第2話:テンプレ通りの神様
「やっと見つけたぞ。うむ、なんとも数奇な運命よのぉ」
気づけば俺は、真っ白な空間で、とてつもなく暇そうな神様っぽい人の前に立っていた。周りにはいくつもの魂のような人影が見える。
俺の隣には、どこか見覚えのある、フグの魂がゆらゆらと漂っていた。
「まさかフグに殺されるとはのう。しかも、お主とほぼ同時に魂が天に昇るとは。よほど強い絆で結ばれておったとみえる。飼い主が死んだ後、そのフグもまた、主人の後を追うようにして息絶えたのじゃ」
「干からびて…」
「うむ」
神様は気の毒そうに頷いた。しかし、その目にはどこか楽しげな光が宿っている。
「その強い絆に免じて、異世界転生してみるのはどうじゃ?肉体は滅びたゆえ、新しい器を選ばせる。何か望みはあるか?」
『異世界転生ってマジかよ。俺、一番バカにしてたテンプレ通り。このまま行けば、そのうちクソハーレム展開とかもあるんじゃねぇの?……そんなマンネリマジ死ねって思ってたのに!いや、もう死んでるけど!』
「おい、話をちゃんと聞いておるのか?」
神様の声に、思わず「あ、今のままでいいです!」と反射的に答えてしまった。
「うむ。ちなみに、飼い主であるお主には、ペットの容姿性別をカスタマイズできる権利があるんじゃぞ」
『ふぐぅ…ふぐぅぅ』
隣で漂っていたファカの魂が激しく明滅した。
まるで『頼む!変えてくれ!』と叫んでいるようだ。
「フグがなにか、言っておるな。ふむふむ…人間にしてほしい、女にしてほしい、とな!?」
「え、お前も人間になるの!? しかも女!?」
「まぁ、おまえに伝えたいことでもあるのじゃろ。望みを叶えてやるのも飼い主の努め…というか、これはお主への罰じゃな。殺された恨みを、今世でご奉仕させて晴らすがよい!」
「俺、そいつに殺されてんだが!!」
「まぁ、よいではないか。冒頭から異世界カップルじゃぞ。おっぱいもスタイルも、お主好みにできるんじゃ。第二の人生、様々な美女に囲まれ、楽しんでこい!」
「様々な美女って…こいつ以外他にもいるのかよ!いやいやいや!誰がそんなベタ展開望んでやがるか!」
俺のツッコミもむなしく、神様は「操作はお前さんの脳内から参照して映像を作り出した。納得いくまでカスタマイズすればよい」とだけ言って、豪快に笑いながら、唐突に消えていった。
残されたのは俺と、目の前に浮かぶ半透明のステータスウィンドウ、そして期待に満ちてビカビカと明滅する元ペットの魂。
「……よし、俺を殺した罰だ。超絶美人に設定して、一生奉仕させてやる。覚悟しろよ!!」
俺はニヤリと笑い、カスタマイズ画面を操作し始めた。
「ステータスウィンドウにガチャみたいなスライダーがあるんですけど!?しかも胸だけでこんなに細かい選択肢があるのかよ!?」
胸の形は…鼻はこう、目はこうして…。髪型は…。
いや、これから長い付き合いになるかもしれない相棒だ。
もっと念入りにカスタマイズしないと、後で後悔するかもしれないしな…。
「…まあ、生前のファカは、クリムゾンレッドに山吹色のストライプのボディ、愛嬌のある顔で、結構気に入ってたしな」
種族は【人間】性別は【女】。
結局、俺は生前のファカの面影を重ねるように、パーツを選んでいった。
クリっとした大きな瞳は、山吹色に。髪は、クリムゾンレッド。
スタイルは…まあ、せっかくだし、ちょっとくらいサービスしてやるか…。
気づけば俺は、想像を絶する美女を一体、作り上げてしまっていた。
ジョブは・・・沢山あるな・・・
《格闘魔術師》?
面白そうだし、これにしてみるか。
「よし、これで完了…っと」
カチリ、と音がして、ステータスウィンドウが眩しく輝いた。
同時に、隣のフグ魂がビカビカと明滅し始める。
『フギュウウウウウッ!!』
「うわっ、やたらテンション高ぇな!? ていうか、ほんとに女体化するのかよ……」
視界が白に溶けていく。
神の声が響く…
(おまえさんがこれから行く異世界は、アルテミア大陸の中央、ロティファー王国じゃ)
体が吸い込まれるように落ちていく——
次に目を開けた時―― そこには、俺を殺した張本人であり、俺が作り上げた“理想の美女”が、満面の笑みで立っているに違いない。
「ご主人さまぁ♡ 今日から、ぜ〜んぶご奉仕してあげますね♪」
……そのような下劣な妄想をしながら、俺の第二の人生、が今まさに始まろうとしていた。