第5話 『ギルド視察隊来訪』
朝から胃が痛かった。
昨日の商人騒動で既に寿命が縮んだのに、今日はなんとなく嫌な気配がする。
俺はカーテンの隙間から外を覗き、深呼吸を繰り返した。
「……頼む、今日は平和であってくれ……」
神頼みの甲斐もなく、昼前には豪華な馬車が三台、屋敷の前に止まった。
革鎧姿の男たちがぞろぞろ降りてくる。胸元には「冒険者ギルド本部」の紋章バッジ。
(ギルド本部!?なんで王都から!?)
俺は胃を押さえた。
嫌な予感しかしない。匿名納品とは……一体なんだったのか。
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父上が門前に出ると、先頭の副長らしき男が深々と頭を下げた。
「王都の冒険者ギルド本部より参りました。
この領地で“神域薬草”が採れるという噂、森が浄化されたという噂、真偽を確かめに参上しました」
国家級の扱い!?
薬草拾っただけで国が動くなんて、聞いてない!
父上は眉をひそめた。
「息子はただの子供だぞ。噂を鵜呑みにするな」
副長は真剣な表情で答える。
「報告によれば、薬草の効果は通常の十倍、森の安全度も異常なレベルだと……。
本部としては放置できません。ぜひリヒト坊ちゃんに会わせていただきたい」
やめて名指しやめて!
俺は屋敷の影に隠れたが、アルヴィン兄上に首根っこをつかまれて引きずり出される。
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副長が俺を見て目を輝かせた。
「なんと……こんな幼い子が、森を祝福の地に変えるとは……!」
「ちがっ、俺じゃないです!拾っただけです!」
「謙虚だ……やはり本物だ」
いやいやいや!事実言っただけ!どうしてこう美化されるの!?
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質問攻めが始まる。
「森の道が光っていたと?」
「魔物がまったく出なかった?」
「薬草が奇跡の効能を持っていた?」
「そう……なってましたけど、俺は何も……!」
「なるほど、彼が歩くだけで森が変わるのか……」
違うってばぁぁぁ!
誰も現実を聞いてくれない。
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父上が間に入り、視察を強制終了させようとしたとき、副長が少し表情を緩めた。
「この件、陛下にも報告が上がるでしょうな……」
「……あいつにか?」父上が苦い顔をした。
「あいつ……?」俺が小声で聞くと、カイル兄上が耳打ちする。
「父上と王様、昔冒険者仲間だったらしいぞ」
えぇぇぇ!?王様ってそんなフランクな存在なの!?
俺の中の“威厳ある国王像”がガラガラと崩れていく。
副長は続ける。
「陛下はこういう話を聞くと放っておけない性分でしてな。
……こっそり見に来られる可能性があります」
父上がため息をついた。
「あいつのことだ、面白がって本当に来るかもしれん」
兄たちは目を丸くし、エミリア姉は「王様に会えるの〜♡」と浮かれる。
俺だけが青ざめていた。
(やだぁぁぁぁぁぁ!王様とか無理!お忍び訪問とか心臓が爆発するぅぅぅ!)
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視察隊は深々と礼をし、森のサンプルを持ち帰っていった。
屋敷には不穏な空気だけが残る。
父上:「……来るなら止められんだろうな」
アルヴィン兄上:「王様と再会とか、うちの領地がニュースになるな」
母上:「お茶菓子どうしよう〜♡」
俺:「俺の平穏計画、もう終わった……」
こうして、王様お忍び訪問のフラグが正式に立ってしまった。
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