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転生したら猛毒ハーレム♡  作者: たんすい
第一章:毒沼の魔女と追われる日々
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第8話:逃亡者

翌朝――俺たちは夜明けと同時に盗賊のアジトを後にした。


懐でちゃりん、と自己主張してくる金貨袋。

重い。だが、悪くない重みだ。

(夢オチじゃなかったってのは、これで証明されたな……)


俺の後ろでは、メルとイリルがまだ少し緊張した面持ちでついてくる。

ファカはそんな二人をちらりと見ただけで、

まるで興味もないといった風に俺の隣へ。


……で、当然のように腕を組んできやがった。


(おいおい、出来立てカップルアピールやめろ。

俺は今、英雄気取りで歩きたいんだっての!)


森を抜け、街道に出る頃には、双子の表情も少し和らいできた。

やがて、姉のメルがおずおずと口を開く。


「あの……カイ様、本当に、ありがとうございました。

あなたたちがいなければ、私たちは……」


「気にしないでくれ。困ってる人を助けるのは、冒険者の性だろ」


俺が軽く返すと、ファカが楽しそうに笑みを浮かべ――


「ふふっ。ですがご主人様のお時間を無駄にしたのですもの。

その分、感謝はして当然ですわよね?」


わざとらしく胸を張って言いやがる。

その一言に双子は思わず小さく身を震わせた、俺は慌ててファカの脇腹を小突いた。


「お前は余計なこと言うなって!」


「きゃっ♡ ご主人様ったら乱暴ですわ」


……ああもう、面倒くさい。


しばらく歩き続けると、木々の切れ間から石造りの壁が見えた。

朝日に照らされて、白い石がきらりと光を返してくる。


「お、見えてきたぞ。あれが君たちの街か?」


俺の問いかけに、妹のイリルが嬉しそうに顔を輝かせる。


「はいっ! 白壁の都――ヴァリスです!」


その声に、胸の奥が少しだけ温かくなる。

双子を無事に送り届ける。

俺たちの最初の目的は、もう目の前だった。


双子と別れた俺たちは、その足で冒険者ギルドへ向かう。

盗賊討伐の報告、そして今後の拠点を作るための登録のためだ。


ギルドの中は熱気に満ちていた。屈強な冒険者たちの笑い声、酒と汗の臭気。


俺が受付で手続きを進めている間、ファカは少し離れて待っていた。

燃えるような赤髪と山吹色の瞳――その姿は否応なく目を引き、いくつもの視線が彼女に注がれている。


その時だった。

ギルド内のざわめきが、急速に一つの噂へと収束していく。


「おい、聞いたか……あの伝説の『毒沼の魔女』が、この街に現れたらしいぞ」

「三百年前にエルデン国を滅ぼしたっていう……?」

「特徴は、燃えるような赤髪に、山吹色の瞳だって……」


空気が凍りつく。

次の瞬間、無数の視線が一斉にファカへと突き刺さった。


「……あそこだ! 魔女がいるぞ!」


叫び声が引き金となり、冒険者たちは蜘蛛の子を散らすように出口へ殺到した。

入れ替わるように、重装備の警備兵たちが剣と槍を構え、

ギルドへなだれ込んでくる。


「魔女を捕縛しろ! 一人たりとも逃がすな!」


「ちっ、面倒なことになった!」

俺は悪態をつき、ファカの手を掴んだ。


「ご主人様!」「逃げるぞ!」


俺は兵士たちの足元へ向かって叫ぶ。

「ダスト・クラウド!」


土煙が舞い上がり、視界を奪う。

続けざまに「グラビティ・バインド!」――数人の兵士が動きを止め、呻き声を上げた。


その隙に、ファカが詠唱を開始する。

聞いたことのない長大な呪文。息を呑む俺の耳元で、彼女は囁いた。


「御主人様……しばらく息を止めてくださいまし」


「――静寂の紫霧サイレント・パープルミスト!」


彼女の全身から放たれた紫の霧が、爆発的に広がった。


瞬く間にギルドを満たし、街の通りへ、さらに家々の屋根を越えて――

紫の海が、石畳の街を覆い尽くしていく。


次々と、兵士たちが膝をつき、冒険者が崩れ落ち、市民が糸の切れた人形のように倒れていく。

逃げ惑う叫びも、やがて静寂に飲み込まれた。


「殺したのか!」俺が叫ぶ。

ファカは走りながら、首を横に振った。


「いいえ、痺れているだけですわ! 数時間もすれば動けるようになります」


俺たちは混乱に乗じて城門を突破し、荒野へと駆け出した。

振り返れば――紫霧に沈黙した街が、夕陽の中に広がっていた。


「……まずったな」

息を切らしながら、俺は呟く。


「街中で毒を使っちまった。もう、誰も信じてはくれない」


盗賊を倒した英雄のはずが、一転して伝説の「魔女の共犯者」。

ギルドに報告した洞窟の位置も、すぐに兵に押さえられるだろう。

もう戻れる場所はない。


「ご主人様……わたくしのせいで……」

しょんぼりと俯くファカの頭を、俺は無意識に撫でていた。


「お前のせいじゃない。気にするな。なんとかなる」


とは言ったものの、具体的にどうにかなる当てもない。

行く場所も、帰る場所もないのだ。


ふと、俺は一つの可能性に思い至る。


「そうだ、ファカ。俺と会うまで、お前はどこに棲んでいたんだ?覚えているか?」

俺の問いに、ファカはこくりと頷いた。


「……はい。霧深いリンネの森の奥深く……

静かなルドルフ湖のほとりに立つ、一軒家です」


おそらくそこは、「毒沼の魔女の家」なのだろう。

危険な賭けだ。だが、他に道はない。


「よし、行こう。お前の、家へ」

俺たちは、世界の敵として、新たな旅を始めることになった。

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