プロローグ 目立ちたくない
初めまして
ちゃらんです
初投稿なので心を広くしてお読みください。
カツン……カツン……。
靴音だけが響く、夜の地下通路。
終電を逃した俺は、帰宅ルートを切り替え、古びた地下街の通路を歩いていた。
救急救命士という職業柄、残業は多いし不規則だ。だが今日の帰りは妙に静かだった。
不気味に、静かだった。
──その違和感に気づいた時には、遅かった。
背後から響いた「ガシャアァンッ!!」という爆音。
天井の一部が崩れ落ち、目の前にいた親子がその場に凍りついた。
子供が、ちょうど瓦礫の落下地点にいた。
「あぶないっ!」
咄嗟に飛び出し、子供を抱きかかえ、母親へと突き飛ばす。
間に合った。そう思った。
……だが、次の瞬間。
頭上から鋼材が振ってきた。
あ、まずいな──
その冷静な判断を最後に、視界がぐにゃりと歪んだ。
◇
目を開けたとき、そこは真っ白な空間だった。
床も、天井も、壁もない。ただただ、光に包まれた空間。
意識ははっきりしているのに、身体の感覚がない。
(……あぁ……死んだのか、俺)
納得はしていた。職業的にも、死と向き合う日々だった。
だが、まさか本当に自分が死ぬとは。しかも、あのパターンで。
状況を整理しようとした矢先、ふわりとした光の塊が目の前に現れた。
中に浮かぶ白いローブの存在。性別も年齢も、輪郭すら曖昧なのに、そこには確かに“威厳”があった。
「ようこそ、魂の間へ。我はこの世界を管理する者……いわゆる、神のようなものだ」
やっぱり来た、こういうやつ。
「ああ、大丈夫。驚かなくてもいい。君は、非常に珍しい“善行の魂”であると記録されていた」
「……善行?」
「うむ。君の行いは、誰かに頼まれたわけでも、栄誉のためでもなかった。ただ静かに、人々の命を救い続けた。それは我々の間でも話題になっていてな」
(え、いやいや……ただ仕事をしてただけで……。)
突然の高評価に、正直、ちょっと居心地が悪い。
こちとら“褒められると死にたくなる系ビビり”だ。
「そこでだ。君には、第二の生を与えようと思っている」
「へ?」
「いわゆる転生だな。新たな世界、新たな肉体、そして──スキル」
……出た。スキルとかチートとか、よくあるやつだ。
「安心せよ。君のポイントは非常に高い。“準備型才能枠”で五枠は取れる」
(なにその“準備型才能枠”って……怖い……絶対なんかバレてる……)
「あ、あの……失礼ですけど、そのスキル……って、強いとか派手とか、そういうのだったりします?」
「うむ、もちろん。魔法制御、自動防御、危機察知、自律展開スキルなど──」
「や、やめてくださいぃぃぃ!!」
反射的に叫んでいた。神様、ちょっとびっくりしてる。
「えっ、あ、すみません、いきなり大声で……。でも、あの、できれば……そ、その……普通が、いいんです……」
「……普通?」
「はい。目立つのは苦手でして……。安全で、ひっそり暮らせる人生を、こう……地味に、ですね……。あと、また死ぬのはちょっと、できれば避けたくて……」
俺は真剣だった。心底からのお願いだった。
戦いたくないし、英雄になりたくもない。むしろ村の草むしり係とかでいい。
神様はしばし無言で俺を見つめていたが、やがて「ふむ……」と頷いた。
「分かった。では、“スキルなし”で、赤ん坊として生まれ変わるがよい。場所は、安全な地方貴族の家だ。命の危険も少ない」
「えっ、本当ですか……!? あ、ありがとうございますっ……!」
正直ホッとした。これなら、静かに生きられるかもしれない。
──だが。
「さて……彼が消えたか……」
神は微笑んだまま、俺のいなくなった空間に向けてぽつりと呟いた。
「……彼のような魂は、こちらも“保険”をかけておきたい。危機回避・魔力制御・自律結界あたりを、本人に気づかれぬよう……“努力次第で開花”する形式にしておこう。そう、あくまで準備だ、準備」
神の手がふわりと振るわれ、静かに魔法陣が描かれた。
「……がんばれ。世界一ビビりな子羊よ」
◇
「おぎゃあ……おぎゃ……あぶっ……ぶふ……」
身体が……重い。というか、ちいさい。うまく動かない。
だけど、意識だけははっきりしていた。
(うわ、ほんとに……生まれてる……)
目の前には、美しい金髪の女性がいた。泣きながら、でも満面の笑顔で俺を抱いている。
その隣には、整った顔立ちの優しげな男──優男風の父親だ。
涼しげな目元と、すらりとした輪郭。その奥に、微かに鋭さを感じさせる雰囲気がある。
「この子の名前は……リヒトにしましょう」
「……光のように、やさしく、まっすぐに」
──リヒト。そう、俺の名前は、リヒト。
世界一ビビりな赤ちゃんとして生まれた俺は、
自分が望まなかったスキルを抱えたまま、静かに、でも確かに──第二の人生を踏み出した。
(……あの神様……やっぱりなんか仕込んだだろ……)
(いやな予感しかしない……)
そして物語は、始まる。




