第31話:デッドリィ・バインの新拠点
ショウコとの穏やかな朝食を終えた俺は、すぐに街の宿へ向かった。
仲間たちに、俺たちの新しい「家」ができたことを報告するためだ。
「――というわけで、今日から町外れの屋敷が俺たちの本拠地になった」
俺の説明に、三者三様の反応が返ってきた。
「まぁ! ご主人様ったら、知らない間にちゃっかり新しいお城を手に入れていたんですのね♡ さすがですわ!」
ファカは目を輝かせ、早くも新しい生活に胸を躍らせている。
「主様……わたくしたちにも、帰る場所ができたのですね」
ムーは大きな瞳を潤ませ、心から安堵したように微笑んだ。
「……メイドもいるのか。つまり、飯の心配はいらねぇってことだな」
サリヴァはぶっきらぼうに言いながらも、その口元はわずかに緩んでいた。
こうして俺たちは、指名手配犯から一転、街の英雄として――
ヴァリス北西に佇む壮麗な屋敷へと居を移すことになった。
◇
屋敷に到着すると、あまりの大きさに皆、あっけにとられていた。
「まさか、このような立派な屋敷だなんて思ってもいませんでしたわ」
「主様、本当にすごいお屋敷です。私たちが本当に棲んでもよろしいのでしょうか?」
「……チッ、無駄に広いな。まあ、剣を振る場所には困らなそうだが」
三者三様の感想が漏れる中、ショウコが少し緊張した面持ちで、しかし深々と頭を下げて出迎えた。
「紹介するよ。俺が昔飼育していたショウテデニィのショウコだ。みんな仲良くしてやってくれ」
「皆様、ようこそおいでくださいました。わたくし、この屋敷の管理をしておりますショウコと申します。今日から、皆様のお世話をさせていただきます」
「あら、ご丁寧にどうも。わたくしはファカ。よろしくね、ショウコ」
ファカは優雅に微笑み返し、すっかり女主人の風格だ。
「ムーです。よろしくお願いします、です」
ムーは少し照れくさそうに頭を下げる。
「……サリヴァだ。世話になる」
サリヴァは視線を合わせず、ぶっきらぼうに答えた。
こうして、俺と四人の美女たち――デッドリィ・バインの、奇妙で騒がしい共同生活が幕を開けた。
そして、その共同生活は、予想通りというか、予想以上に騒がしいものだった。
朝、目覚めると、なぜか俺の腕枕に誰かがいる。
「……寝相が悪いだけだ。勘違いするな」
サリヴァよ、俺の腕をがっちり抱きしめながら言うセリフじゃないだろそれ。
食卓では、ショウコとムーが俺の隣をめぐって椅子を引っ張り合うのが日課になった。
「主様へのお給仕はわたくしがやりますです!」
「それはメイドである私のお仕事です。ムーさんはお席にお着きください」
ファカはそんな光景を眺めながら静かに紅茶を飲んでいる。
「この争い、毎朝続きますわね。……ふふっ、興味深いですわ」
と、完全に観察者ポジションだ。たまにはお前も参加していいんだぞ?
風呂場では、ムーが泡まみれで滑って俺に突っ込んできては、
「きゃっ! 主様ごめんなさいです!」
と、不可抗力のラッキースケベが頻発し、それを見たサリヴァがタオルを投げてくる。
「……お前は風呂くらい一人で入れ」
いや、タオルはありがたい。だが、それはツンデレというやつじゃないか?
書庫を覗けば、ファカが古代の魔術書を読み漁っている。
「ご主人様、ちょうどいいところに。この呪文を試したいのですが、少しそこに立っていただけませんこと?」
俺を実験台にするのはやめてくれ。
庭ではムーとショウコが花の名前を教え合いながら楽しそうだ。
「このお花、ムーさんに似ていませんか?とても可愛らしいです」
「あはっ……では、このトゲトゲの植物はサリヴァ様みたいですね?」
「……聞こえてますわよ」
木陰からサリヴァの睨む声が飛んでくる。でも、手にしたジョウロで花に水をやる姿は、どう見ても優しい。
そして夜は、暖炉の前に全員が自然と集まる。
ショウコが膝枕を申し出て、ムーが俺の髪を梳いてくれて、ファカが「本日の魔術研究成果報告」と称したミニ講座を始める。
サリヴァは黙って火を見つめているが、俺が小さくくしゃみをすると、
「……風邪をひくな」
と、ぶっきらぼうに毛布をかけてくれる。もうツンデレ確定だ。
(騒がしい。うるさい。落ち着かない。でも――なんだこの、とんでもない幸福感は。俺、異世界で人生のピークを迎えているんじゃないか?)
誰もが、この平和な日常を享受しているように見えた。
……だが、ファカだけは違った。
暖炉の火に照らされ談笑する仲間たちの中で、彼女の視線は、時折ふっと遠くのサリヴァへと向けられる。その表情には、仲間を守るという強い決意の影が浮かんでいた。暴走する仲間から、どうやって全員を守るのか。その答えを探すかのように。
穏やかな笑顔の裏で、彼女の瞳には常に深い憂いの色が宿っていた。
ヒドラとの死闘。なすすべもなく目の前で死んだ俺の姿。そして、理性を失い仲間へ牙を剥いたサリヴァ。
あの光景が、悪夢のように脳裏に焼き付いて離れないのだ。
(今のままでは駄目……このままでは、またご主人様を危険な目に遭わせてしまう。もっと私に力がなければ、この温かい日常は守り切れない……!)




