第9話 : お空の旅に行きますか
どーも、エルフの小娘ミシェルです。
ついでに陽春拳のアーツマスターで、色々あって半日とたたずにに普段住んでる街離れて馬車に揺られて、とある街『フウロの街』の宿にいたんだけど。
……た、っていうのは過去形ね。うん、今朝。
「……いくら急ぎの旅でも朝早いよね〜。
ふぁ…………あー、あくび出ちゃった。
イグニスお爺さんは平気?」
「ふあ……いやダメだな。
年取ると朝早いらしいが、俺はまだ眠い」
そして相棒は、隣の背が高いお爺さんのイグニスお爺さん。
まぁ人間だし歳下だけど。
「まぁ宿から近くで良かったけどさ……
ほら、見えた」
────フウロの街。
ここは、飛行船のと飛竜の港町。水がないのに港町。
街のすぐ横のただっ広い草原には、膨らんだ風船みたいなものと、飛竜達の餌場とトイレがいっぱい。
「今回は飛竜に乗るんじゃなくて、飛行船の方だってさ。ま、歩くより早いか」
「7日ぐらいぶっ通しで歩くよりはマシか」
「やったみたいな口ぶりじゃん」
「……やっちまったんだ。死にかけたのは見てただろ?」
「……イグニス爺ちゃん、人間でしかも歳なんだから身体労わりなよな」
あー、だから初めて会った時あんな消耗して……普通に一晩ねて飯食って起き上がった辺り大分超人だなこのお爺さんは??
「まぁ、そうだわな。昔より弱くなっとるのに、よくやったもんよ。
……そして、まさか出所してひと月どころか半月たたず舞い戻るというのもな」
「……九蛇城砦か。確かに、蛇ってついてるだけあって、フィフス姉がいそうだね」
昨日、私は襲われた。
相手はなんと、200年前に最初のアーツマスターである私の義理で歳下のお父さんと100歳のガキだった私含めた弟子達でボコした悪逆非道の騎士団『テンプレア騎士団』の生き残りらしい。
問題は、その一部の奴がなんかまずい魔法で女で男な身体を手に入れて、ついでに何故か私の姉弟子フィフス姉のアーツ、『毒蛇手』の派生のアーツを使って来たってこと。
訳がわからないし、相手も偶然がなけりゃ名前もわからない情報の秘匿っぷりで、うんやっぱ何もわかんないや。
「フィフス姉が生きてるとしたら、何か聞けると良いな」
「あのシスター、だが神出鬼没だったぞ?
バカやってた若い頃のツケで50年服役してた中、会ったのは数度よな」
「うわ、マジのフィフス姉だ。
果たして私に会ってくれるかな……おろ、ここか」
懐にあったメモを取り出して、看板の数字を見る。
どうやら、この目の前の立派な飛行船が私達の乗る物らしい。
「飛行船、乗るのは初めてなんだが……空の上を飛ぶとは大丈夫なのか?」
「───ほーう、アンタほどの人が空飛ぶのは初めてとはな」
と、そんな言葉をかけてくる、何だか只者じゃ無さそうな長髪ドレッドヘアーにバンダナのおじさん。
ん?何だ今の口ぶり?
「お前は……!」
「よぉ、イグニスの兄貴!
まさか、アンタが出所するとはな」
「やっぱりルイスか!
お前、あそこから生きて出られたのか?」
と、二人はなんとパンと手を打ち合わせるよう握手する。
「ははは!ずる賢い海賊だったってのは知ってただろ?
ま、今は足洗ってこの通り、真っ当な空の運び屋って訳だ!」
「お爺さん、知り合い?」
「ああ、あの地獄の九蛇城砦にいた元悪党だよ」
と、紹介されたおじさんが、こっちを見るなり目を丸くする。
「おぉ!
すげぇ美人じゃねーか……なんだよ兄貴よぉ〜、隅におけねぇなその年で!」
「あん?
……聞いたかミシェル師匠?俺は、ババアにも欲情する男らしいぞ?」
「おいコラ、たかだか60のエロガキ、300歳のおねーさんにババアは失礼でしょ?」
なんて笑ったら、おっさん余計に目を丸くする。
「とても俺のオフクロの婆さんの婆さんぐらいの年齢に見えねぇな!」
「ごめんね、エルフって300でもまだ15ぐらいの年齢なの。
あ、私ミシェル。言っとくけど、年下に興味ないから」
私も握手ー。手はブンブン〜♪
「よろしく。
師匠ってことは、アーツマスターかい?」
「まぁイグニスお爺さんとは流派違うけど」
「ああ、てっきり兄貴が昔殺しかけたって方かと」
「殺しちまった、だ。そちらは墓参りも済ませて来た。
こちらはその前に俺がボコされた方だ」
「まぁ、お礼参りされたけど」
「よしてくれ、ミシェル師匠」
「おぉ、やっぱ尖ってるな兄貴は。
20年ぶりか……予約の名簿貰った時はビビったが、見てわかったよ雰囲気って言うか?
九蛇城砦の中でも、特にアンタはカミソリみたいな雰囲気があった。
変わってないようで、何よりだ」
「……変わってない、か。
あんまり嬉しくはないな、俺としては」
確かに、イグニスお爺さんには、いや悪い人じゃないけどそう言うのあるよね。
一度抜いたら、全部ぶった斬りそうなカミソリみたいな雰囲気。
何度も言うけど、悪い人じゃないし、滅多にその内なるカミソリ抜くような人じゃないけど。
……今は、ね。
「まぁ良いや。
にしてもアンタらが一番乗りか。
今日は客は兄貴とミシェルさんの組抜いたら、3組だけでな」
「あらそうなんだ。
私たち早すぎた?」
「他が遅刻してんのさ。
なにより、その遅刻した一人ってのが嫌〜なお得意様でよぉ!
アンタみたいなエルフなんだが、毎度毎度ギリギリで!」
へー、そんなエルフがいるんだ〜。
「────オイオイ、勘違いしてんぜルイス船長よぉ?
アタシは、ハイエルフ。
にしちゃあ太ってるけどな?」
────なんて、思っていた時、私に衝撃が走った。
「にしても、ここら辺で森エルフって珍しいんじゃあねぇの?
てっきり南の『暗い森』にいるって……」
「暗い森は出身だって、昔言ったでしょ。
サモハン?」
「───は?」
久々に見たサモハンは、やっぱハイエルフだけあってとんでもない美人だった。
ハイエルフって、枯れ枝の体っていうぐらいすごい痩せ型で、実際痩せすぎな方が美しいと自分たちで言うほど。
対してサモハンは、前から背も高ければ前後に太い。
今は、まるで『ヒョウタン』っていう実の形みたいに出るとこ出てて……いやデカくね、一部?
「おま、おま……!!」
「久しぶり。ちゃんとサリアって言ってあげた方がいい?」
「チビミシェルじゃねーーーーーかオメー!?!?
お前いつのまに背伸びたんだよビビったぞオイ!?」
そしてこのサモハンはさー、皮肉にそよ風みたいな声をつけてるハイエルフと違って、爆音で喋んのよねー!!
「うっせーな、百年ぶりだろこのサモハンは!!
なんだよこの乳!!太ったんじゃねーの!?
枯れ枝がユグドラシルサイズじゃないのさ!!」
「うるせーな!!お前も普通にある方だろ胸ぇ!!
弓打てんのかよ暗い森のエルフがよぉ!?」
「ちゃんとブラに鉄板仕込んでますー!」
「アタシだって胸とケツとタッパ以外細いですー!!」
煽り合い、騒ぎ合い。
しばし見合って、お互い吹き出す。
「ギャハハハハ!!元気なツラしてんじゃねーのお前よー!デカくなってもチビミシェルで安心したわー!」
「いたたた、何勝手にほっぺたつねってんだよ全く相変わらずだなサモハンさー!」
いやぁ、顔見たら安心したわ。
だいぶ綺麗になってもサモハンはサモハンだったもん!
「ミシェル師匠や、コイツが?」
「あ、ごめんごめん。イグニスお爺さんコイツがサモハン」
「いや待て!なんだこの激イケおじは!?」
おっと、サモハンそういやアンタ……
「アンタ、その歳下でもお爺さん好きは変わんないのね」
「いいじゃねーかよ、むしろ健全だろ!
若いイケメンよりちょっと渋み増した方が好きなんだよ!」
「あー、ごめんねお爺さん。コイツ歳下の爺さん好きでさ。100年前のまだプクプクサモハンの頃からそうなのよ」
「んだよ20歳歳下の癖によ生意気な口聞きやがってチビはコラ。
あ、ごめんなさーい♪アタシのことはサリアかモルガーンって呼んでねー?
えっと、イグニスさんだっけ?
まぁその、お友達から始めません?
とりあえず握手でもぉ?」
いきなりぶりっ子声かよ。すごいなコイツ。
「ははは!よしとくれ、俺もこの歳で勘違いするぞ美人ハイエルフさん」
そしてしっかり握手に応じるイグニス爺さん。
アンタ、昔モテてたねやっぱ?
「……む?」
「……へぇ?」
だけど、握手した瞬間、
ちょっと雰囲気が変わる。
────アーツをある程度収めていると言うことは、人の身体あるいは生き物の身体に詳しくなると言うことでもある。
どの骨が壊れやすい、どこ打ち込むと内臓に響くか。
いや、触れただけで筋肉の動きから力の流れまで分かりだすとアーツマスターの領域に近い。
そんなアーツマスター同士が握手なんてしたら、
相手の力量、丸わかりじゃん。
「……やだ、すごい達人だったんだイグニスさん♪」
「事前にミシェル師匠から聞いとったが、どうやらデートより手合わせのが楽しめそうな美人とは」
おいおい、一気に剣呑な、それでいてデート前より楽しそうな雰囲気ね。
「おっ始めるのも良いけど、出航の時間だぜ?」
と、ルイス船長が言ってる横で、飛行船の扉へ続く階段を上る私でした。
「あ、やっべ!
ごめんねイグニスさーん、ほら今は行きましょ?」
「ま、長引かせるのも悪いか。
ところでルイス、もう1組来るんじゃなかったか?」
「ああ、そういえば。
遅刻には厳しいぜ俺は、」
「まってくださぁあああああああああいッッ!!!!」
噂をすれば影。ちょうどというべきか、遅れて来たとは何様?ってなる声が。
若い女の子の声だね。さて、寝坊でもして慌てて走ってるのかね、って小窓から外覗いたら!
猫耳生えた女の子が空を走ってた。
何言ってんの、って言われても、文字通り金髪のサラサラした髪をたなびかせて、空中を蹴り出しながら女の子が進んでるんだよ!!
魔法じゃない!魔法ならもっとすいーって飛ぶもん!
脚力と、外魔功。いわば魔力を体の部位から衝撃波に変えて出すっていう技で、空気を蹴って反動を生み出している!!
つまりあれはアーツ!
しかも……知ってる限りそんな技があるアーツは一つしかない!!
「遅れてごめんなさぁぁぁぁああああああいッッ!!」
そんな女の子が天を蹴って急降下。
一回転しながら外魔功を細かく放って衝撃を空中で消す……これも上のやつと同じ理屈の技で着地。
トンと猫が着地するような軽さで地に足ついて、そのまま深々と頭を下げる。
「申し訳ございません!!寝坊して遅れました!!
すみません!!すみません!!!」
「え、あ……あはは、まぁまぁ良いよお客さんえーっと……名簿だと『フレデリカ・チーフテン』さん、だよな?」
「はいそうですぅ!お騒がせしましたぁ!!
本当にありがとうございますぅ!!」
なんて、まだ可愛いというか、幼い顔をイタズラバレて叱られてガチ泣きしてるような顔で泣いて謝る猫系の獣人の女の子。
いや、それは良いや。
「今のは、アーツだな?」
「ふぇ?」
「その通りだよイグニスお爺さん。
けど、私もうアレが生きてみられると思ってなかった」
「だなぁ。まさか、『鷲獅子拳』とはよ。
サーティーン姉、自分以外に継承してたか?」
「ふぇ?なんで、宗師様の名前を??」
この可愛い顔の子は、まさかの失われたアーツの継承者だった。
こりゃあ、退屈しない旅が始まりそうだわ!
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