。

 あ、私もエルフだし草も木の葉もお花も得意だから、色々なお茶出せたりするよ。


 後、地味に砂糖の元になる世界樹ユグドラシルの樹液もいっぱい出るから、お菓子が格安で作れるんだよね。


 なわけで、お酒飲みたい人は別の店、軽いご飯か甘いものとお茶で楽しみたい人はウチの店へどうぞ!


 ってしたら大反響で……で、長くなって申し訳ないけど、ね?





「ええとさ、まず……ミシェルさんだっけ?」


「そうだよ、私がミシェルさん!ぴちぴちの300歳のエルフー♪」


 鉄板のギャグがぁ〜?

 滑っちゃった……だれも笑ってない……


「300は婆さんだよ!」


「ハァ!?エルフで300は人間換算で15か16だっつーの!!

 そりゃ、人間さんの作ったルールのおかげで、こうやって齢300の子供がお店出せるけど!!」


 はい、生意気な赤ちゃん冒険者にセット一個!!

 どうせ甘いの好きだから角砂糖多めにしたげるよバブちゃんめ!!


「まぁ、結構マブい姉ちゃんだから……俺はあんた好きだけど」


「エルフじゃ美人でも真ん中の方だよ?

 後、年下は興味ないの」


「俺は年上は好きさ。金髪の色白は特に」


「はは、面白いクソガキちゃんだわ」


 屈強なお髭の戦士さん、まぁ30後半ぐらいのお子ちゃまじゃなかったらそのナンパ受けてたけど。


「というか、てことはミシェルさんだっけ?

 あんた、アーツマスターなんか?」


「まぁそう言うことになるかな」



 まぁ、そうなんですけど。

 私こと、ミシェルさんは、一応今のアーツマスターですわ。



「まぁ私、弱いけどね。

 アーツって一言で言ったて、私がやってるのなんて色々ある中じゃ弱い方だよ。


 こうやってお茶を出してる方が似合いのね」



 まぁ、今はここで美味しいお茶と軽食出してるエルフの小娘なんでさね。

 アーツはあくまで、趣味なんだけど……色々あってこの巻物を店の名物にしてる程度に達人になっちゃっただけのね。


 まぁ、ごく普通の人生……あ、エルフ生か。








「────気にいらねぇんだよなぁ」





「気に入らねぇんだよなぁ?」




 ……まぁ、その?

 多少、トラブルはあるけど??


 人気のお店なんで、変なトラブルも多いんだよね。



「……お客さん、もしかして……

 お茶苦かった?」


 まぁ私も、至らないところあるかもだし、まずこちらのお姉さんの言うこと聞いてみましょ……



「お茶じゃねぇよ。

 その、古臭い巻物だよ」



 …………

 えー、そこ??



「アーツなんてものありがたがってよ、あんなの古いだけの『スキル』の劣化が、なんで今も残ってるんだよ、なぁ?」


 …………



「いやなんでって言われても、なんとなく?」



 あ、お姉さんどころか聞いてたみんなズッコケた。


 ……いやなにこの空気。


「なんとなくってなんだよ。

 そんな理由でカビ臭いもんを守って、」


「あの、お客さん?そりゃあ古臭いでしょ『総合武術(スキルアーツ)』に比べたら。


 アレ作った人はね、『あらゆるアーツの優秀な所を集めて一つにし、整理してより簡単に覚えられるようにすれば人々に広められる』って事で、自らあらゆるアーツマスターの元に行って全て覚えた大天才の人が作ったんだよ?それもたった60年前に。


 まぁ、最初のアーツマスターが死んで200年、ここにある奴ができたのは……たしか100年前かな?


 そりゃあ最新の技でしょそっちが」


「……さっきからベラベラ頭のいい歴史の授業しやがってババアがよ……」


「ちょ、ちょ、何立ち上がってんのさ、お客さ、」



 ボォン!!



「……!」


 屋根が、吹き飛んじゃった……!


「スキル『覇王弾』だ……!

 テメェら自称達人の技じゃできねぇ、山だって砕けるッ!!?!」


「ってなにやっとんじゃボケ客ぅーっ!!!!」


 思わず、ビンタしちゃった。

 いやするでしょこれはぁ!?

 私のお店ぇ!!ローン返したばっかなのにぃ!!!


「おま、おま!!喧嘩で壁ぶっ壊すのは何回かあったし、酔っ払ったオークとケンタウロスがこけて突っ込んでゲロ吐いたこともあったけど!!」


「何しやが、」


「見なよこの穴ぁ!!2階私のお部屋だよぉ!?

 隣の修行に使ってる場所じゃなくてお部屋ぁ!!!

 ピンポイントでぶっ壊すアホがあるぅ!?!」


「チッ……調子に乗ってんじゃねぇぞこのクソエルファ!!!」


 あ、顎一直線のアッパーカット。

 多分、覇王弾もぶっ放す気の殺す気……!



 ボォン!!



 …………また、屋根に穴開いちゃった。


「ガッ!?!」


 直後、私がちょっと右手で腕を少しずらすよう押して、さらについうっかり左手で二の腕を叩いちゃったなんていう明らかにやりすぎちゃったせいで、


 覇王弾をぶっ放した方の腕……肩から外しちゃった。

 うわ、伸びちゃってるよ、肩と腕の間……!!



「ああああああああ!?!?!

 痛、いっっ、痛ァァァァッ!?!?」


「あ、やっべやりすぎた。

 ごめん、もう一回耐えて!」


「ギャアアアアアアアアアアアアアッ!!!」


 即座に外れた腕を、下にもうちょい引っ張って戻しておく。

 ……肩はずす、ってクッソ痛いんだよねぇ……ごめんねぇ……


「ギィ……ィィイ……!!」


「あ、あの……やりすぎたけど、一応弁償の領収書の名義聞いて良い?」


「───ぶっ殺す!!」


 お姉さん、脳みそ噴火しちゃったみたい。

 まだ痛むはずの左腕であの攻撃を……!


「あっぶぅ!?」


 咄嗟に、一歩踏み込んで腕を潜り込ませて逸らす。

 それた魔力の球が背後のちょうど店の入り口をぶっ飛ばす。


「あ、お客さん無事!?

 危険だから離れて!!」


「よそ見すんなコラァ!!」


 綺麗なお姉さんがいうセリフじゃなーい!

 オマケに綺麗なお姉さんと思えない剛拳とバ火力のがボンボン飛んで!!

 退いたら死んじゃう!!後ろにお客さんにお得意さんいませんように!!


「なんであたらねぇんだ!!」


「その技は、正確には『神鉄拳オリハルコンフィストアーツ』の技!

 あくまでトドメの火力用で隙が大きいってそれ作ったアーツマスターも知ってたよ!?」


「スキルだって言ってんだろがぁ!!」


「そのスキルも一応アーツマスターが作ったもんだって!!」


 無茶苦茶に振るってくる剛拳を、普通に受けるより一歩前で二の腕とかを払って逸らす!


 この技、魔力を拳に集めて衝撃派に変えてるんだけど、要は魔力は拳に集まってる上に拳の先から出るわけ。

 手首からも二の腕からも出ないし、拳の方向がすなわち攻撃方向であって、拳から先が攻撃範囲。


 なら、相手に腕ごと逸らしてしまえば懐は安全圏になるというわけで。



 え?理屈は分かるけど普通は無理?

 鍛錬足りないぞ?




「ふざけんな!!これまで沈めてきた達人気取りのジジイ共なんかと同じの癖に!!」


「喧嘩と手合わせに奇襲で殺人技してどうすんだよ、おねーさん!!

 てか、その師匠達、沈めたってことは生きてる?

 その技本当はね、まさかの至近距離で撃ち込んで確実に内臓を破壊するための奇襲の殺人技だよ!?

 その使い方間違ってんの!!

 てか魔力消費大丈夫!?」


「知るかクソがぁ!!」


 あー、ここで一歩引いて大技使っちゃう?

 ……しゃあないな、って事で、せいぜい腕を伸ばした程度引いちゃった距離だし……


 すっと、右手の伸ばした指先を、ごめん美人なその顎に添えますねー。


「!?」


「喰らいなさいな、ミシェルさんの地味な奥義」


 コツン、とほんの拳一個分とちょっと、体ごと足から捻って生まれた力を加えて、右腕をその顎に叩き込む。


 ……私にアーツを教えたお父さんが、名付け親の技だ。

 たしか、アーツマスターから伝わる異世界の言葉、と言うか異世界の『単位』だったっけ?

 岩を壊せるわけじゃない、本当にただ短い距離でも痛いパンチができるってだけ。


 それがワンインチパンチ

 大した事のない奥義。


 インチって短い距離の単位らしいね。知らないけど。


 知らないついでに解説すると、案外人は力んで構えて大振りして殴っても、その力み自体がブレーキになっちゃうから、


 ほんの拳一個分の移動距離。

 体の捻りで生まれる程度の力。

 気絶させるのに充分な運動の力を上手く出すための身体の使い方がキモな、地味〜な奥義。


 でもそんなたかが拳一個分の移動距離の力。



 これだけあれば、

 店破壊する威力なんか無くても、

 人はほんの少し充てる場所を工夫すれば、


 ────気を失わせることができる。



「────」



 すんごい呆けた顔で、お姉さんが気絶して倒れる。

 一応キャッチ。で、椅子とテーブル引き寄せて座らせておやすみ。


「……ふいー、あー、やりすぎた。

 どうしよ、起きたらまた暴れて店今度こそ消えるかなーコレ?」


「……あ、あの……」


「あれ、このお姉さんのお仲間さん?」


「いや違うけど……えぇ、アンタ、本当にアーツマスターだったのか?」


「え、まぁ……大したもんじゃないけど。知り合いの師匠達には負けるし」


「いやでもこの沈めた女のやつさ……

 名前、リュドミラっていう……最近売り出し中の『Aランク冒険者』で……

 単独でドラゴンを殺すとんでもないやつで、あの世界に数人しかいない『Sランク』昇格前って」



「なんだって!?Aランク冒険者!?

 本当!?」


「本当だよ。ドラゴンスレイヤーとも言われて、」


「こうしちゃいられない!!」


 それ聞いて黙ってられるか!!

 ……懐弄って、あお財布発見。金貨を8……いや迷惑料含めて12貰うか。いや、軽食セットの料金にもう一枚〜。


「何してんすか?」


「店の修理代今貰っちゃっても、Aランク冒険者なら直ぐ金欠になんないでしょ?

 どうせ騒ぎ聞きつけた憲兵に捕えられたら色々あって素寒貧で出てくるから、今のうちに修理代貰っとくんだよ!」


「……」


 なんだよその目はさー!!重要な事でしょー!?

 幻滅してんじゃねーよこんにゃろー!!!



「なんの騒ぎだ!

 ああ、またかミシェルさん!!」



 そしてやってきました憲兵さん。

 割と常連の憲兵隊長おじさん。年下だけど。


「あ、憲兵隊長さんお疲れー。

 アイスティー飲む?氷魔法が効いてきた時間でさ」


「賄賂とは思わんぞ!

 だが駆け付け一杯ありがたく……くぅ〜美味いな!


 で、この派手な暴れ方したバカは?」


「そこのお姉さん」


 部下の皆さんにも駆け付け一杯差し上げながら、例のお姉さんのぐったり顔を指さす。


「コイツは!?

 手配書の要注意人物じゃないか!ギルドからも言われるレベルでよく暴れて手がつけられない冒険者らしいからな。

 オイ、ところでミシェルさん!修理代は頂いてるんだろ?」


「めざといねぇ、納税免除になる?」


 ちぇ、この年下おじさんめざといんだよね!

 ほらよ、金貨!


「12か。後で書類を持ってきてやる。20枚要求しておけ」


「なんでまた?」


「冒険者ギルドだぞ!?

 補償は出ても半分しか払わんよ!」


「どうも」


「良いさ!ああ、後で隊舎に金貨2枚分、アイスティーを樽で持ってきてくれ!!

 レモンの味の砂糖入り!」


「あい、毎度!ご苦労さん」

 



 でもめざとい割にいいおじさんなんだよな隊長さん。


 はいコレで騒動終わり。

 はー、全く疲れた……さて掃除と注文用意すっかな。



「──ハッ!?

 離しやがれ!!一人で歩ける!!」


 って、おいおいお姉さんお目覚め?

 なーんか、怖い顔でこっち向かってくるけど。


「テメェ、一体何もんだ!?

 まさかSランク冒険者か!?勇者パーティか!?」


「いやただのお茶屋だよ。軽食出してて、ちょっとアーツマスターってだけ」


「ただのお茶屋ァ!?

 そんなのに負けたって言えってかこのぉ!?」


「…………ただのお茶屋が嫌なら、じゃあこう名乗っとく?」



 はー……では、アーツを履修する者らしく、右手をグーで、左手をパーで、胸の前に付き合わせて。



「『楊春拳師父ミシェルアーツマスター』、

 ミシェルさんだよ。手合わせどうも」



 って挨拶。

 したらもう、すっごい顔。


「〜〜〜ッ!!

 顔覚えたからな、ミシェル!!!

 アタシの強さの証明のために!!!

 お前はいつか竜殺し(ドラゴンスレイヤー)のリュドミラがぶっ殺す!!!」


「私は忘れるよ!!そのセリフ何百回目だよ、毎回店壊されてさ!!

 後、自分の名前ついたアーツのアーツマスター名乗るの恥ずかしいけど、自分で竜殺しとか名乗るの恥ずかしいよ!?」


「クソが覚えてろぉ!!!」


「おい!話は隊舎で聞く!逃げるなよ?

 後竜殺しが事実でも名乗るの恥ずかしいぞ!」


「クソ憲兵ぇっ!!」


 そうして、あの姉さんも隊長さんも行っちゃった……



「はー……営業再開しないとな……」


 いやこんな見晴らしのいいお店に来るかね?

 あー、掃除も大変だー!!


「あーあー、全く、冒険者なら冒険者らしく、お宝探しとか迷宮の攻略とか、そういうのだけに集中しなよってねー……」


 木の家だから木の破片を箒とちりとりで集めるのが、単純に面倒!!

 終わったら雑巾掛け……その間お客なし!!ぴえん!


「……強さ、か」


 掃除しながら、なんと無く思う。

 私も、せいぜい300年程度、エルフで言えばまだ若造。

 だから、こんなジジくさいこと考えて良いかとも思う。


 まして、一応現代のアーツマスターの一人だけど……だけど……









 あれは、まだ80歳だから……

 エルフ換算で4歳のころか……




「まぁ、アーツに強さなんてものはいらないんだがな」



 私のお父さん、人間なんだ

 で、アーツマスターだったんよ


「おとちゃん、いみわかんね」


 当時、多分この拾ってくれた人間のお父さんより年上のくせに物心ついたばっかのアホの子の私は、お父さんの言葉がよく分かんなかった。


「アーツとは、本来は理解すること。

 つまりは、この世の生活をうまくする知恵を得よう、とか……分かんないか?」


「わかんね!」


「わかんないか!」


「でもしりたい!」


「そうか……それがアーツだ」


「しりたいことが、アーツ?」


「ああ。お前は俺より長生きだし、俺のことを忘れるぐらいの時間はあるだろう?

 きっと、いっぱい素敵な事を知れるさ。

 知りたいって気持ちを持って、アーツを学べば」


「ふーん……わかんないや」


「わかんないか!」


「いつかわかるかな?」


「……わかるさ。もちろん、考えることも大切だ。

 だが、今みたいに、たまには……たまにはだからな?


 考えるな、感じろ。

 そして素直に全てを見た時、理解ができる」


「……うん!」












「強さに意味なんてあるのかね?

 今も分かんない問題だけど、安易に答えを出して良いのかね?

 そんなふうに思うのも、古いのかなー私まだ300歳の小娘だよ?

 あーあ、分かんないよお父さん。

 これも最初のアーツマスターの教えってこと?」



 思えば誰に教えるわけでもない、私の名前がついたアーツ。

 それをなんとなーく続けて、200年か。

 お父さんの言葉、多分最初のアーツマスターの言葉に近い問いを探してしまってる。


 暇なのかな?

 暇なのかな私?



「でも家族の残してくれた物だし、捨てらんないよね……」


 実際、毎日自主的に鍛えてるおかげで、掃除するのも早く終わるし。

 そんなもんさ、私のアーツ。



 よっしゃ、営業再開!キッチンは無事!

 お湯も沸かせる!氷の魔法は頑張る!


「よっしゃ、誰が来るかな?」


「あのー、やってますかー?」


 お、お客さんが来たか。



「はいはいようこそー!無事な席に座ってー?

 お茶だったら大体ありますし、お菓子にサンドイッチぐらいなら出せまーす」




 私の名前はミシェル。

 まぁ、お父さんがなぜかつけた異世界の文字の読み方知らないけど『楊春』って謎の文字の文字の名前もあるただの小娘エルフ300歳。


 今は、ちょっとアーツができるだけの、しがないお茶屋さんとして生きている。



「っておぉ、珍しい感じのお客さん」



 そんなわけで、今日もただ普通にお茶を出してます。はい。





          ***

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