第9話 赤ちゃん、立つ!? ……いえ、魔力のせいです(たぶん)
――一歳児リヒト、任務完了。
そう胸を張って(物理的には張れない)、火と出血と泡の危機を乗り越えた俺だったが、安心してはいけない。
むしろ――ここからが本番だ。
なにせ、俺には重大な目標がある。
魔力制御だけでは足りない。
いずれ来るかもしれない危機に備えて、“身体強化”の訓練も始めなければならないのだ。
あの森に入って訓練をするためには、歩ける身体が必要だ。
だが、ただ歩ける程度では不十分。最低限、逃げる、転ばない、隠れる程度の筋力と敏捷性は要る。
(……よし、そろそろ始めるか)
俺はいつものようにベビーベッドの中、ふにゃふにゃの両足を上げ下げしながら、魔力を集中させる。
(まずは足への魔力供給……。目標は筋肉繊維への細かい浸透と増幅反応……!)
もちろん、普通の赤ん坊には無理な芸当だ。
だが、俺には“前世の知識”がある。人体構造、筋力の動き、応急処置、そして何より、無理をすれば身体が壊れるという現実を。
(慎重に……慎重に……。筋肉痛なんて笑い事じゃない。骨にひびが入るレベルになる)
魔力を一筋の糸にして足の内部へと送り込む。
たったこれだけでも、全神経を集中させなければならない。
「ぷ、ぷー……ぅ……」
あまりの集中に、思わず口から空気が漏れる。
赤ちゃん特有のよだれが泡になって、また「ぷしゅー」と吹き出した。
この“泡噴出”はもはや恒例になっているが、家族からは「今日も元気」と勘違いされている節がある。違う、これは修行の副作用だ。
(くっ……足の裏が熱い……でも、悪い感覚じゃない。力が満ちる……!)
俺はさらに魔力を込める。
すると――
「――っ!」
ビクン、と足が跳ねた。
次の瞬間、ずるっと寝返りを打ち――
「……あっ」
グラッ。
身体が、勝手に――立ち上がった。
ほんの一瞬。たったの一秒。
だが、確かに俺は、足で“立っていた”。
赤ちゃんとしては驚異的なことだ。いや、もはや怪異の域だろう。
(……しまったぁあああああ!!!!!)
俺の中で警報が鳴り響く。
これでは“異常”がバレる。
魔力操作どころか、身体強化まで手を出していると知られたら――!
バタリ。
俺はそのまま勢いよく倒れこみ、ベッドの柵に頭をぶつけた。
「……ぷすー……」
反射的に、泡を吹いて気絶のフリをした。
なにせ、これまでの経験上、“泡を吹いていれば心配されるが疑われない”という有用な偽装手段だったからだ。
「リヒちゃーん!?」
案の定、姉の声が飛んできた。
ドアがバンッと開いて、真っ先に飛び込んできたのは姉さんだ。誕生日パーティの翌日でテンションが高いのか、寝間着のまま。
「リヒちゃんが泡吹いてるっ!? 今度はなに!? またケーキ!? それとも! また煙!? 毒!? え、もしかして魔物!? こ、今度は何を吸い込んだの!? ねえ!? 誰か!!」
「姉さん、落ち着いて」
冷静な兄さん(長兄)が登場。寝癖のまま眼鏡を押し上げながら、俺を抱き上げて診察を始めた。
「脈は正常。呼吸もある。目の動きも正常……ただの気絶、かな」
(さすが兄さん、判断が早い……)
「でも、おかしいな。さっきまで寝てたのに、ベッドの柵に頭ぶつけたって、どういうこと?」
……うっ。
鋭い。兄さん、やはり優秀だ。
そしてその視線は次第に――俺の足元へ向かっていく。
(やめてくれぇ……! お願い、そこは見ないで!)
足の筋肉は若干、張っている。
魔力による微細な強化の痕跡が、もし見抜かれれば――言い訳がきかない。
「……リヒト、ちょっと足、むちっとしてない?」
「わあっ、ほんとだ! 昨日よりプリプリしてる~!」
姉さん、無邪気に頬ずりしないで。
それ、強化した筋繊維が張ってるだけなの。可愛いわけじゃないから。むしろ危険信号だから。
「……でも赤ちゃんってそういうものかもね。日々成長ってやつ」
「そうかもね。少し様子を見ようか」
どうにか疑惑の渦をかわしつつ、俺はそっと安堵の息を吐いた。
泡も少しだけ吐いた。
(……あぶなかった……)
(次はもう少し慎重に……いや、むしろ“転倒演技”を磨いた方がいいか?)
そう考えながら、俺は決意を新たにする。
“準備”はまだまだ足りない。
身体強化、反射神経、姿勢制御、そして……不自然な行動をごまかす演技力。
(ビビりながらでも、俺は進む……。準備だけは、怠らない……!)
今日もまた、赤ちゃんのふりをしながら――
慎重すぎる“成り上がり”が、一歩ずつ進んでいくのであった。
読んでいただきありがとうございます。
本作品は生成AIと協力して執筆しています。
コメントくださぁぁぁぁぁい orz
評価お願いしますーーーorz




