第11話 赤ちゃん、空気になる? いえ、隠密訓練です
俺は今、非常に繊細な課題に挑戦していた。
(……そういえば前にも、魔力を抑えすぎて逆に怪しまれたんだっけ)
生後11ヶ月の頃。
気配を消す訓練中、魔力漏れを完璧に封じたつもりだったのに、姉さんの視線がやたら優しかったり、兄さんたちがやたら微笑んできたり――しまいには父上まで不自然に目を合わせてくるようになった。
(あのときは、魔力だけだった……。でも、あれじゃダメだったんだ)
抑えるだけでは、かえって“異常”だと目立ってしまう。
ならば――。
(今度は、もっと自然に、もっと徹底的に。存在そのものを、空気のように……!)
目標は「気配遮断」――赤ちゃん界のステルススキル。
呼吸音、視線、体温、振動、すべてをコントロールして「そこにいて当然だけど、誰も気にしない」状態を目指す。
(赤ちゃんらしく、何もしていないようで……実は全力で“存在を抑えている”!)
俺の戦いは、新たなフェーズに突入したのだった。
◇ ◇ ◇
まず手をつけたのは、「魔力の流れを断つ」ことだった。
魔力というのは、意識して使わなくても微量に身体を循環している。
特に感情の起伏があると自然に活性化し、周囲の敏感な人間には“気配”として感じ取られてしまう。
(これは……放射熱みたいなものか。だったら、閉じる!)
俺は全身の力を抜き、呼吸を浅くし、心拍を抑えながら、魔力の巡りを極限まで低下させた。
心の中で何度も唱える。
(俺はいない。俺はいない。空気。壁。ただの赤ん坊の皮をかぶった布きれ……!)
集中に集中を重ねたその瞬間――
「リヒちゃーん……あれ? いない?」
部屋のドアが開き、姉さんが顔を覗かせた。
「え? えっ? あれ、さっきまでベッドに……え? えええええ!?」
慌てて駆け寄ってくる姉の姿を、俺は静かに見つめていた。
今、俺はベビーベッドの中にいる。さっきと何も変わっていない。
ただ、完璧な脱力と魔力制御で、存在感を“ゼロ”に近づけていただけだ。
「……あれ? いた。え? でも、さっきは確かに空っぽだったような……?」
姉さんは眉をひそめて、首をかしげる。
(ふっ……これが、ステルスモードだ)
手応えあり。
◇ ◇ ◇
昼。
さらに精度を高めた俺は、“移動型ステルス”に挑戦していた。
ベビーベッドからそっと抜け出し、床をはいはいで進む。
あくまで自然に、ゆっくり、視線の死角を通り抜けながら移動する。
(心拍、呼吸、音、振動……全部最小。完璧に“赤ちゃんの幽霊”になりきる……!)
目指すはソファの下。狭くて暗い、気配遮断の理想的な訓練場所だ。
「リヒちゃーん? おむつ替えの時間ですよ〜?」
乳母のエルナさんが現れる。
彼女は優しくて、観察力も鋭い。
(バレるな……今は動かない……)
息を止め、完全停止。
「……? あら、どこ行ったのかしら……。あらあらあら、これは大変!」
あっという間に大騒ぎになった。
「リヒトが……いない!?」
「えっ、どこ!? 家の中でしょ!? さっきまでいたよね!?」
「姿も魔力反応も感じられない……まさか転移魔法!? そんなはず……!」
(だからちがうってばぁぁあ!!)
俺はソファの下で全力で泡を吹いた。
しかし音も泡も吸収され、誰にも届かない。
(……完璧すぎた。これは……隠れすぎたパターンだ)
◇ ◇ ◇
結果的に、兄さんが「もしかしてソファの下かも」と気づき、俺は発見された。
「……いた」
「あああああ、良かったぁぁぁぁぁ!! もう心配したんだからぁぁ!!」
姉さんが泣きながら抱きしめてくる。嬉しいけど、苦しい。
家族は安堵しつつも、何か思いつめたような顔をしていた。
「……この気配の薄さ、ただの偶然じゃない気がする」
「ねえ、もしかしてだけど……リヒちゃん、魔法使ってない?」
「それか……“神の加護”?」
「またそれ……」
兄弟たちの中で、俺の“異常性”への評価が、ますます高まっていくのを感じる。
俺はただ、目立ちたくなかっただけなのに。
◇ ◇ ◇
その晩、俺はベビーベッドの中でひとり静かに目を閉じ、魔力の流れを見つめていた。
(……前は、ここまで長く持たなかったな)
静かに巡る魔力の流れ。
その制御は、かつて泡を吹いていた頃と比べると雲泥の差だった。
今では、一糸乱れぬ細さで筋肉の間を通し、神経をなぞり、体内に均等に巡らせることができる。
魔力の総量も、わずかずつだが確かに増えている。
気絶の頻度が減り、むしろ“気絶する前に止める”調整まで可能になっていた。
(あの頃の俺が見たら、卒倒するだろうな……)
それでも、まだ足りない。
世の中には、もっともっととんでもない奴がいる。そういう相手と出会うその日までに、備えておかなくては。
(俺は強くなりたいわけじゃない。ただ、生き残りたいだけだ)
だから今日も訓練をするし、準備を怠らない。
身を隠し、気配を断ち、誰にも気づかれずに。
(……でもやっぱり、隠れすぎたかもな……)
夕方の一件を思い出す。
俺の“存在消失訓練”は、あまりに成功しすぎて――
「リヒトが転移したのでは?」という家族の会話まで生まれてしまったのだ。
(隠れてただけなんだけど……な)
そもそもステルスを始めた理由も「バレないように」だったのに、結果的に「目立ちすぎた」という矛盾。
(……なんで……)
ふぅ、と泡を一つ吹いて、俺は天井を見上げた。
これだけの魔力量を、気づかれないように極小に調整して運用できるのは、今や自分でも少し誇れる成果だ。
でも、その努力は……報われるどころか、逆に“超常現象”として扱われている。
母の声、兄たちの焦る足音、姉さんの「神様の加護では!?」の声。
どれもこれも、俺の努力を斜め上に評価している。
(……まぁいい。備えがすべてだ。誤解されようが、目立とうが、命があればそれでいい)
明日もまた、訓練は続けよう。
準備こそ、すべての戦いの始まりだ。
――こうしてまた、世界一慎重なビビりは、
今日も訓練していただけなのに、周囲の勘違いがさらに強化されていくのであった。
読んでいただきありがとうございます。
本作品は生成AIと協力して執筆しています。
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