第5章 第1話 『6歳になっていた件について』
5章はじまります。
6歳になった。
いや、正確には「なってしまった」という感覚のほうが強い。
俺は今、屋敷の食卓に座っている。目の前には誕生日ケーキ。
本来なら幸せの象徴なんだろうけど、俺の頭に浮かんでいるのは「胃薬どこ?」だった。
この6年間を振り返るだけで、胃が悲鳴を上げる。
俺はただ、安全第一で生きてきただけだ。慎重すぎる? そんなことない。命を守るためには必要最低限の備えをしただけだ。
でも世間の評価は違う。結果、俺は町で“神域の加護を受けた奇跡の三男坊”という謎の伝説を背負わされる羽目になった。
森で薬草を拾ってきただけなのに、ギルドが「神域品質!」と騒ぎ出す。
俺がしたのは安全ルートを確保しただけだ。
……いや、あの日、狸みたいなものが遠くからこっそり薬草をつついていた気もするけど、気のせいだ。うん、気のせい。
そんな中、誕生日の朝から俺はマルタばあちゃんに呼び出された。
「リヒちゃん、6歳おめでとうのう」
「……ありがとうございます」
「よし、今日はもう一段上の魔力の扱いを教えようか。命を守るなら、呼吸からじゃ」
俺は頷くしかなかった。命に関わるなら、習得しないと危険すぎる。
ばあちゃんは俺の肩に手を置き、ゆっくり呼吸を整えさせる。
「ほら、深く吸って、吐く。焦ったら魔力は暴れる。怖がらず、味方にするんじゃ」
俺は必死に頷き、言われるまま繰り返す。魔力が胸の奥でゆったり巡るのがわかる。
今までガチガチに固めていたのが嘘みたいだ。
「すごいです……」
「すごいのはリヒちゃんじゃよ」
頭を撫でられて、危うく泣きそうになる。俺の努力を真正面から認めてくれる人がいるなんて。
感動も束の間、「よし、次は走りながらやってみよか」と言われて絶望した。
「は、走りながら!?」
「危険は待ってくれんからの」
俺は泣きそうになりながら庭を全力疾走。息が荒れて、魔力がぶれる。
「無理です無理です!! 死ぬぅぅ!」
「死なん死なん、落ち着いて呼吸じゃ!」
必死で呼吸を整えながら走り回る俺を、縁側からじいちゃんが無言で見つめていた。
……その目は優しくも怖くもない。ただ“無”だ。何を考えているかわからない。
訓練が終わると、ばあちゃんが笑顔で褒めてくれる。
「よう頑張ったのう。リヒちゃん、やっぱり才能あるわい」
「……いや、ただ生きたくて必死なだけです」
聞こえてないらしい。
そのままじいちゃんに引き渡され、次は錬金術の修行が始まった。
テーブルに薬草が山盛り置かれる。じいちゃんは何も言わず指差す。
俺は必死で潰し、混ぜ、魔力を通す。
一瓶作ったら無言で次の材料が投げられる。
ミスって泡が吹き出すと、じいちゃんが一言だけ。
「……悪い」
褒められてない。むしろ駄目出しだ。怖い。
でも成功した瓶を出すと「……悪くない」。それだけ。
無言の圧が強すぎて、俺は全力で集中する。
途中、母上がふらりと庭に出てきて微笑む。
「あらリヒちゃん、また神様の奇跡を作ってるのね〜♡」
違う、泡まみれになってるだけです。
でも誰も俺の心の声を拾わない。
何十本目かわからないポーションを仕上げた時には、手が震えていた。
じいちゃんが一言。
「……明日、町に出す」
「えっ!?」
ばあちゃんが笑って言い添える。
「匿名じゃが、そろそろソロ納品の練習じゃな」
心臓が止まりそうになる。町……一人……胃が爆発しそう。
夜、家族がケーキを囲む。父上が真顔で言う。
「リヒト、6歳になったし、もう一人でも大丈夫だろう」
アルヴィン兄上が頷き、カイル兄上は「町の連中もう神の子扱いだしな」と笑う。
エミリア姉上が満面の笑みで抱きついてきた。
「リヒちゃん、神様に愛されてるんだもん、きっと町のみんなも喜ぶよ〜!」
胃がキリキリ。
違う、全部違う。俺はただ生き残るために準備してるだけなんだ。
ロウソクを吹き消しながら、心の中で叫んだ。
(6歳。今年こそ平穏に! 準備だけで、絶対に生き延びる……!)
……そう誓った瞬間、俺はもう知っていた。
きっとまた、何かが起こる。
そしてまた、誰かが勝手に俺を“神童”扱いするんだ。
5章がはじましました。
7章構成を予定しており、駆け足になるかもしれませんが、ぜひ最後までお付き合いください。
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それではよろしくお願いします!




