第4話:気絶したら魔力量が上がってた。俺の修行、間違ってなかった……!
(まず、今日の反省点から──)
魔力の巡回速度を上げすぎて、昼前に気絶。
いつものことだが、今回のは少し長かった。目覚めたとき、夕日が差していて焦った。
けれど、成果もあった。
(巡らせる感覚が……明らかに、広がってる)
昨日まで“指先に届いたら成功”だったのに、今日は“指先から先に、ふわっと”感じたのだ。
まるで、魔力の道が太くなったみたいに。
(もしかして、気絶するたびに、魔力の器……広がってる?)
いや、仮説としては荒唐無稽すぎる。
でも、俺は前世で物理学も応急手当もかじっていた。
気絶は、極限状態に対する脳と肉体のリセット反応。
そして魔力は、“精神と肉体を通じて流れる力”……とするなら──
(つまり、気絶=強制リブートで魔力回路の拡張が可能?)
これは……アリだ。理屈が通る。
◇
そんな俺の研究心とは裏腹に、家族はほのぼのしていた。
「リヒちゃん、また寝てる〜♡」
「まったく……今日も天使か」
「よく寝る子は育つ、ってな!」
「僕も子供のころはお昼寝いっぱいしてたな……いや、たぶんここまでじゃなかったけど」
(ちがうんだ! 俺は寝てるんじゃなくて、訓練で気絶してるんだ!)
叫びたい。でもできない。なぜなら、赤ちゃんなのだ。
とはいえ、赤ちゃんだからってバカにできない。
気絶をくり返して得たものは“魔力量の上限”だけじゃない。
(俺の感覚も、鍛えられてきてる……)
魔力の“質”を感じるようになったのだ。
昨日まで「冷たい」「熱い」といった感覚だけだったが、
今日は「ちょっとざらざらしてる」「ぬるいけどとがってる」みたいな、微細な違いがわかる。
(これ……属性の違いなんじゃ?)
世間の魔法常識はまだ知らないが、俺の推測では、
魔力には属性があって、それに応じた“流れ方”がある。
しかもこの感覚、訓練後の“気絶明け”のほうがずっとはっきりしている。
(やっぱり、気絶って……鍛錬効果あるな)
◇
ところで、最近俺の訓練法は進化している。
ただ流すのではなく、負荷とリスクを減らすために“フェーズ管理”を導入したのだ。
⸻
魔力訓練フェーズ(最新版)
1.準備運動(深呼吸)
魔力が乱れないよう、心を落ち着ける。泣きそうな顔をすることで油断演出も同時に達成。
2.第一段階:部分巡回
右腕だけ、左足だけ、など限定ルートで試す。異常を感じたら即中断。
3.第二段階:全身巡回(低速)
過去最大強度を超えない範囲で巡らせる。
4.リスク評価→中断or継続判断
頭痛や視界のにじみが出たら中止。眠気=気絶予兆なので即ミルク補給待機へ。
5.記録
脳内で今日の反省点をまとめて「訓練記録ノート(脳内)」に保存。
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(赤ちゃんにしては、異常な計画性だと自分でも思う)
でもそのおかげで、俺は死なずに、バレずに、強くなれている。
◇
しかし、その慎重設計も完璧ではなかった。
その日の午後──俺はフェーズ2に入った直後、
予想以上に魔力が太く、速く、力強く流れ出してしまった。
(やばい……暴走しかけてる!?)
慌てて止めようとしたが、感覚がすでに遠い。
頭がぼんやり、視界がかすみ、耳鳴りが──
──ぷつん。
◇
次に目を開けたとき、母の胸の中だった。
「リヒちゃん、よしよし〜♡ いい子ね〜♡」
兄の声がした。
「また寝てたね、今日はぐっすりだ」
「寝顔、癒やされるわぁ〜」
「……にしても、最近やけに体温高くない? 気のせいかな?」
ドキッとした。もしかして、バレ……?
「そうそう、赤ちゃんって熱あるくらいが普通なのよ〜」
「そっか〜、じゃあ安心かな〜」
(……セーフッ!!!)
ギリギリのラインで正体はバレずに済んだ。
というか、この一家、基本的にリヒちゃんを“癒し枠”として扱ってる気がする。
だが、今回の訓練でわかった。
俺はもう、通常の“巡回訓練”では伸びづらくなっている。
(……次のステップに移る時かもしれない)
その名も──
(“属性干渉訓練”、略して“属性シェイク”。明日から試してみよう)
こうして、世界一ビビりな赤ちゃんは、気絶と慎重の狭間で新たな進化を始める。
──もちろん、誰にも気づかれることなく。




