表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら猛毒ハーレム♡  作者: たんすい
第2章:毒沼の魔女と二人目の仲間
16/67

第16話:山小屋の休息

毒沼の魔女との死闘を終えた俺たちは、満身創痍だった。


ムーは《超鬼化》の反動で立つのもやっと。

俺もファカの肩を借りなければ、一歩すら歩けない。


ようやく見つけたのは、朽ち果てかけた古い山小屋だった。


倒れそうなムーを壁にもたせかけた瞬間、

ファカが駆け寄ってきた。

「ご主人様……! わたくしのせいで、こんな……」

挿絵(By みてみん)

潤んだ瞳から涙が零れ落ちる。

彼女は俺の胸に顔を押しつけ、声を震わせた。


「申し訳ございません……本当に、申し訳ございません……」


「お前のせいじゃない。気にするな」


笑ってやりたかったが、拷問の傷が熱を持ち、顔が歪む。


ファカはその痛みに自分が責められるように震えながら、

俺の服を脱がせて傷を確かめた。


「ひどい……こんな……!」

細いツルに削がれた皮膚は見るも無残で、彼女は息を呑んだ。


持っていた薬草を丁寧に塗り込む

涙で視界を滲ませながらも、決して手は止めなかった。


暖炉に火が熾り、薪がパチパチと弾ける。

炎の光が彼女の横顔を照らす。

それは、懸命に俺を守ろうとする一途な光だった。



やっと息が整った頃、俺はムーに視線を向けた。

そうだ――まだ二人をちゃんと引き合わせていなかった。


「ファカ、紹介するよ。こっちがオーガのムーだ。

 お前と同じで、俺が昔飼っていたムブっていうフグなんだ」


ファカは涙で濡れた頬を上げ、目を丸くする。

「……本当に御主人様は、フグがお好きですのね」


呆れたように、でもどこか嬉しそうに微笑むと、

ムーに向き直り、優雅に頭を下げた。


「わたくしはファカと申します。よろしくね、ムー」


「は、はいっ! わたくしのほうこそ、

よろしくお願いいたしますです、ファカ様!」


その時、ムーは少しだけ目を伏せ、声を落とした。

「……ファカ様も、主様を守ろうとしていたのですね。

 わたくしも、同じ気持ちでした」


一瞬、二人の視線が重なる。

涙で潤んだ山吹色の瞳と、巨体に似合わぬ優しい眼差し。

そこに生まれたのは、言葉を超えた“同志”としての共感だった。



暖炉の火が小さくはぜる。

ふと、ファカはムーの腕に残る深い裂傷に気づいた。

「……あなたも酷い怪我を」


薬草の束をそっと取り出し、ムーの大きな手に握らせる。

「ご主人様のことで手一杯でしたけれど……仲間を気遣うのも、当然の務めですわ」


「ファカ様……ありがとうございますです」

ムーは胸に熱いものが込み上げたのか、深々と頭を下げた。


俺は黙って二人のやり取りを見ていた。

ファカの優しさが俺だけに向けられるのではなく、ムーへも注がれている。

その瞬間、三人を結ぶ絆が、より均衡の取れたものになったのを感じた。


「……本当に、生きていてよかった」


ぽつりと漏れた俺の言葉に、ファカがこくりと頷く。


「ええ……もう二度と、あんな思いはしたくありませんわ。

 ご主人様を失うかと思った……あの恐怖は、金輪際ごめんです」


ムーも穏やかに続ける。

「わたくしもです。主様とファカ様が無事で、本当によかったです」


暖炉の炎が三人の顔を照らし、

互いの無事を確かめ合うような時間が流れる。


やがて、手当てを終えたファカが、俺の腕に自分の胸を押しつけ、

甘えるように囁いた。


「もう私たちは、どこにも行く場所がありませんわね」


「ああ……しばらくはここに厄介になるしかないな」


「ええ。わたくしは、ご主人様とこうしていられるだけで、

 魔力も体力も全回復ですわ♡」


まったく、戦いが終わった途端に元通りか。

だが、その甘えた声が聞けるのも、今は心地よい。


ムーがそんな俺たちを見て、ふふっと微笑んだ。


極度の緊張から解放された身体は、鉛のように重い。


恐怖と安堵、そして言いようのない疲労から、

俺たちは自然と互いを求め、暖炉の前の光だまりに身を寄せた。


ファカは俺の腕を枕にし、ムーはその大きな背で包み込むようにして。


三人の寝息だけが響く静かな夜。

こうして俺たちは寄り添いながら、深い眠りへと落ちていった。



翌朝。


俺は、ファカの静かな気配で目を覚ました。

隣ではムーが健やかな寝息を立てている。


ファカは口元に指を当て、静かにするよう合図すると、

俺の手を引いて小屋の外へと誘った。


言葉はなかった。

ただ、山吹色の瞳が、まっすぐに俺を見つめている。


彼女が案内したのは、小屋の裏手にひっそりと流れる清流だった。


朝の光が木々の隙間から差し込み、水面をきらきらと照らす。

小さな滝がさらさらと心地よい音を立てていた。


そこでファカは立ち止まり、俺の服の合わせにそっと手をかける。

彼女の真剣な瞳に、言葉も動きも奪われた、その眼差しは真剣で、不純な色は一切ない。


俺は息を呑み、されるがままに身を任せた。


血と泥にまみれた服が剥がされる。

昨日の死闘の記憶が蘇りかけるのを、俺はぐっと堪えた。


山の水は、凍えるほどに冷たい。

足を踏み入れた瞬間、全身を鋭い痛みが駆け抜け、

だが同時に、鈍っていた感覚が研ぎ澄まされていくようだった。


隣に、ファカも衣を脱ぎ、静かに水へと入ってくる。

挿絵(By みてみん)

朝日を浴びた白い肌が、眩しすぎて直視できない。


俺は思わず顔を背けた。

普段なら軽口でも叩くところだが――今日はそんな気になれなかった。


ファカは背後へと回り込み、温かな両手で俺の体を洗い始めた。


首筋に残る汚れを拭い、

背中にこびりついた血を流し、

無数の傷跡を、労わるように撫でていく。


冷たい水。

そしてファカの肌から伝わる温もり。


相反する感覚が同時に、俺の身体を満たしていった。


――ああ、俺は生きている。

この冷たさも、この温かさも、感じられる。

そしてファカが、ここにいる。


気づけば俺は振り向き、その華奢な体を強く抱きしめていた。

水滴が頬を伝う。それが清流の水なのか、涙なのか、もうわからない。


「……おかえり、ファカ」


やっと言えた。

魔女に身体を奪われ、消えてしまうかと思った恐怖。

そして、生きて再び会えた安堵。


溢れ出した感情に、俺は子供のように泣き崩れ、

彼女の肩に顔を埋めた。


ファカは一瞬驚いたが、やがてその細い腕で強く抱きしめ返してくれる。


「――ただいま、ご主人様。」


その声は震えていた。

滝の音だけが響く静かな朝、

俺たちは互いの存在を確かめ合うように、

いつまでも抱きしめ合っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ