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第6話 『父レオンハルト、伯爵に叙爵される』



胃痛が治まらない。

むしろ謁見の間の空気が、どんどん重くなっていく。


狸は相変わらずマイペースで毛づくろい。


……でも、現実は残酷だった。



王様が玉座に座り直し、場を見渡した。


「――これほどの神域の加護が国に現れたこと、誠に喜ばしい。


 リヒトを守り育てたグランメル家の功績もまた、計り知れぬものだ」


ざわめく謁見の間。


(え、功績? 俺、普通に育てられただけなんですけど……)


王様が父上に視線を向ける。


「レオンハルト」


「はっ」


「お前はかつて、この国を幾度も救った勇士であり、今なお領民と家族を守る剣だ。


 今回の件で、神獣すら共に歩む加護を再びこの国にもたらした。


 ――よって、グランメル男爵家を伯爵家へと叙爵する」


一斉に響く拍手とざわめき。


俺は耳を疑った。


(えっ!? 今なんて!? 伯爵!?)


心臓が飛び出そうになる。



父上は一瞬だけ目を瞬かせたが、深く頭を下げた。


「……身に余る光栄」


いやいやいや! 父上!!

それ受けちゃダメなやつぅぅぅ!!

俺らの平和がさらに遠のくんですけどぉぉぉ!!!


貴族たちが口々に称賛する。


「さすがはグランメル殿……」


「神獣と共にある家、国の誇りだ」


(……待って! 俺も狸もそんなつもりゼロだからぁぁぁぁぁ!!!)



俺は必死に父上の袖を引っ張る。


「父上! 断りましょうよ! 伯爵なんてなったらもっと目立つじゃないですか!」


「……リヒト、もう流れは止まらん」


「止めてぇぇぇぇ!! 俺の胃が死んじゃうよぉぉぉ!!!」


狸は横で満足げに尻尾を揺らしている。


お前も原因の一つなんだから、責任取れよ!?

この状況、半分お前のせいだからな!?



王様が続ける。


「伯爵家となれば、王都との連携も強まる。


 リヒトの存在は、この国の未来そのものだ。


 グランメル家は、もはや地方だけに留めておくには惜しい」


貴族たちがまたざわつく。


「国の要だな……」


「未来を託せる家だ……」


胃が限界を超えて逆流した。


(やめてくれぇぇぇ!! 騒ぎをさらに拡大しないでぇぇぇ!!!)



狸に小声で話しかける。


「なぁ……もう帰ろう? このまま帰っちゃおう?」


狸はあくびをしただけ。


「なにその“諦めろ”って顔!? お前も被害者仲間じゃないのかよ!? 一緒に逃げようぜ!!」


周囲の神官が感極まった声を上げる。


「ご覧ください……神獣様と未来の守護者様が密談を……!」


「違う違う違う! ただの逃亡計画だからぁぁぁぁぁ!!!」



叙爵式がそのまま始まった。


金色の証書が父上の手に渡され、剣が肩に当てられる。


「――この瞬間をもって、レオンハルト・グランメルを伯爵に叙す」


再び大歓声。


父上がにっこり笑って俺を見る。


「リヒト、これでお前の未来はさらに守られる」


「いや守られるどころか炎上してますから!! 俺の平和どこ行ったの!?」


「家も領地も、もう揺らぐことはない」


「俺の胃が揺らぎまくってますぅぅぅぅ!!!」


狸がぽふんと尻尾を俺に当てる。


(……受け入れろ)

そんなメッセージが聞こえた気がした。



こうして父上が伯爵に叙爵。


グランメル家は“神獣を連れる伯爵家”と呼ばれることになった。


国の未来?

守護者?

そんなもの求めてない。


俺はただ、平和に生きたいだけなのに。


……胃が……もう、完全に終わった。


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