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拾われ少年と神獣の契約学園  作者: ヴェロフ
3/5

第3話: 《共鳴試練・壱──炎牙と鬼神の連携乱舞》

――夢を見ていた。

 夜の闇の中で、誰かが笑っていた。

 炎の匂い、血の味、風の音。どれも懐かしいようで、怖くもあった。


 その中で、確かに手を握られた気がした。


 「起きろ〜漣焔ぁ〜。朝の儀式だ〜!」


 がばっ!と布団が剥がされる。

 同時に、真冬の朝のような寒気が全身を包み――


 「さみっ!? おい待て、なんだ儀式って!? それ布団だぞ!」


 「いやぁ〜、人間って朝が弱いんだなぁ。起きるの遅いもん」


 顔をのぞき込んでくるのは、あの角と狐耳――じゃなかった、酒吞童子。

 見た目は人型、白髪に赤い瞳。悪戯っ子そのものの笑顔で、布団をマントのように羽織って仁王立ちしている。

「……お前、そこオレのベッドな?」


 「え、気にするなって。オレ、お前の影の一部なんだから」


 「そういう理論展開やめろ、頭が痛くなる」


 昨日の共鳴の儀以降、酒吞童子はずっと傍にいた。

 「英霊は、基本的に宿主と一定距離は離れられません」――なんて授業で説明されていた気もするけど、まさか四六時中くっついてくるとは。


 「ていうかさ、勝手にツマミ食いすんなよ。それ非常食だから」


 「いやいや〜、この芋けんぴうまいぞ? 一緒に食べようぜ、朝けんぴ!」


 「朝けんぴって言葉はじめて聞いたわ……」


 漣焔は思わず笑ってしまう。

 変な奴だ。でも、嫌いじゃない――いや、むしろ。


 「……うん、なんか。変に落ち着くな」


「そりゃそうだろ? オレとお前、もう心が繋がってんだしさ!」


 ドヤ顔で言う酒吞童子に、枕をぶん投げた。

漣焔が枕を投げた瞬間、それを空中でしゅっと受け止める影があった。


 「――まったく、何朝から騒いでるの?ふたりとも」


 穏やかで、それでいてちょっとだけ呆れた声。

 部屋の窓枠に軽く腰掛けていたのは、緋花だった。

 艶やかな狐色の髪を風に揺らしながら、尻尾をふわりと揺らして笑っている。


 「朝ごはんできてるわよ。冷めないうちに降りてきなさい。……酒吞もね、漣焔の体力は有限なんだから、ほどほどにしてあげなさい?」


 「え〜? オレ悪くないだろ? 起こしてやったんだし!」


 「……布団剥がして芋けんぴ食べてたやつが何言ってんだよ」


 「あははっ。あんた達って、ほんとに仲良しね」


 緋花は目を細めて、ふたりのやりとりを楽しそうに見ていた。

 狐耳がぴくりと動き、少しだけ優しさを込めた声で続ける。

「それじゃあ、ご飯のあと、今日のクラス分けのために講義棟に行くのよ。英霊憑依適性者は、初日から講義あるから、忘れずに」


 「はーい、わかったー!」

 「緋花姉さん、ありがとう。後で行く」


 漣焔は立ち上がり、上着を羽織る。

 その肩には、すっと酒吞童子が並んで立つ。


 「ま、せっかくだからさ。授業ってやつも見物しとくか。共鳴済みの英霊ってのは、どんな扱いされるか興味あるしなぁ?」


 「……お前が一番トラブルの種なんだけどな」


 そんな他愛もない会話のまま、ふたりは朝食へ向かった。


 外は快晴。

 ここから、漣焔の“共鳴者”としての学園生活が、本格的に始まろうとしていた――。


講義棟――学園でも特に大きな建物のひとつで、各分野に分かれた特別適性者用のクラスが集められている。

 漣焔が割り当てられたのは、英霊適性者専門の「英霊共鳴特別科」。受講者はほんの数名だけで、教室もひときわ静かだった。


 「――えーっと、これが俺の席か……あ、ども」


 「あ、君が“新しい子”ね?」


 教室に入るなり、声をかけてきたのは眼鏡をかけた少女。知的な雰囲気で、制服の着こなしもきっちりしている。


 「私は風見ユリア。このクラスの委員長みたいなものよ。よろしくね、神裂くん」


 「うん、こちらこそ……」


 すると、その横からさらに小柄な少年がひょこっと顔を出した。

すると、その横からさらに小柄な少年がひょこっと顔を出した。


 「おぉ〜、おまえが“英霊と共鳴したばかりの子”か。すげぇよなぁ、初日で試練突破なんて!」


 「う、うん……まぁ、いろいろあったっていうか……」


 (……というか、なんでこんな情報早いんだ……)


 他にも生徒は数人いたが、どこか“特別”な空気を持っていて――普通のクラスとはまるで違う雰囲気だった。


 「――では、授業を始める前に、本日の特別追加生徒について説明を……」


 教壇に立ったのは、黒髪ロングで長身の女性教師。鋭い視線でクラス全体を見渡しつつ、手元の資料を広げる。


 「昨日、英霊殿にて共鳴を成功させた者が一名。我が学園でも最速記録となります。名前は――神裂漣焔かんざき れんか

「それでは、本人からひとこと挨拶を――」


 「よっ! オレのことも紹介してくれよ、先生!」


 ――ドガァァン!!


 教室の窓が爆音と共に開き、何かが飛び込んでくる。


 「神裂漣焔の影にして、相棒にして、最強の悪戯者! 酒吞童子、参☆上!!」


 「帰れェッ!!」


 「えー!? なんで!? 今の完璧だったじゃん!?」


 教師はこめかみを押さえ、全員が目を丸くしている中で、ひとりだけ笑っている生徒がいた。

 ――漣焔だ。


 「ははっ……お前、ほんとに手加減知らねーな」


 酒吞はひらりと着地してから、教室の床にあぐらをかく。


 「つまんねぇ授業じゃ、相棒が寝るだろ? だから見張りに来たんだよ。ほら、真面目にやれよ〜?」


「……ほんと、頼むから静かにしててくれ……」


 それでも、表情には笑みが浮かんでいた。

 この学園で、波乱の幕開け。

 でも、不思議と不安はない。


 だって――そばには、うるさくて愉快で、強い“相棒”がいるのだから。


夜――月が高く、学園の寮にも静けさが戻っていた。

 その中、男子棟の一室だけがほんのりと明かりを灯している。


 「ふわぁぁ……つ、疲れた……」


 ベッドにバタンと倒れ込み、漣焔は深いため息をついた。初めての授業、予想外の酒吞童子の乱入、英霊共鳴クラスの面々――どれも刺激が強すぎた。


 「……あ、そうだ」


 彼はゆっくりと起き上がり、部屋の片隅に置かれた木札にそっと触れた。


 「――開け、“契約の門”。来い、緋花」


「ただいま、おかえり。お前、今日もがんばったな〜、えらいぞ〜♪」


 そう言いながら、九尾の神獣・緋花がふにゃっと笑って、ベッドに腰を下ろす。

 そのまま尻尾をふぁさりと巻きつけ、漣焔を抱き寄せるようにして撫で始めた。


 「……って、こら、いきなり撫でんな……! まだ授業の余韻が……」


 「ふふん、そんなこと言って、撫でてほしいって顔してるくせに。今日もまたちょっと強くなったじゃないか、うちの子は」


 「……うるさい、緋花はいつも調子いいんだよ……」



 それでも、口元は緩んでいた。

 彼の中で、“帰る場所”という感覚があるのは、彼女がいたからだ。

「それでさ、今日の授業なんだけど――」


 漣焔が語り始めると、緋花はまるで“母親”のように静かに聞いていた。

 酒吞童子との共鳴、教室の混乱、そして授業中の爆笑の一幕。


 「……で、アイツ、窓割って入って来たんだぜ? いきなり『参上!』とか言って。まじで勘弁してくれって感じだった……」


 「ぷっ……あははっ、それ、想像以上に迷惑だねぇ。……でも、そういう子ほど、案外頼りになるもんさ」


 「……うん、アイツのこと、嫌いじゃない」


 「んん? 好きなんだ?」


 「ち、ちげーよ! そういう意味じゃ――」


「ふふっ、赤くなってる赤くなってる〜♪」


 「緋花あああああ……!」


 大の男が九尾の神獣にぐりぐりされている――そんな微笑ましい夜の一幕。


 でも、漣焔の心はどこか、ほっとしていた。

 どんな一日だったとしても、

 この場所に戻れば、ちょっと笑える時間がある――


 それが、彼の支えになっているのだ。


 「明日も、がんばる……か」


 「うん。……明日もちゃんと撫でてあげるから、ね?」

夜の闇に包まれた寮の一室。漣焔と緋花がほっこりした時間を過ごしていると――


「おっす! 寮の窓、借りるぜ〜!」


突然、酒吞童子がにやにやしながら窓からするっと侵入。漣焔の肩をつかんでぐいっと引っ張る。


「な、なに勝手に入ってきてんだよォ!? ふざけんなよ〜!」


「遊びに来ただけだよ、相棒。今夜はな、ちょっとした“夜の冒険”だ!」


緋花も尻尾をふわっと揺らしながら笑う。


「またかよ……でも、こういうの、嫌いじゃないけどな」


酒吞童子が満面の笑みで、漣焔を寮の外へと連れ出す。

「さあ、行くぞ! 漣焔の真の試練はこれから始まるんだぜ!」

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