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第6章 第1話 『王都行きが決まった日、準備地獄スタート』


王都からの招待状が届いた日――。


俺の胃は、たぶんもう半分くらい消し飛んだ。



「リヒト。正式な召喚状だ」


父上が真顔で差し出した封筒。


王家の紋章が押されている。煌びやかな赤い封蝋。


……見た瞬間、もう嫌な未来しか見えなかった。


「……やっぱり、俺、行かなきゃダメですか?」


「行かないと失礼になるな」


「父上だけ行ってきてもらえないでしょうか……」


「お前宛てだ」


「やっぱり胃薬を――」


「リヒト」


父上の手が肩に置かれる。


優しいのに、有無を言わせない圧力。あ、これ完全に逃げ場ないやつだ。


兄二人が横でニヤニヤしていた。


「ついに来たな、神の子のご指名」


「国の守護者が王都デビュー……歴史が動く日か?」


「やめて……! そういうこと言わないで……!」


胃がぎゅるぎゅる鳴った。



会議はすぐに始まった。


王都までの護衛はどうするか、馬車は何台出すか、食料と水はどれほど持っていくか――。


母上は頬に指を当ててのんびり言った。


「そうねぇ、王都までは二日かしら? お弁当いっぱい作って……リヒちゃん用におやつも♡」


「母上、観光じゃないんです……命の危険が……」


「じゃあ非常食も♡」


「そういう問題じゃないんですぅぅ!!!」


カイル兄上が妙に真面目な顔をした。


「護衛は……うちの兵だけじゃ足りないな。王都までの道が今、巡礼者でいっぱいらしい」


「巡礼者……?」


「“神域の守護者が王都へ向かう”って噂がもう広まってる」


「誰が流したんですかそれぇぇぇぇぇ!!」


ああ、思い出すだけで胃がひっくり返る。


俺が“神域の守護者”なんて名乗ったこと、一度もない。


勝手に誰かが勝手に言って、勝手に拡散してる。


俺はただ、安全第一で生きてきただけなのに。


アルヴィン兄上が冷静にまとめる。


「王都からも騎士団が護衛に来るらしい。それと……」


「それと?」


「沿道の町や村が、歓迎の準備を始めていると」


「……歓迎?」


「多分……パレードみたいになる」


……。


……パレード……?


(死んだ。俺はもう死んだ。)


胃が、完全に終わった音がした。



「とりあえず荷造りからだな」


父上の一声で、家全体が動き出した。


いや、動き出す速度がおかしい。


兄たちは馬車の確認、母上と姉上は食料準備、使用人たちは防具と薬品の山を積み上げる。


何が怖いって――その量だ。


「剣十本、槍五本、弓三張り……全部持ってく?」


「非常時に備えて魔力ポーションは百本」


「胃薬は……俺の分は百二十本くらい必要です」


「リヒちゃん、そんなに飲んだらお腹壊すわよ〜♡」


「死ぬよりマシです!!」


さらに父上が言った。


「王都の連中が何を仕掛けてくるかわからん。最悪、魔物の襲撃もある」


「えっ!? そんな危険地帯なんですか王都!? 行きたくないんですけど!!」


「念のためだ」


「父上の“念のため”は信用できないんですううう!!!」


準備は雪だるま式に膨れ上がる。


魔法障壁用の水晶、非常用結界道具、馬車の予備車輪。


なぜか棺桶まで準備しようとしている兵士がいて、俺は泣きそうになった。


「やめてぇぇぇぇぇ!! 出発前から死亡フラグ建てないでぇぇぇぇ!!!」



夕方、準備が一段落した頃。


縁側に腰掛けて、ぐったりした俺の前を、小さな影が横切った。


――あの狸だ。


森で見かけたあの子が、いつの間にか屋敷に来ていた。


俺にしか見えない距離感で、首をかしげ、てちてち歩いてくる。


「……君までついてくる気じゃないよな?」


返事はない。


でも、狸は尻尾をぽふんと揺らしながら、まるで「任せろ」と言っているような顔をした。


(やめて……勝手に護衛体制敷かないで……余計に伝説が強化されるから……!)


胃の奥がきりきりと悲鳴を上げる。


俺は空を仰いだ。


(もうだめだ……逃げ道がない……)


王都行き決定。パレード確定。巡礼者行列。騎士団護衛。狸の勝手なボディーガード。


これ以上何が起きるっていうんだ。


……いや、俺がフラグ立てるとだいたい起きるんだよな。


たぶん、まだ始まったばかりだ。



夜、寝室。


布団を頭までかぶり、震えながら決意する。


(頼む……どうか無事に帰って来れますように……)


(もう“神の子”とか“守護者”とか、勝手に呼ばないでくれますように……)


(胃が爆発しませんように……!)


祈りながら、俺は眠りに落ちた。


その祈りが届くことは――たぶんない。


むしろ明日から、誤解の炎はさらに燃え上がるのだ。


(……もう、俺の人生、準備しても追いつかないんじゃ……)


そんな予感しかしないまま、王都行き初日が終わった。


6章始まります。

読んでくださる方がいるのに感謝しかないです。

最後まで書き上げますのでよろしくお願いします。

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