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プロローグ 目立ちたくない

初めまして

ちゃらんです

初投稿なので心を広くしてお読みください。


 


 カツン……カツン……。


 靴音だけが響く、夜の地下通路。

 終電を逃した俺は、帰宅ルートを切り替え、古びた地下街の通路を歩いていた。


 救急救命士という職業柄、残業は多いし不規則だ。だが今日の帰りは妙に静かだった。

 不気味に、静かだった。


 ──その違和感に気づいた時には、遅かった。


 


 背後から響いた「ガシャアァンッ!!」という爆音。

 天井の一部が崩れ落ち、目の前にいた親子がその場に凍りついた。


 子供が、ちょうど瓦礫の落下地点にいた。


 


「あぶないっ!」


 


 咄嗟に飛び出し、子供を抱きかかえ、母親へと突き飛ばす。

 間に合った。そう思った。


 ……だが、次の瞬間。


 


 頭上から鋼材が振ってきた。


 


 あ、まずいな──

 その冷静な判断を最後に、視界がぐにゃりと歪んだ。


 



 


 目を開けたとき、そこは真っ白な空間だった。


 床も、天井も、壁もない。ただただ、光に包まれた空間。

 意識ははっきりしているのに、身体の感覚がない。


(……あぁ……死んだのか、俺)


 


 納得はしていた。職業的にも、死と向き合う日々だった。

 だが、まさか本当に自分が死ぬとは。しかも、あのパターンで。


 状況を整理しようとした矢先、ふわりとした光の塊が目の前に現れた。

 中に浮かぶ白いローブの存在。性別も年齢も、輪郭すら曖昧なのに、そこには確かに“威厳”があった。


 


「ようこそ、魂の間へ。我はこの世界を管理する者……いわゆる、神のようなものだ」


 


 やっぱり来た、こういうやつ。


 


「ああ、大丈夫。驚かなくてもいい。君は、非常に珍しい“善行の魂”であると記録されていた」


「……善行?」


「うむ。君の行いは、誰かに頼まれたわけでも、栄誉のためでもなかった。ただ静かに、人々の命を救い続けた。それは我々の間でも話題になっていてな」


(え、いやいや……ただ仕事をしてただけで……。)


 


 突然の高評価に、正直、ちょっと居心地が悪い。

 こちとら“褒められると死にたくなる系ビビり”だ。


 


「そこでだ。君には、第二の生を与えようと思っている」


「へ?」


「いわゆる転生だな。新たな世界、新たな肉体、そして──スキル」


 


 ……出た。スキルとかチートとか、よくあるやつだ。


 


「安心せよ。君のポイントは非常に高い。“準備型才能枠”で五枠は取れる」


(なにその“準備型才能枠”って……怖い……絶対なんかバレてる……)


 


「あ、あの……失礼ですけど、そのスキル……って、強いとか派手とか、そういうのだったりします?」


「うむ、もちろん。魔法制御、自動防御、危機察知、自律展開スキルなど──」


 


「や、やめてくださいぃぃぃ!!」


 


 反射的に叫んでいた。神様、ちょっとびっくりしてる。


「えっ、あ、すみません、いきなり大声で……。でも、あの、できれば……そ、その……普通が、いいんです……」


「……普通?」


「はい。目立つのは苦手でして……。安全で、ひっそり暮らせる人生を、こう……地味に、ですね……。あと、また死ぬのはちょっと、できれば避けたくて……」


 


 俺は真剣だった。心底からのお願いだった。

 戦いたくないし、英雄になりたくもない。むしろ村の草むしり係とかでいい。


 


 神様はしばし無言で俺を見つめていたが、やがて「ふむ……」と頷いた。


「分かった。では、“スキルなし”で、赤ん坊として生まれ変わるがよい。場所は、安全な地方貴族の家だ。命の危険も少ない」


「えっ、本当ですか……!? あ、ありがとうございますっ……!」


 


 正直ホッとした。これなら、静かに生きられるかもしれない。


 


 ──だが。


 


「さて……彼が消えたか……」


 


 神は微笑んだまま、俺のいなくなった空間に向けてぽつりと呟いた。


 


「……彼のような魂は、こちらも“保険”をかけておきたい。危機回避・魔力制御・自律結界あたりを、本人に気づかれぬよう……“努力次第で開花”する形式にしておこう。そう、あくまで準備だ、準備」


 


 神の手がふわりと振るわれ、静かに魔法陣が描かれた。


 


「……がんばれ。世界一ビビりな子羊よ」


 



 


「おぎゃあ……おぎゃ……あぶっ……ぶふ……」


 


 身体が……重い。というか、ちいさい。うまく動かない。

 だけど、意識だけははっきりしていた。


(うわ、ほんとに……生まれてる……)


 


 目の前には、美しい金髪の女性がいた。泣きながら、でも満面の笑顔で俺を抱いている。

 その隣には、整った顔立ちの優しげな男──優男風の父親だ。

 涼しげな目元と、すらりとした輪郭。その奥に、微かに鋭さを感じさせる雰囲気がある。


「この子の名前は……リヒトにしましょう」

「……光のように、やさしく、まっすぐに」


 


 ──リヒト。そう、俺の名前は、リヒト。


 


 世界一ビビりな赤ちゃんとして生まれた俺は、

 自分が望まなかったスキルを抱えたまま、静かに、でも確かに──第二の人生を踏み出した。


 


(……あの神様……やっぱりなんか仕込んだだろ……)


(いやな予感しかしない……)


 


 そして物語は、始まる。


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