第65話:大浴場ハーレム♡(後半)
湯気が立ち上る湯船は、全員で入っても余裕のある広さだ。
「はぁ~、生き返りますわね♡」
ファカが湯に沈み、満足げに息を吐いた。
「主様、背中をお流ししますです」
ムーが俺の背後に回り、大きな手で優しく洗い始める。
「旦那様、こちらへ。わたくしが隅々までお清めいたしますわ」
ショウコが丁寧にスポンジを手に近づいてくる。
サリヴァとベニーは湯船の端でじゃれ合い、湯気の向こうで、みんなの笑い声が響く。この異世界での絆が、また一つ深まった瞬間だった。
ただ、一人、シルフィだけはまだ脱衣所にいた。
彼女は深く息を吸い込み、震える指先で衣服に触れながら、決意を固められずにいた。
翡翠色の瞳には、微かな不安が宿っていた。
三百年に及ぶ残虐な拷問は、彼女の身体に深い傷跡を残していた。
胸部は抉られ、乳房の痕跡すらなく、引きつれた瘢痕が広がっている。
下半身も同様で、火傷や切り傷の痕が無数に刻まれていた。
裸体を晒すことは、過去の屈辱を再び呼び起こす行為に等しかった。
特に、カイにこれを知られることが、彼女の心を最も苛んでいた。
彼は仲間として受け入れてくれた。
時には優しい視線を向けてくれる存在だった。
その眼差しが、憐れみや嫌悪に変わってしまうのではないか――
その恐れが、シルフィの胸を締め付けていた。
湯船では、皆が和やかに語らっていた。
シルフィは最後に残り、湯気の立ち上る広大な浴槽を前に、静かに立ち尽くしていた。
「シルフィ、無理しなくていい。嫌なら後で入ってもいいんだぞ」
カイの穏やかな声が、彼女の背中をそっと押す。
「……いえ。あなたなら、こんなわたくしでも受け入れてくださると……信じていますから」
彼女は小さく頷き、ゆっくりと衣服を脱いだ。
裸体が露わになる瞬間、彼女の心臓は激しく鼓動する。
胸部の平らな瘢痕、下半身の歪んだ傷跡――
それらは、三百年の拷問の証として、彼女の身体に刻まれていた。
湯船にいた全員の視線が集まる。
シルフィは本能的に腕で胸を隠そうとしたが、ぐっとこらえた。
代わりに、静かに湯に近づき、カイの隣にそっと腰を下ろす。
空気が一瞬、重くなった。
「シルフィ……」
カイの声は低く、驚きと痛みを帯びていた。
彼の視線は、彼女の傷跡を真正面から見つめていた。
シルフィは目を伏せ、唇を噛む。
「……醜いでしょう? わたくしは……こんな姿を、カイには見せたくなかった……」
「誰一人として、そんな風に思う仲間はここにはいない。さぁ、シルフィ」
カイはそう言うと、シルフィの手を取り、ゆっくりと湯船の中へと導いた。
ファカが静かに口を開く。
「シルフィ、それはあなたの本質ではありませんわ。あなたは美しい。傷跡は、ただの過去の影ですの」
ショウコも優しく加わった。
「わたくしも、そう思います。シルフィ様は、誰よりも強く、美しい方です」
ムーとサリヴァ、ベニーも、それぞれの言葉で励ました。
皆の視線には、憐れみではなく、敬意と絆が込められていた。
カイはゆっくりとシルフィの背後に回り込む。
「シルフィ、俺はそんな傷跡でお前を判断したりしない。お前は俺たちの大切な仲間だ。過去の苦しみを乗り越えて、今ここにいる。それが、お前の強さだ。……もし嫌じゃなければ、俺が背中を洗うよ。みんなで、支え合おう」
シルフィの瞳に、温かい涙が浮かんだ。
彼女はこくりと頷き、カイの手に自分の背中を預けた。
カイはスポンジを手に取り、その傷跡の一つ一つを慈しむように、優しく洗い始めた。
その瞬間、傷跡の痛みが、少しだけ軽くなったように感じた。
湯気の向こうで、仲間たちの笑い声が再び響き始める。
シルフィは、初めて心から安堵し、皆との絆を実感した。
この入浴は、ただの清めの儀式ではなく――
彼女の過去の枷を解く、温かい一歩となったのだった。




