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転生したら猛毒ハーレム♡  作者: たんすい
第5章:王女の覚醒とパーティの初陣
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第57話:シルフィーナの目覚め

最初にゆっくりと目を開けたのは、アンブロシア――いや、ファカだった。


深く息を吸い、薄い笑みを浮かべる。

「……成功したのかしら?」


その言葉に、俺も身を起こす。

「一体、どうなったんだ……」


胸の奥に、得体の知れない高揚と不安が同時に込み上げる。


そして――

柔らかな翠玉色の髪が、かすかに揺れた。

ゆっくりと、シルフィーナの長い睫毛が震え、透き通るような瞳が開かれる。


「……ここは……?」

かすれた囁きに、俺とファカは視線を交わした。


「ファカ、国を滅ぼした毒沼の魔女がいては混乱する。奥に下がってくれないか」

「はい、わかりましたわ、ご主人様」

ファカは顔を見せないよう、静かに部屋を出て行く。


混乱させないよう、ゆっくりと、言葉を選ぶ必要がある。


「落ち着いてくださいまし、シルフィーナ様。長い眠りからのお目覚めですので、ご無理をなさらず」

ショウコが一歩近づき、あえて柔らかい声音で告げる。


「シルフィーナ様。ここは、デッドリィ・バインの本拠地。私がチームリーダーのカイと申します。」


しかし王女の瞳は細く揺れ、何かを探すように俺たちの顔を順に見た。

そして、戸惑いを滲ませた声で問う。


「シルフィーナ……? それは、わたくしのことでしょうか? ここは……? それに……わたくしは、誰、なのでしょう……?」


その問いは、あまりにも無垢で、純粋な響きを持っていた。


ショウコは「え……」と息を呑み、言葉を失う。


俺が口を開く。

「急を要してもダメだ。三百年も眠っていたんだ、記憶の混乱は当然だ。しばらく様子を見よう」


「ショウコ、後はお願いできるか?」

「わかりました、旦那様」


目覚めたばかりのシルフィーナは、三百年の眠りから解放された代償として、自らの体を思うように動かすことさえできなかった 。当然だ 。あれほど長い間、まともに動かされることのなかった筋肉は完全に衰え、自力で立ち上がることすらままならない 。


奴隷商人の元では、鎖に繋がれて……飾り物として扱われていた間も、装飾としての美しさを保つため、定期的に治癒と筋肉強化の魔法は施されていた。


しかし、それはあくまで形を保つための処置。歩行や戦闘に必要な神経の連携までは維持されず、足は自分の重みを支える感覚すら忘れていた。



部屋には、ショウコと王女。

王女――今は名もなき彼女は、まだ不安げにショウコを見つめている。

ショウコはメイドとしての務めを思い出し、努めて穏やかな笑顔を作った。


「お腹が空いていらっしゃいませんか? 温かいお茶と、何か軽いお食事をご用意いたしますね」


ショウコはそう言うと、キッチンへと向かった。固形物はまだ難しいかもしれない。彼女は、長い眠りから目覚めたばかりの胃に負担がかからぬよう、熟した果実を数種類選び、ことことと音を立てて蜂蜜で甘く煮込んだ。やがて、部屋にはふわりと優しい香りが満ち始める。


ショウコは、湯気の立つ温かい果物のスープと、ハーブティーをテーブルにそっと置いた。甘い香りが、緊張していた部屋の空気をふわりと和らげる。


彼女は、目の前の女性が口にするのを急かさず、まず自分が一口お茶を飲んでみせた。

「ご安心下さい。何も怖いものではございませんから」


その優しい仕草に、彼女の警戒心が少しだけ解けたのかもしれない。おずおずと差し出された白い手が、温かいティーカップにそっと触れる。初めて感じるその温度に、彼女の瞳がわずかに見開かれた。


一口、また一口と、お茶を飲む。そして、スプーンでそっとすくったスープを、小さな口でゆっくりと味わう。そのたびに、彼女の表情が微かに、しかし確かに和らいでいくのを、ショウコは見逃さなかった。


「美味しい、です……」


ぽつりと、か細い声が漏れた。それが、彼女が発した二つ目の言葉だった。「はい。良かったです。」

ショウコは心から安堵し、微笑んだ。この人は、何もわからなくなってしまっただけなのだ。ならば、自分が一つずつ、この世界の素敵なことを教えて差し上げよう。ショウコは、そう心に決めた。



俺は廊下で待っていたファカの腕を掴み、誰もいない部屋へと引きずるように連れて行く。


「ファカ、今アンブロシアと話せるか?」

「試してみます…。」


ファカは、目を閉じ、心の奥底に意識を集中する…。


「無理のようですわ。何の答えもありません」

「アンブロシアめっ!どういうつもりだ!」


俺の怒声が、静かな部屋に虚しく響いた。ファカはただ、申し訳なさそうに首を横に振るだけだ。アンブロシアは沈黙し、その真意を確かめる術はない。俺は壁を殴りつけたい衝動を、奥歯を噛み締めることで必死にこらえた。


(あの魔女め…!目覚めるとはいったが、記憶を消して、まさか白紙に戻すとは…!)


これでは、シルフィーナという一人のエルフの三百年の苦しみを、ただ無かったことにしただけではないか。それは救済なのか? それとも、ただの存在の抹消なのか? 答えの出ない問いが、重く胸にのしかかる。だが、今俺がすべきことは、怒りに任せてファカを問い詰めることではない。


俺は一度深く息を吐き、ショウコに任せてきた王女の部屋へと、重い足取りで向かった。

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