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第11話 『神獣無双、伝説が神話に格上げされた日』



王都の外で、地鳴りが響いた。


魔物の咆哮が空気を裂く。


兵士たちは動きを止め、皆が不安げに空を見上げる。


俺は城の医療室の片隅で、震える胃を押さえながらその気配を感じ取っていた。


(ああ……あれ絶対ヤバいやつだ……

 昨日までの“ちょっと強い”魔物とは次元が違う……!)


でも、次の瞬間。


もう一つの気配が、ゆっくりと外へ歩いて行った。


ぽふん、ぽふん。


軽い足音。


小さな狸の姿の神獣が、ゆったりと門の方へ歩いていく。



【神獣視点】


あーあ、結局こうなるのか。


あの子があんなに頑張って命を繋いだっていうのに。


わざわざ強い魔物を連れてきて、こんな場所で暴れさせるなんて。


人間って、本当に厄介な生き物だ。


……ま、仕方ないか。


あの子の“胃”がこれ以上痛まないように。


さっさと片付けるとしよう。


俺は門をくぐり、巨大な魔物を見上げた。


黒い甲殻に覆われた四足獣。


王都の外壁より高い背丈、凶暴な牙。


普通なら、王国最強クラスの騎士団でも相手をするのに苦戦する相手。


でも、俺からすれば――。


「ただの、ちょっと大きい犬だな」


尻尾を軽く一振り。


空気がびりっと震え、周囲の魔力が一気に静まる。


魔物が一歩動く前に、俺の前足から細い光の線が走った。


刹那。


魔物の動きが止まった。


……そして、崩れるように地面に倒れた。


そのまま、もう二度と起き上がらなかった。


「終わり」


俺は軽くあくびをして、尻尾で埃を払った。


誰も傷つけさせない。


あの子の前で、もうこれ以上血が流れないように。


それだけで十分だ。



【リヒト視点】


轟音が止んだ。


あまりに突然の静寂に、皆が息を呑んだ。


遠くの門の方から、兵士の叫びが聞こえる。


「ま、魔物が……一撃で……!」


「神獣様の神域の力だ……!」


「いやいやいやいや!!!」


俺は薬瓶を持ったまま叫んだ。


「俺じゃないです! 俺はずっとここにいたんですってば!!!」


でも、周囲の騎士たちは感極まった顔をしている。


「神童様が後方から力を授けられたのだ……!」


「いやぁぁぁ! 薬作ってただけですぅぅぅ!!!」


胃が再びぐるんとねじれる。



門の向こうから、ゆっくり歩いてくる小さな影。


のほほんとした顔の狸。


ぽふんぽふんと足音を響かせながら、まるで散歩帰りみたいに戻ってくる。


兵士たちは震えながらひざまずいた。


「神獣様が……王都をお救いくださった……」


「この地はもう完全なる神域だ……!」


誰かが泣きながら叫んだ。


「これは伝説だ! 神童様と神獣様が国を救った日だ!」


瞬く間にその言葉が広がる。


「神話の誕生だ!」

「今日が歴史に刻まれる!」

「神童様万歳!!!」


胃が、爆発音を立てた気がした。



父上たちが戦場から戻ってきた。


剣を肩に担ぎ、落ち着いた顔をしている。


「……終わったか」


「父上、あれ俺のせいになってません!?!?」


「リヒト、お前は命を救った。それが全てだ」


「胃が死んだことも全てに入れてくださいぃぃぃ!!!」


カイル兄上がぼそっと呟いた。


「国中が、いや他国にまで噂が広まるだろうな」


アルヴィン兄上が真面目な顔で頷く。


「もう伝説級だな」


「やめてぇぇぇぇ!!!」



その夜。


王都は眠らなかった。


人々が街中で火を灯し、歌い、踊り、泣き、祈った。


「神童様と神獣様が、国を救ってくださった!」

「この国は永遠に守られる!」


俺は城の窓辺から、その光景を見て胃を押さえた。


「……俺、何もしてないのに……」


狸は横で丸くなり、尻尾を揺らしている。


「お前さぁ……なんで毎回こうなるの……?」


狸はあくびをして、俺の足に尻尾をぽふんと当てた。


……その仕草だけが、ほんの少しだけ安心をくれた。



こうして、王都を救った“神話”が誕生した。


歴史書にはきっとこう書かれるだろう。


「神童リヒトと神獣が、王都を覆った闇を一夜にして祓った日」


……でも、真実は。


俺はただ、必死に薬を作って、胃を壊していただけだ。


胃を抱えながら、俺は心の中で叫んだ。


(頼むから……もう平和な日常に戻らせてくれぇぇぇぇ!!!)


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