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転生したら猛毒ハーレム♡  作者: たんすい
第4章:集う仲間と深まる謎
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第34話:不器用な涙

サリヴァが部屋を飛び出した後、食卓には重苦しい沈黙が残った。

ファカは静かに目を伏せ、ムーは心配そうにドアを見つめている。

俺は小さく息を吐き、椅子を引いて立ち上がった。


――放っておけるわけがない。


屋敷の中庭は、穏やかな陽光に満ちていた。

だが、その静寂を壊すように、肉を打つ鈍い音が断続的に響いている。

見れば、サリヴァが庭の樫の木に、荒い息を吐きながら剥き出しの拳を何度も打ち付けていた。硬い樹皮が裂け、彼女の拳からは血が滲んでいる。


その横顔に浮かんでいるのは、単純な怒りではなかった。

もっと深い屈辱と、信じていたものに裏切られたかのような、痛々しい悲しみ。


「サリヴァ」


俺が声をかけると、彼女は振り向きもせずに吐き捨てた。

「来るな! 今は一人にしておいてくれ!」


俺は構わず、その震える背中にそっと歩み寄る。

「手、見せろ」


「……平気だと言っているだろう」


「いいから」


拒絶する彼女の腕を、俺は無理やり掴んだ。血と土にまみれた拳は、痛々しいほどに熱を持ち、小さく震えている。


「……ファカのやり方は、確かに行き過ぎだった。お前が怒るのは当然だ」


その言葉に、サリヴァはぴたりと動きを止めた。

俯いたまま、固く握られた拳から、ぽたり、と血が滴り落ちる。やがて、その肩が悔しさをこらえるように、小刻みに震え始めた。


俺はそっと彼女の拳を包み込むように持ち、破れた袖で優しく血を拭う。サリヴァはもう抵抗しなかった。ただ、されるがままに拳を預けていた。


「俺様は……! 俺様はただ、お前を守りたかっただけなのに……! なのに、あの時も、今も、何もできなかった……! 俺なんて……ただの疫病神じゃねぇか……!」


絞り出すような声。

その言葉には、ヒドラ戦で俺を守れなかった後悔と、今日、ファカに一方的にねじ伏せられた無力感への、激しい自己嫌悪が込められていた。


「そんなことはない。お前は俺を何度も救ってくれた」

俺は静かに、だがはっきりと告げた。

「ヒドラとの戦いだって、お前の剣がなければ俺たちは全滅していた。ファカが強くなったのは事実だ。だが、それでもお前の力が必要な時は必ず来る。お前がいなければ勝てない戦いが、この先にはあるんだ」


俺の言葉に、サリヴァの全身から少しずつ強張りが解けていく。

風が一筋、彼女の髪を揺らした。まるで、燃え上がった心の熱を冷ますように。


「それに、ファカがお前を試したのは、憎いからじゃない。俺がいなくても、誰かがお前の暴走を止められる必要があると思ったからだ。それは……お前を仲間として信頼しているからこそだし、お前の力を誰よりも認めているからなんだ」


サリヴァは俯いたまま、かすかな声で呟く。

「でも……俺様は、お前たちを傷つけそうになったんだぞ……」


仲間に牙を剥いた自分への恐怖。

その記憶が、鎖となって彼女を縛り付けている。


「それでも、俺はお前を信じてる。サリヴァは俺の最高の戦士だ。それは、どんな時も変わらない」


俺は迷わず、彼女を背後からそっと抱きしめた。

鍛えられた筋肉の奥に渦巻く、激情の熱が直に伝わってくる。


「やめろ……俺様は、まだ怒ってるんだぞ……!」

弱々しい抵抗。だが、その声に覇気はない。


「わかってる」


「……だから……怒ってるんだって……ば……」

その声は消え入りそうに震えていた。


俺は何も言わず、ただ優しく彼女の頭を撫でる。

やがてサリヴァは顔を上げ、真っ赤な頬と潤んだ瞳で、戸惑いがちに俺を見上げた。


「俺様は……お前のこと……」


彼女が何かを伝えようと、震える唇を開いた、その時だった。


「あらあら、お二人共とっても仲がいいんですねぇ」


背後から、ムーの少し呑気な声が響いた。


サリヴァは雷に打たれたように跳ね上がり、俺から飛び退く。

顔を沸騰させんばかりに真っ赤にすると、明後日の方向を向き、腕を組んで「フンッ」とそっぽを向いてしまった。


……そして、その日を境に。

サリヴァはまるで、飼い主にだけこっそり甘える大型犬のように、俺の後ろをついて回るようになった。


彼女の中から怒りの色はすっかり消え、時折見せる穏やかな笑みは――中庭に差す陽光のように、温かかった。


その耳元には、青いイヤリングが揺れていた。 俺がかつて贈ったもの――

それまで頑なに着けようとしなかったそれを、彼女は今、何も言わずに身につけていた。


まるで、言葉ではなく行動で、答えを返してくれたかのように。

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