第15話 『錬金支部が騒然としてきた件』
森の採取から数日後。
俺は自室で小さな薬草袋を抱えて、ひとりニヤニヤしていた。
(よし、今日も怪我せずに帰れたし、薬草もそこそこ取れた……命を守る準備は大事だからな……)
俺が森に行くのは冒険のためじゃない。
ただ、何かあった時の備え。
前世で痛いほど分かった“準備の大切さ”を、この世界でも徹底しているだけだ。
それなのに、最近どうも家族の視線が違う。
なんか、やたらきらきらした目で見られてる気がする。
(え、そんなに変なことしてないよな……?)
不安を抱えつつ、採取した薬草をカイル兄に渡した。
「じゃ、これは錬金支部に届けてくるな」
「リヒト、ありがとな。お前の薬草はやっぱり質がいいわ」
「え、いや……運がいいだけ……」
俺は小声で答える。
本当にそう思っていた。
森が静かすぎるし、薬草がやたら元気なのは偶然のはずだ。
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錬金支部のカウンターに薬草袋が置かれた瞬間、職員の表情が固まった。
「……こ、これは……?」
袋の中には、ほのかに光を放つ薬草がぎっしり詰まっていた。
通常なら色がくすむはずなのに、まるで採ったばかりのように瑞々しい。
「この魔力濃度……回復力……神域級レベルだ……!」
支部がざわつく。
解析班が呼ばれ、慌ただしく薬草が運ばれていった。
「おい、誰が採ったんだ?」
「うちの末弟、三歳児ですけど?」
カイルが何でもないように答える。
「三歳児……!?冗談だろ……」
職員が目をひん剥いた。
その場にいた全員が一斉に振り返り、ざわざわと声を上げる。
「三歳でこの品質って……」「王都でも聞いたことないぞ」
「森に神が宿ってるって噂、まさか本当なのか?」
「いや、あの家の末っ子が神の子説あるな……!」
支部全体が騒然となり、しまいにはギルドマスターまで呼び出される事態になった。
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一方その頃、俺は領主邸の窓辺で外を眺めていた。
なんとなく退屈で、使用人たちの話が耳に入る。
「ねぇ、今日の薬草も神域級だったらしいわよ」
「やっぱりグランメル家の末っ子坊ちゃん、ただ者じゃないって話だわ」
俺は思わず目をぱちくりさせた。
(……え、俺の薬草がどうしたって?神域?いやいやいや、ただ普通のやつ拾ってるだけなんだけど!?)
心の中で必死に否定する。
でも、屋敷の中を歩く人たちの間で、噂がどんどん広がっていく。
「王都から調査隊が来るかもしれないってさ」
「三歳児で神域級薬草を採取とか、伝説級だよな……」
俺は机に突っ伏した。
(……なんか、またよく分からない誤解が広がってる……)
頭を抱えたまま深呼吸する。
ただ命を守るための準備をしてるだけなのに、なんでこうなるんだろう。
その日の夜、父と母の会話が漏れ聞こえてきた。
「錬金支部が大騒ぎだ。町でも噂になっているらしい」
「リヒちゃんも、そろそろ外の世界を見せてあげた方がいいのかしら……」
俺の背筋に寒気が走った。
(……外の世界?ま、まさか……)
いやな予感しかしなかった。




