第28話:今はつけないイヤリング
デートの本当の目的は――
サリヴァの武器と装備を整えることだった。
ヴァリスの中心部にある武器防具店は、鍛冶屋の煙と金属の音で賑わっていた。
店の中には剣や鎧がずらりと並び、中には魔力の光を帯びた逸品まである。
「サリヴァの剣、ヒドラ戦でボロボロだっただろう。新しいのに買い換えよう」
刃こぼれに柄の布のほつれ。激戦を生き抜いた証だが、もう限界だ。
「いいのか?」
「あぁ、パーティーの戦力も上がるしな。」
サリヴァは驚いたように俺を見上げたが、
やがて静かに頷き――店内の剣へと視線を走らせる。
店主が誇らしげに紹介する剣は、どれも一級品だった。
値は張るが……山賊の財宝とヒドラ討伐の報奨金がある。問題ない。
「好きなのを選んでいいぞ。お前に合うやつを探せ」
そう告げると、サリヴァは棚を一つずつ回り、
慎重に剣を手に取っては試し振りをする。
――血哭剣。振るたびに血の叫びが響くような、不気味な刃。
――紅牙剣。真紅の光を帯び、獣の牙のように鋭い。
――狂嵐剣。構えた瞬間、刃先から風が渦を巻き、周囲の埃を舞い上げる。
――蛇牙剣。毒を含む曲刃が、いやらしく光を反射する。
――月咬剣。銀色に煌めき、まるで月光を閉じ込めたかのようだ。
――双刃舞。軽やかな双剣。持ち主に舞うような剣舞を強いる、美しい刃。
サリヴァは二本を手に取った。
――狂嵐剣と双刃舞。
軽く構え、刃を振る。
ひと振りで空気が震え、黒髪が風に揺れる。
双剣の舞うような軌跡に、店の空気が張り詰めた。
「……すごく手に馴染む」
サリヴァは小さく呟き、青い瞳を揺らす。
「いいのか、こんな剣……俺様なんかに」
「気にするな。ヒドラを倒したんだ。これくらい当然だ」
俺は笑って肩を叩いた。
一瞬、彼女の顔に浮かんだ不安が消える。
代わりに宿ったのは、戦士の決意の光。
「なら……これにする」
サリヴァは力強く頷き、狂嵐剣と双刃舞を腰に差した。
◇
次に向かったのは、防具コーナーだった。
そこに――俺はサリヴァにぴったりの装いを見つける。
砂漠用の戦闘服。
アラビアン風のデザインで、動きやすさと防御性を兼ね備えた一着だ。
上半身は深紅のホルターネックブラ。
鍛え上げられた肩と腕、そして引き締まった腹筋を惜しげもなく見せつけていた。
その上には、金色のゆったりとした袖のボレロを羽織っている。
袖口は広く、風を受けてふわりと舞う柔らかい布地は、彼女の荒々しい戦士の姿に新しい一面を与えていた。
下半身は深紅のハーレムパンツ。
ゆったりとした布地は脚さばきを妨げず、砂漠の熱を逃がす工夫もされている。
(……これなら、あの彼女の剣舞がもっと映えるかもしれないな)
腰には金色のサッシュベルト。
小型ポーチや短剣の鞘を吊るせ、実用性も抜群だ。
たくさんの金貨がチャームとして揺れ、動くたびに軽やかな音を立てる。
足元は金色のサンダル。
足首までストラップでしっかり固定され、岩場でも安定した足運びを支える。
砂の侵入を防ぐ工夫もされており、実用性とデザイン性を両立していた。
「……どうだ?」
着替えを終えたサリヴァが、少し照れたように裾をつまむ。
その瞬間、俺は思わず息を呑んだ。
荒々しいジャングルで生き抜いてきた少女――サリヴァ。
いつもは獣じみた戦士の気配をまとっていた彼女が、今は。
深紅と金色に彩られた異国の装いをまとい、金貨が揺れるその姿は――
まるで砂漠の舞姫のように、情熱的で、そして美しかった。
(……これが、本当にあのサリヴァなのか?)
「似合ってる。いや……似合いすぎてる」
言葉にすると、サリヴァの耳が真っ赤に染まった。
「べ、別に喜んでるわけじゃないぞ!」
そして、腰には彼女の新しい武器「狂嵐剣」と「双刃舞」が、差されていた。
◇
夕日が沈む頃――俺たちは街外れの丘に立っていた。
サリヴァは新しい剣を構え、夕日をバックに舞うように振るう。
刃が風を切るたび、空気が彼女の意志に従っているようだった。
彼女の動きは流れるように美しく、戦士の力強さと優雅さが融合していた。
夕陽の赤い光が彼女のシルエットを際立たせ、
その姿は、戦場では見られない、誰にも奪えない美しさだった。
俺は感嘆のため息を漏らした。
「……剣を振るうお前は、本当に美しいな。」
夕暮れの風が吹き抜け、彼女の黒髪を揺らした。
その耳元に、まだイヤリングはない。
小さな袋の中で、眠ったままだ。
「イアリング……つけないのか?」 俺がそう言うと、
サリヴァは握りしめたイヤリングをじっと見つめ――やがて小さく呟く。
「……今はな」
意味は分からない。
ただ、並んで歩き出したとき――彼女の歩幅が、
自然と俺に寄り添っていたことだけは、確かだった。




