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転生したら猛毒ハーレム♡  作者: たんすい
第4章:集う仲間と深まる謎
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第40話:奴隷市場、血塗られた潜入

目を覚ますと、そこは見覚えのある薄暗い地下室だった。

天井から滴る水音が、不規則なリズムで響いている。

石壁を這う湿気が、じっとりと肌にまとわりついた。


「……旦那さん、旦那さん」


掠れた声に振り向くと、小柄な影がそこに立っていた。

背丈は子供ほど――間違いない。

地下の廊下ですれ違ったホビットの少女だ。


「……お久しぶりです。覚えてますか?

 アベニーのベニーです」

挿絵(By みてみん)

彼女は一歩近づくと、猫のように頬をすり寄せてくる。

その仕草が、俺の胸の最後の箍を外した。


――まただ。俺はまた、誰かの人生を奪ってしまった。


俺はベニーの顔を両手で包み、その瞳を覗き込む。

視界が滲み、熱い涙が頬を伝った。


「おれは……おまえの記憶を……

 おまえの人生を奪ってしまった。本当に、すまない……」


「何言ってるんすか? うちの記憶は、別に奪われてないっすよ」


あっけらかんとした否定に、俺は言葉を失った。


「ち、違う…そうじゃないんだ……あぁ、なんて言えばいいんだ……」


「意味わかんないっすね。

 そんなことより、仲間をどうにかするんじゃないんすか?」


――そうだ。今は悔やんでいる暇なんかない。

俺は涙を拭い、ベニーを見据えた。


「ベニー……変な事を言ってごめん。

 だが……その、見違えるほど可愛くなった、と言えばいいのか」


「ふふ、可愛いだなんて。でも、たぶん年齢は旦那さんより上ですよ」

彼女は小さく笑い、声を潜めた。


「ここじゃ用心棒をしてました。……汚れ仕事も、ですけどね」


その言葉に胸の奥で何かが弾ける。

この地獄のような場所で、彼女は立場を築き、生き残ってきたんだ。


「頼む、俺の仲間を助けてくれ!」


「もちろんっす」

ベニーは力強く頷く。


「この場所の構造も、奴らの習性も、ぜんぶ頭に入ってます」

そして、冷たい声で告げた。


「仲間を全員助けたいなら……奴隷商どもを全て始末するしかありません」

「始末……?」

「はい。一度捕らえた獲物は絶対に逃さない連中です。

 根を断たなきゃ、必ずまた追ってきます」


懐から抜かれた黒いナイフ。その刃には毒が塗られていた。

フードを被り直した彼女の瞳が、暗殺者のそれに変わる。


「旦那さんも、私の『隠蔽の魔法』で姿を消します。

 二人で手分けして……一人残らず仕留めます」


俺が頷くと、ベニーの指が俺の肩に触れた。


「――静寂の影サイレント・シャドウ


視界が揺らぎ、輪郭が滲む。自分の手が透けて向こう側が見えた。

完全なステルス状態――存在ごと消えたような感覚だ。


「……準備はいいですか、旦那さん?」

「ああ、いつでも」

「では――私は地下の奥へ。旦那さんはこのフロアをお願いします」


ベニーの気配が霧のように消える。

俺も息を殺し、通路へと滑り出した。


角を曲がると、槍を持った男が壁にもたれて居眠りしていた。

俺は背後から手刀を叩き込み、音もなく倒す。呻き声すら出させなかった。


奥の部屋からは酒と汗の臭い、下卑た笑い声が漏れてくる。


「今日はいい獲物が入ったな。アマゾネスのガキは高く売れる」

「オーガも珍品だぜ。大儲けだ」


脳裏に浮かぶのは、鎖に繋がれた仲間たちの姿。血が沸き立つ。

だが――焦るな。静かに、確実に。


俺は影のように室内へ滑り込み、急所へ連打を叩き込む。

喉、こめかみ、鳩尾――一撃ごとに男たちは崩れ落ちた。


やがて気配が消え、奥の部屋へ進む。

床には首筋に一筋の切り傷を刻まれた死体が並んでいた。

中央に立つベニーが、ナイフを拭いながら呟く。


「……これで片付きました。残るは――ラザム、ただ一人」


その名を聞くだけで、胸の奥が焼けるように熱くなる。


ベニーはナイフを収め、冷たい声で言った。

「旦那さん……あの男だけは、私が斬ります」



地下市場の最奥。

鉄扉を押し開けると、異様な静けさが支配していた。

燭台の揺らめきが壁の鎧を照らし、

赤黒い絨毯の先――豪奢な玉座に男が腰掛けていた。


ラザム。

痩せた顔に浮かぶ笑みは、蛇そのものだった。


ベニーが影となり、背後から忍び寄る。

ナイフが閃く――


「――喉斬りスロート・スライス


しかし、銀閃が届く寸前、ラザムは首を傾けてかわした。


「遅い」


次の瞬間、ベニーの体が宙に浮く。

ラザムが振り向きもせず首根っこを掴み、子猫のように持ち上げていた。


「……っ!」


「なぜ裏切った、アゲリア。今まで育ててやった恩を忘れたか」


ラザムの声と同時に、ベニーの体から光が剥がれ落ちる。

隠蔽の魔法が強引に解除され、フードが外れた。


「……そこにいるのは分かってる。出てこい」


鋭い眼光が、俺の潜んでいた影を正確に射抜いた。

――完全に見抜かれている。


逃げ場なんてない。

俺は、踏み出すしかなかった。


「ベニーを放せ、ラザム!」

「ベニー……? 違うな。こいつはアゲリアだ」

ラザムの口元が、ねっとりと歪む。

「だが――お前みたいな小物に、俺を倒せるのか?」


「旦那さん、やめて! ラザムは……!」

必死に叫ぶベニー。

けど、俺にはもう選択肢は残されていなかった。


「……やるしかないんだ」


俺は短剣を握りしめ、正面からラザムを睨み据える。


ラザムの指が、ベニーの細い首を鉄の鉤爪のように締め付ける。

なぞるように喉を滑るその仕草は、残酷なほどゆったりとした動きだった。


「ぐ……っ!」

ベニーの体が震え、苦痛に歪む瞳を俺に向ける。

ラザムはその視線を楽しむように、蛇のような薄笑いを浮かべた。


「思い出せ……アゲリア。お前は誰だ? 記憶の底を覗け」


低く囁く声が、呪いのように耳元へと注ぎ込まれる。

心の奥を抉る、悪夢じみた言葉の刃。


ベニーの抵抗が弱まり、泡を吐きながら力なく崩れ落ちる。

ラザムはそれを芸術作品でも鑑賞するかのように眺め、

無造作に床へと投げ捨てた。


「――退屈しのぎには、ちょうどいい」


しなやかな動き。

研ぎ澄まされた獣のような気配。

圧縮された殺気が、肌を切り裂くほど鋭く突き刺さる。


一騎打ち――避けられない。


俺は大きく息を吸い込み、全神経をラザムに集中させた。

張り詰めた玉座の間の空気が、今にも爆ぜそうな音を立てる。

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