第1話:ペットに殺された日
『ガッシャアアアアアアアアアンッ!!』
鼓膜を突き破るような轟音とともに、目の前の大型水槽が内側から爆発するように弾け飛んだ。
原因は、俺の愛魚――大型の淡水フグ。そいつがガラスに激突し、見事にぶち破ったのだ。
視界いっぱいに舞い散る無数のガラス片が、照明を乱反射させる。
まるで時が止まった世界に、透明な凶器の雨が降り注いでいるかのようだった。
次の瞬間、きらめく光の一片が俺の視界を裂いた。
致命的な角度で飛んできたガラスの破片が、寸分の狂いもなく俺の首筋へと深々と突き刺さる。
「――っ!?」
声にならない悲鳴と同時に、俺の視界の端で【テトラオドン・ファハカ】が宙を舞っていた。
体長40センチを超える、誇らしい巨体。
ワインレッドとレモンイエローの鮮やかなストライプ。
美しく広がる山吹色の尾びれ。
ああ、なんて美しいんだ……。
俺の名は――渚 海。
そして、宙を舞うあいつは、俺が世界一誇りに思っていた相棒、通称ファカだ。
……いや、正確には「だった」。
放物線を描いたファカは、そのまま俺の顔面に激突。 衝撃で床に倒れ込む俺の横で、ファカはビチビチと苦しそうに跳ね続ける。
どくどくと溢れ出す自身の血液と水槽の水が床に混ざって広がり、視界が赤く染まっていく。
薄れゆく意識の片隅で、俺の血を跳ね上げながらファカの尾びれが俺の顔を激しく連打していた。
(頸動脈、いっちゃったな。これ確実に死ねるやつだ。)
ああ、生臭い……早く水に戻してやらないと。
いや、その前に俺が死ぬか……もう逝く…。
こうして俺の人生は幕を閉じた――はずだった。
だが、違った。
まさか異世界に転生して、飼っていたフグ――ファカが美女になって、俺の第二の人生に深く関わってくるなんて…… 誰がそんな展開を予想できただろうか。