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第5話 『謁見で王様が神獣の気配を確信』



胃薬を飲んでも効かない。


謁見の間に足を踏み入れた瞬間、胃がさらに縮み上がった。


赤い絨毯、豪華すぎる装飾、ずらりと並んだ貴族と神官。


そして奥の玉座には――この国の王様。


以前、お忍びでグランメル領に来ていたあの人だ。


(……やっぱり王様だ……あの時のおじさんが王様だってわかってても……これ、緊張しすぎて胃が死ぬやつ……)



王様が立ち上がり、俺を見て優しく微笑んだ。


「久しぶりだな、リヒト」


「は、はい……」


王様はゆっくり近づいてきて、俺の前に立つ。


「前に会った時から、ただならぬ気配を感じていた。


 そして今、この場で確信した。これは――神域の加護だ」


ざわめく謁見の間。


「陛下が確信されたぞ!」


「神童様の力は本物だ!」


胃がねじ切れそうだ。


(ちがう! 俺じゃない! 俺そんな力ない!!)


勇気を振り絞って声を上げる。


「え、えっと! その……!」


王様が小さく首を傾げる。


「……どうした?」


「それ、絶対俺じゃないです!! この狸から……なんか、すごいの出てますぅぅ!!」


俺の足元で毛づくろいをしていた狸を指差す。


狸はぼんやりあくび。


神官たちが感極まった声を上げる。


「神童様が神獣を“狸”と呼ぶのは親愛の証……!」


「なんという慈悲深さ……」


「また伝説が増えた……!」


いやああああああ!! 俺、事実を言っただけぇぇぇぇ!!



王様は狸に視線を移し、目を細めた。


「……やはりこの神獣、想像以上の神域を放っているな」


場の空気が一気に張り詰める。


「我が国の加護の源を超えるほどの力が、確かにここにある。


 そしてそれが、お前の傍から離れない。


 ――偶然とは思えん」


いやいやいや! 偶然ですぅぅぅ!!

勝手に付いてきただけなんですってばぁぁぁぁ!!!



父上が一歩前へ出る。


「陛下、以前も申し上げましたが、リヒトはまだ幼く――」


「レオンハルト」


王様が軽く手を上げて遮る。


「お前の息子が凡庸であるはずがないことは、前回会った時にわかっていた。


 そして神獣が自ら選び、ここにいる。


 この事実だけで十分だ」


父上は口をつぐむ。


俺は必死に心の中で叫ぶ。


(違う違う! 俺は選ばれてない! この狸が勝手に寄生してるだけぇぇぇぇ!!)



王様は俺の肩に手を置き、穏やかに言った。


「リヒト、君と神獣がここにいるだけで、人々は安堵し、未来を信じられる。


 それは何より尊いことだ」


「え、えええ……俺、ただの田舎の子どもなんですけど……」


周囲がざわめく。


「ご謙遜なさるとは……!」


「神童様はやはり器が違う……!」


胃が今度はねじれた気がした。



狸がぽふんと俺の足に尻尾を当てる。


「……なぁ、お前、ほんとに勝手についてきただけだよな?」


狸は無言で毛づくろい。


「なぁ!? お前も被害者だろ!? 一緒に否定しようぜ!」


狸はあくびをして、ぷいっとそっぽを向いた。


「おいぃぃぃぃぃ!!!」


神官たちはさらに盛り上がる。


「ご覧ください……神獣様と心を通わせている……!」


「奇跡の調和だ……!」


違う違う違う! 俺、無視されただけだぁぁぁ!!!



王様が玉座へ戻り、全員に向かって宣言した。


「――この国には、真の加護がある。


 リヒトと、この神獣が共にいる限り、我らは守られるだろう。


 私はこの目で確かめた」


謁見の間が大歓声に包まれる。


「陛下が認められたぞ!」


「国に真の守護者が現れた!」


「神童様万歳!!!」


俺は震えるしかできない。


(……これ、もう完全に詰んだ……)


(胃が……俺の胃がもう存在しない……)



こうして王様は、正式な場で“神獣の加護を確信”と宣言。


俺は逃げ場を完全に失い、“国の守護者”扱いが国中に広まった。


狸は満足げに尻尾を揺らす。


お前……絶対楽しんでるだろ……?


俺の胃は、完全に終わった。


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