第15話 『王都出発が決定、リヒト絶望』
森が神域扱いされてから数週間。
巡礼者も神官も、家訓発動で見事に消え去った。
屋敷の前は久々に静かだ。
……なのに、俺の胃はまったく休まらない。
(これは……嵐の前の静けさってやつだ……)
その予感は、朝の父上の一言で現実になった。
「王都から正式な招待状が届いた。出発は十日後だ」
「……は?」
俺の脳が一瞬フリーズした。
そして、椅子から転げ落ちながら絶叫した。
「いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
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アルヴィン兄上が落ち着いた声で手紙を読み上げる。
「『王家として正式に、神童リヒト・グランメルを王都へお迎えしたい』だそうだ」
「呼ばれてないから!呼ばれていい存在じゃないから!!」
カイル兄上が淡々と告げる。
「もう決まったことだ。王都が動いたら、誰にも止められない」
「そんなぁぁぁぁぁ!!俺の平穏ライフぅぅぅ!!」
母上はにこにこ。
「リヒちゃん、王都ってすごくきらびやかで楽しいわよ〜♡」
エミリア姉は目を輝かせて言う。
「王様とお茶できるね〜♡」
「無理!胃が死ぬから無理ぃぃぃ!!」
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父上は真剣な表情を崩さずに言った。
「王都行きは避けられん。安全第一で動く。大人数で護衛を組む」
マルタばあちゃんがにやり。
「ほっほ、わしらがついていれば王都の連中も軽くは動けまい」
じいちゃんは低い声で短く。
「手は打ってある」
俺は涙目で訴える。
「手を打つとか怖いからぁぁぁ!!俺もう胃が粉々になる!!」
でも誰も止まらない。
屋敷中が慌ただしくなり、使用人たちが荷物をまとめ始めた。
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準備の話を聞くだけで胃が痛い。
•護衛は父上、師匠、じいちゃんに加えて騎士団まで同行。
•馬車は特注、防御魔法を三重に張るらしい。
•途中の宿場も貸し切り、見物人を近づけない対策をするという。
カイル兄上がにやりと笑う。
「まるで王族の行列だな」
「やめてぇぇぇ!!俺ただの薬草キッズだから!!」
でも家族は当然のように話を進めていく。
アルヴィン兄上「王都の貴族が動いてる以上、準備は徹底しないとな」
エミリア姉「リヒちゃんが王都デビューだなんて嬉しい〜♡」
母上「お洋服も新調しましょうね〜♡」
俺の声だけが虚しく響いた。
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夜、俺は布団の中で天井を見つめた。
(王都に行ったら……間違いなく噂が爆発する……“神童様、王都に現る”とか“国を救う御子”とか見出しが並ぶ未来しかない……)
胃がズシンと重くなる。
夢にまで見た平穏な暮らしは、もう完全に消えていた。
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翌朝、王都からの使者が正式に到着した。
「王都行き、十日後に確定です」と、恭しく伝えられる。
俺は崩れ落ちた。
「いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
こうして、王都出発が正式に決まり、
俺の“安全第一異世界ライフ”は、国規模の騒動へと飲み込まれていく未来が確定したのだった。
読んでくださりありがとうございます。
だいぶ駆け足で5章終わらせました。
次は王都編へ移るんですが、7章が最終章の予定にしてます。最後まで駆け足でいくのでお付き合いお願いします。




