第4話 『王都に到着、歓迎ムードに本人ビビり』
王都の門が見えてきた。
……見えた瞬間、俺の胃が、また死んだ。
◆
「なんだ……あの人の量は……」
アルヴィン兄上が呆然と呟いた。
俺も窓からそっと覗く。
……見える範囲、全部、人。
王都の外壁の前、広場、道、建物の屋根の上まで。
人、人、人。
旗がひらめき、花びらが舞い、鐘が鳴り響いている。
「これ……まさか全部、俺らのため……?」
「間違いなくそうだな」
父上がさらっと言った。
「いやいやいや! これ国王様帰還レベルですよ!? 俺ただの子どもですよ!? 田舎の……村レベルの子どもですよ!?」
「“神の行列”が来るって、昨日から王都中が祭りらしい」
カイル兄上が冷静にメモを取っている。
「祭り!? 神輿!? 俺、担がれる系!?」
「可能性はある」
「うそだろおおおぉぉぉぉ!!!」
胃が限界突破した。
◆
門の前で騎士団長が馬から降り、深々と頭を下げた。
「神域の守護者様、ここから先は王都の衛兵が先導いたします」
「いや、守護者じゃないですってば……」
声は誰にも届かない。
むしろ俺が喋っただけで、周囲から歓声が上がる。
「神童様がお言葉を……!」
「今日一日が、国史に刻まれる日となる……!」
「いやいやいや! ただのツッコミですぅぅぅぅ!!!」
◆
門が開いた。
その瞬間、爆音のような歓声。
「神の子様がいらっしゃったぞぉぉぉぉ!!」
「おおおおおおおお!!!」
王都の大通りは、すでに“パレード仕様”になっていた。
道の両脇に群がる人々、上空に舞う花びら。
建物のバルコニーから紙吹雪が降ってくる。
馬車が一歩進むたび、俺の寿命が三日ずつ削られる感覚がする。
母上がのんびりと笑顔で言った。
「リヒちゃん、手を振ってあげましょう♡」
「無理です!! もう胃が爆発寸前です!!」
「ほら、にっこりと」
「無理無理無理無理!!!」
だが、父上が一言。
「リヒト」
「……はいぃぃ……」
逆らえない。俺は震える手を上げて、ぎこちなく手を振った。
その瞬間、沿道が地鳴りのような歓声に包まれた。
「神童様が祝福を授けてくださったぁぁぁぁ!!!」
「奇跡だ! 奇跡が降りた!!」
「いやだから違うんだってばぁぁぁぁぁ!!!」
◆
狸はと言えば。
馬車の屋根の上で、王都の空気を満喫していた。
尻尾をふわふわと揺らし、得意げに胸を張っている。
「ああ、もう完全に神獣扱い……」
俺がぼやくと、狸は小さくくあぁぁとあくびした。
(お前も被害者仲間だと思ってたのに……裏切ったな……)
周囲からは「神獣様が神域を広げているぞ!」という謎報告。
道端の草木が揺れただけで「祝福が舞った!」と叫ばれる。
俺はもう泣きそうだ。
◆
王都の中央広場に到着した頃には、俺の胃は完全に死んでいた。
広場中央には、王都最上位の神官や貴族たちが並び、地面に跪いて待っている。
その先に見える王城の大扉が、ゆっくりと開かれた。
「リヒト、陛下が待っておられる」
父上が馬車から降りながら言った。
「……胃が、もう無理です……」
「大丈夫だ。すぐ終わる」
「その“大丈夫”が一番信用できないんですぅぅぅ!!!」
こうして俺は、王都のど真ん中でパニックのまま馬車を降りた。
足は震え、心臓はバクバク、視線は四方八方から突き刺さる。
狸がぴょんと俺の隣に降り立つ。
「神童様と神獣様が、共に降臨された……!」
「国史に刻まれる瞬間だ……!」
もうやめて……。
誰か……この勘違いを止めてぇぇぇぇぇ!!
◆
こうして、王都に入ったその日から、
俺は国民全員の前で“神童&神獣コンビ”として歴史に刻まれることになった。
胃痛と共に。
(……帰りたい……今すぐ帰りたい……)




