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転生したら猛毒ハーレム♡  作者: たんすい
第4章:集う仲間と深まる謎
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第36話:世界一のメイドヒーラー

ガァンッ――!

重厚な教会の扉が叩き破られ、石造りの壁がびりつくほどの衝撃が走った。


冷たい風が一気に雪崩れ込み、祭壇の蝋燭の炎を激しく揺らす。

荘厳な静寂はたちまち荒々しい気配に塗り潰されていく。


「負傷者だ! 魔物討伐隊が壊滅寸前だ!」

怒号が飛び込み、空気を切り裂いた。


俺たちは一瞬で現実へ引き戻される。

誓いのキスは叶わず、甘い余韻は戦場の叫びにかき消されていった。


ショウコは驚愕に目を見開き――次の瞬間、ぐっと表情を引き締める。


「旦那様、私……行きます!」


彼女はドレスの裾をたくし上げ、まるで別人のように駆け出した。


教会の中は、血の匂いと負傷者の呻き声で満ちていた。

神父や治癒師たちが懸命に治療にあたっているが、

次々と運び込まれる兵士たちに、明らかに人手も物資も追いついていない。


「包帯が足りん!」

「誰か、きれいな布を持ってきてくれ!」


治癒師の悲痛な叫びが響く。

ショウコは、床で苦しげに息をする若い兵士に駆け寄った。

彼の太ももからは、おびただしい量の血が流れ出している。

このままでは命が危ない。


ショウコは一瞬の逡巡の後、迷わず自らが着ているドレスの裾に手をかけた。

デートのために着飾った、大切なドレス。

その深い青色の生地を、彼女は力いっぱい引き裂いた。

ビリッ、と静かな聖堂に場違いな音が響く。

挿絵(By みてみん)

「ごめんなさい、今はこれしかなくて」


彼女はそう呟くと、破り取った布で兵士の傷口を強く圧迫し、

慣れた手つきで応急処置を施していく。

その献身的で迷いのない行動は、混乱していた周囲の空気を一瞬で引き締めた。


それを皮切りに、彼女は治癒師たちの動きを冷静に観察し、

次に何が必要かを瞬時に判断する。


「清潔な布とお湯ですわね!」

「その薬草はこちらで!」

「止血帯はもっときつく!」


メイドとして培った驚異的な段取りの良さと的確な判断力で、

現場の混乱を少しずつ収拾していく。

それは戦闘力とは全く違う、「場を支える力」だった。


負傷者の汗を拭い、優しく声をかけ、恐怖に震える若い兵士の手を握って励ます。

特に重傷で、治癒魔法も効きにくくなっている兵士のそばで、ショウコは必死に祈った。


「どうか……助かってください……!」


彼女が思わず兵士の傷口に手をかざした瞬間、

その手から淡く、温かい光が溢れ出した。


完全な治癒魔法ではないが、光に触れた兵士の苦悶の表情が和らぎ、

呼吸が少しだけ楽になる。


その奇跡的な光景を、治療にあたっていた神父セバスチャンが見ていた。


神父が疲労困憊のショウコに近づき、深く頭を下げた。


「あなたがいなければ、助からなかった命があったでしょう。

 本当に、ありがとうございます」


そして、神父はショウコの目を見て言った。

「あなたには、人々を癒やす慈愛の心と、稀有な才能がある。

 もしよろしければ、この教会で、本格的に治癒の術を学んでみませんか?」


「はい、私頑張ってみます。」


それは、ショウコがずっと心の奥で願っていたことだった。

「お荷物」ではなく、仲間を守れる力。

彼女は涙を浮かべながら、しかし力強く頷いた。



騒動が収まり、教会の中は再び静寂に包まれていた。


俺は、ベンチに腰掛けるショウコの隣に静かに座った。

彼女のドレスは破れ、血と泥に汚れて髪も乱れていた。

が、瞳は強く輝いていた。


「ショウコ」

「はい、旦那様」

「君の手が、命を救った。君の心が、場を支えた。

 癒やす力は、君にこそふさわしい。……本当に、よく頑張ったな」

「……ありがとうございます。

 旦那様にそう言っていただけただけで、私の心は満たされます」

「ドレス…破れてしまったね」

「気にしないで下さい。人の命にまさるものなんてありませんから」


俺は、彼女の手をそっと握った。 華奢で、ともすればか弱いその手が、先ほどまで幾人もの命を繋ぎとめていたのだ。


「さっきの続き、覚えてる?」


彼女は一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに頬を染めて微笑んだ。


「……ええ。忘れるはずがありません」


俺はポケットから、先ほどの花の指輪を取り出した。

少し潰れてしまっていたが、白いシロツメクサはまだ香りを残していた。


「もう一度、やり直そうか?」


彼女は静かに手を差し出す。


俺は左手の薬指に、改めて指輪をはめた。

今度は、誰にも邪魔されないように、そっと彼女の手を包み込む。

挿絵(By みてみん)

「誰かに見せるための誓いじゃない。

 どんな困難にも邪魔されない、俺たち二人だけの誓いだ」


ショウコは涙を浮かべながら、そっと頷いた。


「はい。わたくし、もう迷いません。

 旦那様の隣で、旦那様の隣で、私がすべきことを見つけましたから


俺は彼女の頬に手を添え、今度こそ、ゆっくりと顔を近づける。


唇が触れかけた寸前——


彼女は目を閉じ、微笑んだ。


「……でも、キスは本物の式まで取っておきましょうか」


俺は思わず笑ってしまった。


「そうだな。楽しみが一つ、増えたってことだ」


二人は並んで立ち上がり、夕暮れの光の中を歩き出す。


帰り道、デートの甘い雰囲気はなかったが、二人の間にはそれ以上に強い絆が生まれていた。


「ショウコには、人を癒やす力がある。

 戦闘は俺たちに任せろ。君は君のやり方で、仲間を守ってくれ」


俺の言葉に、ショウコは大きく頷いた。

「はい、旦那様! 私、頑張ります。

 世界一の……いいえ、旦那様だけの『メイドヒーラー』になってみせます!」


以前のような寂しげな影はもうどこにもない。ショウコの横顔は、未来への希望に満ちて太陽のように輝いていた。


その背中には、未完の誓いと、

これから始まる新しい物語が、静かに寄り添っていた。

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