第44話:アンブロシアの提案
「あの、御主人様…、
毒沼の魔女、アンブロシアが私の体を使って話をしたいと申しておりますの…
エルフの過去を知っているそうですわ」
ファカの言葉に、俺は思わず息を呑んだ。
毒沼の魔女アンブロシア。
かつてファカの肉体を乗っ取り、俺を殺したあの存在が、
今、ファカの意識の奥底から語りかけているというのか。
そして、エルフの女性の秘密を知っていると?
「…ファカ、大丈夫なのか? 危険はないのか?」
俺の問いに、ファカは不安そうに眉を下げた。
「それが…アンブロシアは、話が終われば肉体を戻すといっていますし、
ご主人様にも、他の皆さんにも危害は加えないと約束していますわ。
エルフの女性のことも、すべてを明かすと…」
ファカの言葉を、俺はすぐには信じることができなかった。
アンブロシアは、俺を一度殺した相手だ。
その言葉を安易に信じていいものか。
だが、エルフの女性のあの痛ましい姿を思い出すと、
彼女の過去を知る手立てがあるのなら、
それに賭けてみたいという気持ちも強くあった。
俺はファカの顔をまっすぐに見つめた。
ファカ自身の意思はどうなのだろうか。
「ファカ、お前はどうしたらいいと思う?」
ファカは少し迷うような素振りを見せた後、強い眼差しで俺を見返した。
「わたくしは…知りたいですわ。
あのエルフの身に、一体何があったのか。
そして、もしそれがわたくし達の役に立つのならば…」
そこまで言って、ファカはキュッと唇を引き結んだ。
その覚悟に、俺は頷いた。
「わかった。信じてみよう。だが、一応用心はさせてもらう」
ファカは安堵したように微笑んだ。「はい、ご主人様」
俺は他の仲間たちにも視線を向けた。
サリヴァは不満そうな顔をしていたが、俺の決断に逆らうことはしないだろう。
ムーとショウコはまだ心配そうだが、俺がそう決めたのなら、と受け入れてくれているようだった。
万が一のためショウコを家から避難させ、
俺とムーとサリヴァで戦闘になってもよいように武器を構えた。
ファカはゆっくりと目を閉じ、深呼吸をした。
その体の力が抜け、一瞬、意識が遠のいたように見えた。
そして、再び開かれた山吹色の瞳は、
先ほどまでとは全く異なる、冷徹で、そしてどこか傲慢な光を宿していた。
口角がわずかに吊り上がり、ファカとは似ても似つかない不敵な笑みが浮かぶ。




