第5話 『謁見で王様が神獣の気配を確信』
胃薬を飲んでも効かない。
謁見の間に足を踏み入れた瞬間、胃がさらに縮み上がった。
赤い絨毯、豪華すぎる装飾、ずらりと並んだ貴族と神官。
そして奥の玉座には――この国の王様。
以前、お忍びでグランメル領に来ていたあの人だ。
(……やっぱり王様だ……あの時のおじさんが王様だってわかってても……これ、緊張しすぎて胃が死ぬやつ……)
◆
王様が立ち上がり、俺を見て優しく微笑んだ。
「久しぶりだな、リヒト」
「は、はい……」
王様はゆっくり近づいてきて、俺の前に立つ。
「前に会った時から、ただならぬ気配を感じていた。
そして今、この場で確信した。これは――神域の加護だ」
ざわめく謁見の間。
「陛下が確信されたぞ!」
「神童様の力は本物だ!」
胃がねじ切れそうだ。
(ちがう! 俺じゃない! 俺そんな力ない!!)
勇気を振り絞って声を上げる。
「え、えっと! その……!」
王様が小さく首を傾げる。
「……どうした?」
「それ、絶対俺じゃないです!! この狸から……なんか、すごいの出てますぅぅ!!」
俺の足元で毛づくろいをしていた狸を指差す。
狸はぼんやりあくび。
神官たちが感極まった声を上げる。
「神童様が神獣を“狸”と呼ぶのは親愛の証……!」
「なんという慈悲深さ……」
「また伝説が増えた……!」
いやああああああ!! 俺、事実を言っただけぇぇぇぇ!!
◆
王様は狸に視線を移し、目を細めた。
「……やはりこの神獣、想像以上の神域を放っているな」
場の空気が一気に張り詰める。
「我が国の加護の源を超えるほどの力が、確かにここにある。
そしてそれが、お前の傍から離れない。
――偶然とは思えん」
いやいやいや! 偶然ですぅぅぅ!!
勝手に付いてきただけなんですってばぁぁぁぁ!!!
◆
父上が一歩前へ出る。
「陛下、以前も申し上げましたが、リヒトはまだ幼く――」
「レオンハルト」
王様が軽く手を上げて遮る。
「お前の息子が凡庸であるはずがないことは、前回会った時にわかっていた。
そして神獣が自ら選び、ここにいる。
この事実だけで十分だ」
父上は口をつぐむ。
俺は必死に心の中で叫ぶ。
(違う違う! 俺は選ばれてない! この狸が勝手に寄生してるだけぇぇぇぇ!!)
◆
王様は俺の肩に手を置き、穏やかに言った。
「リヒト、君と神獣がここにいるだけで、人々は安堵し、未来を信じられる。
それは何より尊いことだ」
「え、えええ……俺、ただの田舎の子どもなんですけど……」
周囲がざわめく。
「ご謙遜なさるとは……!」
「神童様はやはり器が違う……!」
胃が今度はねじれた気がした。
◆
狸がぽふんと俺の足に尻尾を当てる。
「……なぁ、お前、ほんとに勝手についてきただけだよな?」
狸は無言で毛づくろい。
「なぁ!? お前も被害者だろ!? 一緒に否定しようぜ!」
狸はあくびをして、ぷいっとそっぽを向いた。
「おいぃぃぃぃぃ!!!」
神官たちはさらに盛り上がる。
「ご覧ください……神獣様と心を通わせている……!」
「奇跡の調和だ……!」
違う違う違う! 俺、無視されただけだぁぁぁ!!!
◆
王様が玉座へ戻り、全員に向かって宣言した。
「――この国には、真の加護がある。
リヒトと、この神獣が共にいる限り、我らは守られるだろう。
私はこの目で確かめた」
謁見の間が大歓声に包まれる。
「陛下が認められたぞ!」
「国に真の守護者が現れた!」
「神童様万歳!!!」
俺は震えるしかできない。
(……これ、もう完全に詰んだ……)
(胃が……俺の胃がもう存在しない……)
◆
こうして王様は、正式な場で“神獣の加護を確信”と宣言。
俺は逃げ場を完全に失い、“国の守護者”扱いが国中に広まった。
狸は満足げに尻尾を揺らす。
お前……絶対楽しんでるだろ……?
俺の胃は、完全に終わった。




