第3話:異世界で美人になったペットと再会
(森だった…)
「チキショウ、あの神、騙しやがったな!美女なんていやしねえじゃねぇか!」
柔らかな木漏れ日が、俺の顔を照らしている。
どうやら無事には転生できたらしい。
自分の手足を確認する。
うん、ちゃんと元の身体だ。
しばらく歩いていると、いかにも盗賊といった風貌の三人組を発見した。
ここは見つからないよう逃げるのが正解だな……と、思ったのも束の間。
ん?美女と一緒?
いや、違う、襲われているんだ!
クリムゾンレッドの髪に山吹色の瞳の女性。
(もしかして、ファカか!?)
(って俺が出ていってどうなるというんだ。
相手は三人もいて、しかも武器まで持っている。
しかしこのままでは……!)
「へっ、いいカモだな。奴隷にすりゃ高く売れるぜ」
「その前に楽しませてもらうがな」
野卑な笑みを浮かべる山賊たちに、山吹色の瞳が冷たく光る。
「はぁ……脳みそ、干物にでもされたのかしら? その醜悪な欲望にまみれた思考回路を、毒まみれにして差し上げますわ」
「なんだ、この女。いたぶってひん剥いてやれ!」
次の瞬間、ファカの姿が残像になって消えた。
信じられない速度で山賊の懐に飛び込むと、ファカの拳が白く輝き、皮膚の下から紫色のトゲがメリケンサックのようにせり出す。
「棘手・麻痺拳!」
ガッ! 鈍い音と共に、拳が山賊の顎を打ち抜いた。
紫色の霧がトゲの先端からふわりと広がり、
山賊は「う…あれ…足が…」と力なく膝をつく。
全身が小刻みに痙攣し、そのままピタリと動かなくなった。
「な、なんだこいつ!?」残る二人が恐怖に後ずさる。
斧を構えた山賊に向け、ファカが低く構える。
その腕から、バラのトゲを思わせる紫黒のツルが、シュルル…と音を立てて伸びた。
「棘手・薔薇縛り(ローズバインド)」
ツルは鋭いトゲをきらめかせながら蛇のようにうねり、山賊の首へ一気に巻き付く。「ぐっ…!」と苦しむ山賊の顔を、ファカが冷たい瞳で見据える。
次の瞬間――ツルの節々から淡い紫色の毒霧が「ぶほっ」と噴き出し、
山賊の顔を包み込んだ。
毒が肌と粘膜に染み込み、山賊は目を見開いたまま力なく膝をつく。
首を絡め取ったツルがするりとほどけると、
彼はスローモーションのように地面へ崩れ落ちた。
その場に、花の香りと血の匂いが入り混じったような、甘く危うい空気が漂った。
山賊はその場でガクンと崩れ落ち、痺れた体を必死に動かそうとするが、指一本すら動かない。
最後の剣の山賊は恐怖に顔を歪ませ、後ずさりする。
美女はそんな山賊に歩み寄ると、優雅に、しかし冷徹な笑みを浮かべた。
「テトロドトキシンですわ。青酸カリの1000倍の毒性よ。死になさい」
山賊は「ひっ…」と喉を鳴らすと、剣を取り落として逃げ出そうとした。
「おやおや……逃げるなんて、可愛くないですわね」
しかし、それを許さない。
彼女は一瞬で山賊の背後に回り込むと、開いた掌を山賊の背中に押し当てた。
「私に歯向かうなんてホントいい度胸してるわ」
その掌から、淡い紫色の霧が噴き出し、山賊を包み込む。
山賊は咳き込み、膝をつき、顔面蒼白に。
「ぐっ…痺れて体が…動かねぇ…!」
冷徹な笑みを浮かべたまま、とどめを刺すように言い放った。
「安心しなさい、毒は死なない程度に弱めてあります、
まぁ三日程度は動けませんけど♡」
俺は慌てて駆け寄る。
「ちょっと待て!殺しに行ってるだろ!?」
俺の顔を見た途端、まるで性格が変わったように甘えた声で叫んだ
「ご主人様っ!」
「えっ!?」
「お忘れですの? わたくしですわ! ファカですわ!」
「本当にあのファカなのか!?」
ファカは「はい!」と元気よく頷くと、
感極まったのか、なぜかぷーっと頬を大きく膨らませてみせた。
(可愛い……カスタマイズ画面で見た時より、実物の方が可愛くなってないか?)
ファカはくるりと振り返り、満面の笑みで俺に抱きついてきた。
「ご主人様のため、これからずっとお供いたしますわ」
「うわっ、ちょっと離れてくれ」
俺がカスタマイズした胸が当たってくる。
「つれないですわ、せっかくこうしてお会いできたのに。
わたくしのこの完璧な体が、ご主人様好みでないとでも?」
(いや、俺好みにカスマイズしたんだからめちゃ好みだよ
っていうか実物を眼の前にすると何も出来ないもんだな)
俺「しかしファカ、強いな…、ていうか【毒】って何だよ!? フグの名残か!?」
ファカ「ふふ、ご主人様のために進化しましたの。
わたくしは『毒使いの格闘魔術師ファカ』。
猛毒の戦華、ここに爆誕ですわ♡」
こうして、俺とファカの冒険が始まった。