第4話:俺の能力
山賊の懐を探ると、金貨の袋や宝飾品が次々と出てきた。
思わずため息が漏れる。
「……最低だな、俺。こんなことするなんて」
「何を気にしているのです、ご主人様。これは当然の戦利品ですわ」
ファカは涼しい顔で金貨を数えている。
(ああ……水槽ででかいエビをむさぼってた時と同じ顔してやがる)
「ついでに、この者たちの根城も利用いたしましょう。巣を確保するのは、フグの習性ですもの♡」
俺は苦笑いを隠せなかった。
「……異世界最初の拠点が山賊アジトって、マジかよ」
「では、情報収集しなくちゃですね。」
というと、ファカは山賊の首根っこを持ち上げた。
「あぁ、汚らわしい……本当は触りたくもありませんけれど」
口元を近づける。甘い吐息がふっと吹きかけられた。
次の瞬間、空気に花の香りが広がる。
「幻花・真実の吐息」
山賊の瞳が虚ろに揺れ、口が勝手に動き出す。
「……アジトは……森の北の洞窟……見張りは三人……全部で九人……金貨も、女も……そこに……」
ファカは艶やかに微笑んだ。
「お利口さんですわね♡」
(うわぁ……怖っ。けど頼もしいのも確かだよな)
戦利品をまとめ終えると、今度は自分自身の力が気になり始めた。
ここは異世界。きっととんでもないチート能力が眠っているはず――そう信じたい。
「ファカ、俺の能力を調べてくれ。まずは剣術と打撃能力だ」
「承知しましたわ。では、その棒で思い切り私をぶちのめしてくださいまし」
「お、おう……」
渾身の力で振り下ろす――
「いやーーーーーーーー!」
バキィッと受け止められた。あっさり。
「残念ですが……剣術はからっきしのようですわね」
「……泣ける。異世界に来たのに非力とか、マジ勘弁」
「では次は打撃を。ほら、私の胸を揉む感じでどうぞ♡」
「胸を揉むのと打撃は全然違うだろ!」
「揉んでいただいても構いませんけれど?」
フェイント、逆腕、両手攻撃……全部空振り。かすりすらしない。
「私、こう見えても格闘家ですから」
胸を張るファカが、にっこり微笑む。
「でもご安心くださいまし。ご主人様は、この私が全身全霊でお守りいたしますから」
「ファカ……頼もしいけど、俺の立場、情けなさすぎる」
「では、魔法はどうでしょう? 調べてみますわね」
そう言うなり、ファカは俺の頭を鷲掴みにしてぐっと抱き寄せてきた。
「ちょ、な、何っ……!」
柔らかな体温が腕から胸へと伝わり、息が詰まる。
額が触れ合うほどの距離。視線を上げれば、挑発するような彼女の瞳が間近に迫っていた。
……やばい、胸、ぐいぐい当たってるって。
(落ち着け俺! こいつはフグだ……ただのフグなんだぞ!)
「……動かないでくださいまし」
囁きと同時に、腰に回された腕がきゅっと締まる。
「御主人様は……サポート系魔法に特化しておられるようですわ」
「 魔法は使えるんだな!よかった。」
「そうですね。本来なら習得に数年はかかりますけど……わたくしが即席で教えて差し上げてもよろしいですわよ?」
「マジで!? 頼む! このままだとフグの世話になるだけだしな」
「あら、わたくしはそれでも構いませんのに♡」
盗賊の本拠地へ向かう道すがら、俺は新たに手に入れた力をどう活かすか、頭の中でずっと考えていた。
この世界なら――きっと、俺も何かを掴める。 そう思うと、胸の奥が小さく高鳴った。
そして隣では、俺を見つめるファカが、なぜか嬉しそうに微笑んでいた。
この世界なら――きっと、俺も何かを掴める。 そう思うと、胸の奥が小さく高鳴った。
そして隣では、俺を見つめるファカが、なぜか嬉しそうに微笑んでいた。
……まさか異世界で、美人になった“フグ”と肌を密着させながら、柔らかな胸の感触に動揺しつつ魔法を教わることになるなんて―― そんな展開、俺の人生設計には一切なかった。